第70話 逃がさない

Night Side

 確かに信頼できる人たちのようだ。つまり、私の勘だ。彼らに空港まで送り届けて貰えることになった。その先のルートも確保済み。一体何に誠実なのやら……


 私たちは彼らの車列の中の一台に座っていた。流れる景色、空や雲、木々を見つめる。そして時々何かの看板が通り過ぎていく。


 そんな時ふと思った。あの頃より、文字から受ける影響は減った。でも、私の想像通りなら、何かに宿った力はそれほど増えも減りもしないはず。考えられるのは、私の力が増したこと。私が強くなったこと。もう一度、みんなと向き合った方が良いんだろうな。でも、まだちょっと手が出しづらいかな。本棚の面積が多いものは。


 その時、何かを感じた。車列の後方に何かを。部隊を率いる隊長に繋いでもらい、話した。


<何かが近づいているような……だが、何も無いのか?>


 確かにはるか後方に何かが居るように見えるがよく見えない。カムフラージュ能力を持つ敵か? 私は眼を凝らす。だが、真偽は掴めず。


「何だこれ? 塵か?」


 同じ車両に居る兵士が顔にあたった何かを手で拭い、言った。


「塵……?」


 その時、思い当たった。この力を使うものが。だが、それが正解だったとして、何故そいつがここに居る? 何故私を追いかけてくるんだ?


<何か来てる! 追いつかれるぞ! 全員―――>


<聴いてるか? バッテリー。 俺がわかるか?>


 隊長の無線が途切れ、そこから別の男の声が聞こえた。私は無線機を貸してもらい話す。


「まさか、ダーケスト・アワー?」


<その通り。塵を飛ばしたのは挨拶の一部だ。覚えていてくれて嬉しいよ>


「何故、お前がここに? 何で私を追ってくる?」


<お前と同じさ。何かを見たから、それを追いかけている。久々に一戦交えるのは運命の悪戯だろうが、俺もそれを望んでいた。存分にやらせてもらう>


 私は無線を置き、全員に警戒を促した。私の知りうる限りを伝えた。だが、あいつの話し方に私と同じところを感じた。最後にあったときよりも、強くなっていると見るべきだ。


 あいつの武器はダスト・ドライヴと名付けた剣だ。振動と共に塵を発生させ、視界を奪う。聴覚にも干渉し、感覚を狂わせ、その隙を突いて攻撃する。


 もう一つはスカルショットと呼ばれる大口径の銃だ。四発撃つと再充填が必要。一発ごとの威力を重視した戦法だ。リロードの隙を突くのがあの頃の私のスタイルだった。今も通じるだろうか?


 最後尾の車両に黒い何かが衝突した。ぶつかったものから塵が飛び去り、中にあったものが姿を現す。F1レースのマシンを改造したような車両。攻撃用の兵器も多数搭載しているようだ。覆っていた塵は私たちに纏わりついてきた。それに注意をとられた所に、銃撃の音が聞こえた。


 一発ごとに最後尾の車両の動きがおかしくなり、四発目で爆発した。


「これは……まずい……」


 私はブラックバードのことを守ってもらう事を兵士に頼み、後ろの車両の運転手に合図する。そして、その車両に飛び移った。そしてそれを繰り返す。その間にもう一台撃破された。


 この車列には予備の兵器が多く搭載されていた。重火器や刃物の類もたくさんあった。そして、一台にはバイクが多数積まれている。何のためかはわからないが、そういう依頼だった、と隊長は言った。おそらく、ハドソンはこの事態も予想していたのだろう。私はバイクの前に持ってきたブローグ・ヒャータを置く。ガーゴイル用に調整していたものだが、どうにか応えて貰えたようだ。バイク四台は機械仕掛けの馬となって現れた。私が乗り込み、外へ出る。


 四体でダーケスト・アワーの車両に体当たりし、車列から引き離していく。巻き上げられた塵を引き連れながらの攻撃。そして他の三体にも人が跨っているように形作った。体当たりを繰り返していると側面の一体が破壊された。しばらくしてもう一体も。私は二体で左右から同時攻撃を仕掛ける。ダーケスト・アワーが銃撃するとともに車に飛び移る。それと同時に鈍いナイフで運転席を突き刺した。だが、攻撃は届かない。ダスト・ドライヴで防がれた。ダーケスト・アワーは運転席から立ち上がり、私とつばぜり合いの体制になる。


 こういう時は、妙な所へ注意が向いてしまう。力を抜くことは出来ず、気も抜けない状況。その筈だが、目の前の男の状態が目に入る。表情は険しくも楽しんでいるように見える。腕の力は強い。右利き。足場が不安定だ。ここを崩せば勝機が見えるかも。この車の動力は私の足元だ。振動で感じる。刀身が太めの剣。そこに漢字が彫ってある。「虎」とある。どこか歪だ。比較的新しいんじゃないか? 塵を目や鼻や耳に送り込む。少し注意が逸れる。右から機械の馬が突進してくる。左腕に持った銃で機械の馬を撃った。私は後ろに重心を移し、ダーケスト・アワーの体制を崩す。そのまま鈍いナイフで斬りつけ、足元を貫いた。


 後ろに飛び去ったのが一瞬速かった。爆風で吹き飛ばされながらも、味方の車両の上に落ちることができたようだ。遠ざかっていく炎を見ながら思った。


 剣に虎の文字、ということは、やはりあいつがそうなのか…? 私を追ってきた。ずっと前から……

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