第10話 世界
その異様な世界は、小さな少女の為に創られた。
その少女は、狭い世界で生きている。
この異様な世界こそ、自分の全世界だと疑わず、毎日流れる単調な時間を当たり前のように受け止めていた。
少女の服の下には無数の線が伸び、その線は一台の機械に繋がれていた。
ダイヤルやボタンがたくさんついた機械は、音をたてず、ただ静かに簡易モニターに波打つ線を表示させている。
白い装飾のついたベッドには同じ白のマットレスにシーツ、時折変わる掛け布団を除けば、何年も変わらないセッティングだ。
話によれば、少女の体は毎日清められ、週1回シーツやカバーは取り替えているらしいから、見たまま、清潔にされているようだ。
ただ、その行為は全てオートメーション。
家事補助ロボットによって行われている。
私には少女が『この日も変わりない』ということを確認するしか出来ない。
ここ数年の決まり文句は
「今日も変わりないですね。」
これを言うと、相手は必ず小さくはにかんで笑顔を見せ、お礼を言ってくるのだ。
このやり取りも当たり前のように繰り返され、何ら疑わずに続けてきた。
本当は、これでは駄目なんだと感じているのに。
小さな少女の世界は、今日は雨のようだ。
憂鬱そうにして窓の外をじっと眺めている。
壁に投影された映像は、少女の世界。
少女はあの頃のままの姿で生きている。
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