第69話 流浪流転

Night Side

 記憶を手繰り、扉の制御装置の場所へ向かう。少し離れた場所に作ったのが幸いだった。かつての友人たちは、その場所を明かさなかったのだろう。ありがたいよ、本当に。


 だが、私がそこに向かうとともに地響きが起こる。それが徐々に強くなる。人々の声も大きくなる。戦闘が始まってしまうか。今のハドソンには私の気配を探ることが容易かもしれない。どれだけ隠しとおせるか。詳細が見えないゆえに恐ろしさは際立つ。怒号や悲鳴やおそろしげな鳴き声がそこで起こっていることを示す。リメイク版の宇宙戦争? そんなこと考えている場合じゃない。


 静止状態を保ち匍匐前進で進み、どうにかたどり着いた。地面を探ると人工物の手触りがあった。動いてくれよ、と念じてスイッチを押す。電源が入り地面が盛り上がる。コンソールが現れた。


 立ち上がって鍵を準備する。目の前には怪物と闘う兵士たち。大きめの兵器もあるが、効果はそれほど無いようだ。ハドソンの仲間も居ない。逃げたか、死んでしまったか、何にしても酷い光景だ。記憶がよみがえる。奴らを閉じ込めた時、私は大声で叫んだ気がする。だけど、何を叫んだか思い出せない。


「ハドソン!」


 怪物が私の方を見た。周りの兵士たちも戦いを止めた。何が起こったかわからず戸惑っているんだろう。今しかない。


「いい!? 奴らが居る所への扉を開ける! その後は、あなたに任せる! 私はそれだけやったら帰る! 少し待ってて!」


 私はコンソールにフラッシュメモリをセットし、スイッチを押した。


 街の中心部にある広場が振動し、地面に穴が開き、それが広がっていく。何重にもあった仕掛けが徐々に解かれて行く。街の中心には大きな穴が開き、降りるための階段やエレベータが現れる。案内板が表示され、ナビゲーション音声も流れている。


 私はハドソンを見て、両手を挙げた。


 ハドソンはその穴に飛び込んだ。街の住人や兵士たちは呆然としている。座り込んだり、倒れてしまう者も多かった。


 私はそのまま後ろを向き走っていった。下らせていたブラックバードを抱えて、更に走る。転んでしまい、二人で泥まみれになった。それでも私は走った。ブラックバードも走っていた。


 走りながら、こんなことを考えていた。


 エコノミック・エンパイアは私たちからすると、未開の部族と同じように見えないか? もしも、そこに特殊な存在が紛れ込んだとしたら? 彼らはその存在を恐れながらも、強さに惹かれ、自分たちの可能性を開花させ、新しい世界を見せてくれることに希望を見出す。やがて、その存在を守ろうとする。外へと向かわないように閉じ込めようとする。


 さながら、アフリカの奥地にやって来た象牙採取人か。もしくはベトナムの奥地に向かった軍人か。


 そこから闇の心臓が脈打つように世界に何かを巡らしていく。いずれは私にも届くかもしれない。


 私の心臓は……きっと、それが世界の中心。そう信じて行くのがいいのさ。どこかで鼓動が共鳴することもあるかもしれない。

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