第16話 発覚

「長く空けててごめんな。帰ってきたよ。」



カツンコツンと革靴が音を高い立てる。

ほっとしているように優しく微笑んで、部屋の中央のベッドまで歩みを進め、掛け布団からはみ出た白くて細い手を、厚みのある大きなその手で包んだ。




「この5日間、どんなことしてたのかな?ご飯は何を食べたのかい?」



疲れが滲む顔が微笑む。しかし心からの笑みだ。

ベッドに備え付けられたモニターをタッチして操作し、そこに文字情報で表示する。天気や食事、気分はどうだったかなど。




「………脈がいつもと違う…。数値も…興奮状態だったのか…?」



さらに各日ごとに時間単位での気分の数値をグラフで表示させると、一日の半分以上に興奮、喜び、集中といった数値が見られる。

こんなことは普段あり得なかった。


そして壁のスクリーンへ今度は彼女が見ていた過去の映像を映し出す。モニターを滑るようにタッチする様は手慣れたものだ。






だが、スクリーンの映像を見て声を失った。




『よく寝たか?』

『うーん、ソーマとお話しすること考えたらワクワクしちゃって寝付けなかった!』

『ははっ、嬉しいけど今日はちゃんと寝るんだぞ。』

『はあーい。あ、ねえねえ、お母様が外に連れていってくれないの。なんでかなあ。』

『……ん、うーん…体が丈夫じゃないからだよ。いつかきっと出られるようになるよ。』

『そうかな…。元気だけどなあ…。』

『それより今日は何が知りたい?』

『んーとねえ!』





この部屋をいつから知っていた?

接触はこの5日間が初めてではないようだ。

あの子は何も言ってなかったのに。


映像の中の少年は、息子の容貌に近い。

そして外へ出たがっていることに不安を覚えた。このままではいけない。記憶を無理矢理修正させるべきか、どうしたらいい?



目覚めても良いことなんてこの子にはない。

まずは、息子を問いたださなくては。

そして先生に訊ねよう。




短いようで長い空白の5日間を、スクリーンで再生しながら暗い気持ちになっていった。

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