第75話 ダブル・リバイバル

Night Side

 私は自宅に戻って呟く。


「これは……よくぞ建っているものだ……」


 外壁はボロボロ。今にも崩れそうだが、柱は一つも崩れていない。フリードの力なんだろうか?


 まあ、確かに、ここは一時的とはいえ鋼鉄派と毒喰派の両極端が合わさった場所だった。私も渡良瀬さんに抱きしめられてから数日後、やや調子が悪かった。鋼鉄派の最新機材が満載の家を私とフリードで毒喰派の適応力でカスタマイズしていった。ルドビコもそれに加わってくれた。


 出迎えてくれたフリードに挨拶する。大丈夫なのか、と聞いたが、曖昧な返事を返すばかり。とにかく私の部屋に向かい、休め、と言っている。家の中は結構きれいだ。どういう力を使っているんだろう?


 了解した旨を伝えると、フリードは言った。


「封書を二つ、お預かりしています。お部屋に運んでありますので」


 頷き、お礼を言う。ご飯を食べて、お風呂に入って、ベッドに倒れ込んだ。十分くらいしてから封書の事を思い出し、部屋を見回す。机の上に置いてあった。一通は黒井さんから。もう一通はルドビコから。


 黒井さんからの封書を開ける。


 織山実有 様


 渡良瀬からお前に渡すように頼まれた。それをそのまま送る。俺は中身を見ていない。この騒動が一段落したら詳しく聞かせてもらう。じゃあな。


黒井翼



 ブラックバードに関する調査報告


 ブラックバードより採取した血液、指紋、DNAなどの生体データ。それらを基に可能な限り調べたところ、ちょっと妙な事態になった。我々だけでは全貌を掴むことは難しいだろう。可能だとしても相当な時間を要すると考え、現在判明したことだけを報告する。


 この少女のアバターを作成し、世界中の写真に検索をかけた。その結果、写り込んでいるものが見つかった。


1.西暦2004年 書店で純愛小説の本を手に取る少女。

2.西暦1994年 電機店内のテレビゲームのコーナーを歩く少女。

3.西暦1984年 迷宮探索アドベンチャー映画の観客。

4.西暦1974年 カンフー映画の構えを真似る少女。

5.西暦1964年 イギリスのロックバンド来日の際に撮られた写真に写り込む少女。

6.西暦1955年 ヘレン・ケラー来日の際に撮られた写真に写り込む少女。


 この六枚に写っていた人物は一致率が95パーセントを超えているため同一人物の可能性は非常に高い。だが示される事実には困惑するばかりだ。そしてこの検索システムにヒットしたものは膨大な量にのぼる。一致率が現在90パーセント以下であるためこの報告に載せることは避けた。現在も解析は続いており、鮮明さが増せば枚数も増えると思われる。


 さらに異例の事態が起きた。このシステムは写真のみに反応する筈だった。だが、どういうわけか江戸時代の浮世絵の類にまで検索をかけている。謎は深まるばかりだ。我々の仲間にも興味を示すものが多く、毒喰派との共同作業を求める声も上がっている。いがみ合っていたのを忘れているんじゃないかと思うくらいだ。ちなみに俺もその内の一人だ。ハドソンに協力を頼む旨の手紙を送っておいた。彼が戻ればわかることも増えるかもしれないな。


 それと、六枚の写真にはある共通点があった。ブラックバードの傍には必ず大人がいるということだ。年齢は不明だが成人か、未成年でも15歳以上だと思う。傍の人間も解析を進める予定だが、元の人間のデータがないのでこちらも時間がかかるだろう。


 今わかっているのはこんなところだ。


 最後に、これは俺と仲間たち全員からのメッセージだと思ってくれ。

 お前やブラックバードが何者であっても、俺たちはお前たちの敵で友達だ。

 じゃあ、またな。


渡良瀬御剣



 体が震えている。これは一体……


 だが、疲労のせいか頭が上手く回らない。何か別の事を考えれば落ち着くかもしれないと思い。手を伸ばした先にあったもう一通の封書を開けた。中に入っていたのは薄型のICレコーダーの様だ。『再生ボタンだけ押せ』というメモが貼ってある。私はその通りにした。


 音声が流れる。


―――


 う、うん……


 えーと……あー、あの……


 こ、こんにちは。あの、これ撮れてるの?


 そ、そう……コホン。


 実有。あなたに謝らないといけないことがあるの。


 私、ずっとあなたを騙してた。


 あなたが使っている技の数々だけど、あれは本当にあなたが編み出したものなの。世界で初めてのものばかりよ。私にはたどり着けなった境地なの。


 私はあなたを真似て、あなたから学んでいった。精霊たちと共謀して元々は私が編み出したってあなたに吹き込んでいたのよ。そこは辛かったわ。でも、そうすることであなたはもっと上を目指し、もっと強くなると予想していた。実際は期待というくらいだったけど、あなたはその予想も期待も超えていった。想像をはるかに超える強さを手にしたわ。


 だから、その……まず謝ります。


 ごめんなさい。


 そして……よく頑張りました。あなたは強い子です。


 でも、もう大人だし……素敵な女性です! ……うん。そんな感じ……


 とにかく、ありがとう。


 あなたは私の希望でした。私の英雄でした。


 あなたと生きる日々は本物の幸せでした。


 だから生きてください。これからもずっと。


 以上です!


 えー、それでは私も乗り越える事が出来たと示すために、歌います。

 特に苦手だった、あの部分を……


Froh, wie seine Sonnen fliegen

(神の壮麗な計画により)


Durch des Himmels pracht'gen Plan,

(太陽が喜ばしく天空を駆け巡るように)


Laufet, Bruder, eure Bahn,

(兄弟よ、自らの道を進め)


Freudig, wie ein Held zum Siegen.

(英雄のように喜ばしく勝利を目指せ)


―――


 ピッと音がして、部屋には静寂が訪れる。

 何も考えられなくなってしまった。

 体を動かせない。


 時計の針の音が聞こえた。それで体が動くようになった。

 私は布団の中に潜り込み、そのまま、眠った。

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