第18話 希望か後悔か

息子の部屋からダイニングに降りてきて、ソファに腰から倒れこむように座ると、長いため息をついた。

内に溜まっていた何かを全て吐き出すようなため息だ。




もう、知らなかった頃には戻れないのだろう。




あの子を救ってあげたい。

でも何を選ぶのが正解なのか分からなくなってしまった。

つい数時間前までは時を止めることこそ正しいと思っていたのに。

共に生きている息子まで失っては自分の心がもたない、そう感じた。




静かな夜が私を責めているようだ。

身動きが出来なくなる。

視界に入ったリモコンを手に取り、ボタンを押した。人の笑い声がしてテレビがついたことがわかったが、顔は俯いたまま。


ただ逃げたかった。



目を覚ますんじゃないかという希望は、数ヵ月でなくなった。

1年経つと、生きていることが幸せになった。そう思うことにした。

何年も経つと、そこにいるのが当たり前になった。



小さな手に触れると温もりがある。

死んではいないということが、奇跡だと思うようになった。





私は元々大きな野望などはなく、小さな幸せがたくさんあれば良いなという考えの人間。出世欲もあまりなく、仕事が出来るのに勿体ないと同僚に言われたものだ。



それでも何かを願うこと、望むことは人並みにあった。

妻に付き合うためにアプローチする時はいつも他の人に渡したくないと思っていたし、子供はいっぱいいたらいいなと話したこともあった。

家で仕事が出来たら楽なのにという考えが発端で会社を立ち上げたし、仕事を休みにしてまで子供の入学式や運動会といった行事に参加した。





振り返ってみて、案外、私は望みを叶えているんだなと思った。



これ以上の望みなんて………。



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