第4話 誕生日
外はゆっくりと、時に素早く色を変えていく。
それは美しく壮大で、なのに寂しいと感じることがある。そして懐かしいとも。
どこからその感情がやってくるのかわからない。思い違いかもしれない。でも、もう何度も思い違いかもと考えている時点で、私は成長していないのかしら。
寂しくて懐かしいのは、外が色とりどりの赤や黄色から、やがてまばらな茶色に変わり、そうして白になる頃に多い。
気が付くと赤や黄色の葉が落ちていて、次の瞬間には上からふわふわと綿のような白いものが落ちてくる。
外は私と違って忙しいようね。
白い世界は綺麗だけれど、鳥や虫とは会えなくなるから好きじゃない。みんなどこにいるの。早く顔を見せて。
「シェリー、早くこっちへいらっしゃい!」
お母様だ!…なんだろう。
白い扉は開かれない。お母様が手が放せない時は、私を呼ぶ。こっちへおいでって。その殆どがテーブルの部屋。
私は立ち上がって白い扉の前まで行く。
ノブに手をかけて軽く回すと簡単に開く扉。
今日も簡単に開く。でも開いた瞬間の香りに心が奪われる。
包むような甘いにおい。
その空間は優しくて暖かい。
「今丁度焼けたのよ」
分厚い手袋をはめて、お母様はオーブンから甘いにおいのもとを取り出した。そう、ケーキ!
まだ丸い型の中にいるけれど、この後白いお化粧をして、赤い苺をいっぱい乗せたショートケーキになるのを、私は知っている。
大好きなショートケーキ!またお腹いっぱい食べたいな。
「苺のせるー!」
「まだ早いわ。もう少し待っててね」
お母様はちょっと困ったように微笑んで、分厚い手袋をはずした。
ケーキに近づいたら、触っちゃ駄目よって注意された。それでもなんだかうきうきする。
テーブルには他に美味しそうなお肉や、いろんな色の野菜が入ったサラダに、チーズ、ハム、きのこと魚。
お皿が何枚も並んでいる。あと何分で食べられるかな。
ショートケーキを食べるのは、私が誕生日の日。
産まれてきてくれたことをお祝いする日。
「シエリ、13才の誕生日おめでとう」
隣で祝福したのは、知らない男の人だった。
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