第71話 希望の道

Night Side

 どうにか日本までたどり着けた。ずっと警戒を緩めることが出来なかったが。あいつを撃退したが、まだ何かを感じる。あいつはまだ生きている。


 "G.O."付近まで送ってくれる車両に乗りながら、うつらうつらとしてしまう。隣のブラックバードが私にくっついてきた。安心するよ。ありがとう。でも、これじゃ逆だよね。


「あなたは、世界中の全てがインチキに見えているんでしょうね」


 フィービー・コールフィールド……


「盲目の救世主。君はまさに人類の象徴だ。ただ楽にしてもらう事だけを待っている」


 エージェント・スミス……


「『眠れる奴隷』であることを祈ろう」


 スコリッピ……


「力を持ち、それを振るいながらも、自らの意志とは違うもののために動いてしまう。もしかしたら、今の私たちさえも。この世界の状況を今のあなたはどんな言葉で表す?」


 スリーピング・アウェイク・コンプレックス……



 体をゆすぶられて目が覚めた。どうやら眠ってしまったらしい。隣のブラックバードも眠っている。私はお礼を言って送ってくれた人々と別れ、ブラックバードを抱えながら歩いて行く。夕暮れの中、巨大な壁がそびえたつのが見える。もうすぐ帰れる。だけど、この子は連れて行けない。ずっと一緒にいたのに、なぜかそう感じる。私とは別れなくちゃいけないんだ。


 私は近くのホテルの部屋を借り、彼女を預けることにした。誰かに連絡すれば迎えに来てもらえるだろう。ベッドに寝かせる時に彼女が言った。寝言だろうけど。


「わたし……実有といたい……ずっと……いっしょに……」


 私はそのまま部屋を出る。ホテルから出て近くの公衆端末へ向かった。


 私はこの旅の間も考えを巡らし、想像していた。私たちの周りの状況、そしてそれを突破するためのイメージ。それが今なんらかの形となって現れる。多くは言葉、そして映像で。私が見出した一つの技。負の流れからの逃亡、そのヴィジョン。


 A Vision of the Escape from Negative Flow


 きっと、みんながそれぞれの技を磨いてきた。その結実となったのが『優しい忘却』。それによって私は守られた。


 もしも私の予想通りならば……


 公衆端末で番号を押す。


「この電話番号は現在使われておりません……番号をお確かめになり、もう一度おかけ直しください……」


 そのまま10秒ほど待つ。そして、私は言った。


「優しい隣人を装い、隙を見つけて全てを奪い尽くす。その覚悟と責任をもって大きな力に、私はすがる」


 受話器から音声が流れる。


「連絡先の番号を押してください」


 私は話す。


「緊急事態なので、この場でお願いしたい。そして、その後の私の働きが支払いになるはず。どうにか繋いでもらえない?」


「少々お待ちください……」


 しばらくしてから別の声で応えられた。


「こちらはヴェノム・スパイダー・コンシェルジュです。どのようなご用件でしょうか?」


「一人呼び出し欲しい男がいる。場所は―――――」

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