第14話 秘密
「ただいま。」
「おかえり、父さん。」
「問題なかったか?ごはんはちゃんと食べてたのか?」
「大丈夫。心配しないでよ。」
玄関を開けて帰ってくるなり、数日前に見た鞄と、始めてみる沢山の紙袋を、絨毯の上にどさっと置いた。
疲れた顔をして、自らもゆるゆると靴を脱ぐ。
「お土産、好きなのいいぞ。」
「やった。」
「お菓子ばっかり食べすぎるなよ。」
「わかってるってー。」
疲れた父は普段よりやや饒舌だった。
話しかけてくれるのは嬉しい。ひとまずダイニングまで荷物を運んであげる。
ここ数日、珍しく出張に行き、久しぶりの遠出にいろいろと緊張したのだろう。ため息の数が多い。
……本当は父に言えないことをした。
あの部屋に、また入ったこと。
荷物をソファの脇に置き、お土産を持って静かに部屋に戻った。
部屋の扉を閉めてそこが一人だけの空間になると、なんだか虚しさを感じて、けれど、それが何に対してなのかは分からなかった。
楽しい5日間だった。
次はいつになるだろうか。
次はあるのだろうか。
お土産よりも妹ともっと話したい。
顔を見て、触れて、俺の方を向いて笑ってほしい。
妹からは質問攻めで、その内容も本来なら知っているはずのことだったけど、小さい子に話すように一つ一つ教えてあげると、目がきらきらと輝いた。
頼りにされるのは誇らしかった。
久しぶりに兄であることを自覚したようだ。
知らないことで、知りたいことなら、いっぱい教えてあげよう。それが俺に今出来ること。
それでいいんだ。それで。
その時はそう思っていた。
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