第68話 災厄の紅き夢は東欧に消えて…

Night Side

 探り出した建物に潜入する。慎重に探り、外部から潜り込む。だが、人がいる気配がまるで無い。ハズレだったか? とにかく中まで探るとしよう。


 屋内に入る。相変わらず人の気配がない。辺りを見回していると視界の端に何かが映った気がした。いつものあれか? だが、何か……


 気になった方へ歩いて行く。すると、何かが居る気配がした。徐々にそれに近付いていく。それが居るであろう部屋の扉の前まで来た。覚悟を決め扉を開く。中に居たのは、


「ブラックバード……」


 彼女は私を見ると、駆け寄ってきて抱きついた。私も抱きしめる。


「大丈夫だった……?」


 ブラックバードが私に聞く。それは私のセリフだって。でも、何も言えない。


「辛くなかった? 苦しくなかった? よく頑張ったね……?」


 続けて言われる。まったく、どうなっているんだか。


 私たちはしばらくそうしていた。


「ハドソンさんからメッセージがある」

「聞かせて」

「ここへ行って、この手紙を見せれば、"G.O."まで送り届けて貰えるように手筈を整えた。このまま帰れ、だって」


 ブラックバードは封書を差し出す。やっぱり、あいつも相変わらずか。


「うん。わかった。それはありがたく受け取る。でも、ハドソンの許へ向かうよ。帰るのはそれから。それまで一緒に来てくれる?」

「うん」


 私はブラックバードと共に歩き出した。


 どこか懐かしい風景を辿っていく。そして徐々に嫌な臭いも強くなる。戦いがあったんだ。そして今も続いている。目的地に近付くほどに、漂う空気に圧倒されそうになる。死体が見えた。それが徐々に増えていく。銃で撃たれたと思われるもの。刃物による傷。そして、巨大な爪で引き裂かれたような傷。もはや、どんなものに襲われたかわからない姿となっている者たち。どうやらハドソンは使ってしまったようだ。


 人々が動く気配がする。私は身を低くして探っていく。私が奴らを閉じ込めたところ、その入り口は一つの街となっていた。奴らがやりそうなことだ。その街の住人を守ることを理由に軍隊を設置する。施設も拡充し、備えは万全だった。ここを落とすのは困難。ハドソンの見立ては正しい。そして現在、その街は半壊している。兵士たちは疲労の色が強い。その兵士たちの陣形から、敵の位置を予測する。街の被害の大きいところと合わせて探る。街から離れたある一点に、居た。


 そこに居たのは巨大な怪物。ゲームのラスボスというのは、それまで中ボスの特徴をすべて合わせたようなものが多かった。逆に物凄いシンプルな形状が恐ろしさを際立たせるのもあったけど。今のあいつは前者だ。おどろおどろしい形状に腕や足がいくつも存在する。口がいくつもあり、目も体中にたくさんある。首も何本かあるんじゃないか、と思うほどだ。ああなってしまうと、自在に増やすことも出来てしまうだろうな。


 ハドソンは精霊を呼び出す素材に自分を使った。フィギュアや彫刻である必要はない。だが、彼はその辺のやり方がわからなかったようだ。


 私はブラックバードと共に後ろへ下り、話した。


「私は、彼の意志と行いを尊重しようと思う。きっと、それがこの状況を納める最適解のはず。それが新たな復讐の芽となったとしても、私がそれを決めたことが、何かのヒントになるかもしれない」


 ブラックバードは頷いた。私は鍵を取り出す。数多くのディスクから取り出したデータを合わせたフラッシュメモリ。これで扉は開く。

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