第76話 悪魔を憐れむ歌
Salt Side
朝焼けを見つめながら俺はずっと、考え続けていた。大まかに表せばこんなことだ。
今ここに自分が生きているのは、己の自由意思によるもの。
そしてこれから起こること、己が成すことも全て自由意思によるもの。
何があろうと決して後悔しない。
この先どうなるかは、神のみぞ知る。もしくは、神も知らない。
俺は戦闘に備える。
Night Side
ボロボロになった家を出る。かつての様にフリードに送り出してもらった。しばらく歩き、仲間たちと合流。そして最前線へ向かう。
私は彼を見た。魁田常周。あいつも前線に来ている。目が合ってから一瞬後、戦いの火ぶたが切られた。
前方から銃撃。仲間たちが撃ち返す。二つの勢力は衝突し白兵戦へ。その中から近づいてくる者がいる。ダーケスト・アワーだ。私も彼に向かって行く。
私は鈍いナイフを抜く。ダーケスト・アワーもダスト・ドライヴを抜く。私たちは斬り結んだ。周りの空間、地面、風の音、地面の感触。すべてが合わさり未来を見せる。そして私が動き誘導し、創り出す。右からの斬撃。受け流し、一歩踏み込む。懐に入り刀を真上から振り下ろす。ダーケスト・アワーは斬撃の勢いをそのままに私の一撃を躱し、私の後ろに回り込む。私は振り下ろした刀を地面に突き立て、それを軸に右足を回し、その右足を軸に左足で蹴りを放つ。ダーケスト・アワーの下腹部に命中。地面に足を付けたまま踏ん張り、その力を足に回して私に飛び掛かる。私は再び真上から刀を振り下ろす。刀で斬撃は防ぐことが出来た。だが突進の勢いは向こうが勝り、私は後方に飛ばされた。
「ぐっ」
刀を地面に突き立て倒れるのを防ぐ。次の攻撃に備えようと顔を上げる。そこにダーケスト・アワーの蹴りが放たれ、顔を地面に叩きつけられた。刀を突き立てられるのが見える。私は鈍いナイフの拘束を解く。鈍いナイフの柄から光と音が発せられた。
「ぬぅっ」
ダーケスト・アワーは一瞬よろめく。その隙に私は立ち上がり、彼の顎に拳で一撃。左足でまわし蹴り。私も下がり距離を取る。鈍いナイフに拘束をかける。光と音は収まった。
ハーピーとセイレーンの協力、鋼鉄派の音響科学。両陣営の努力の賜物。感覚が鋭い者ほど効果は強力。新世代のスタングレネード。とはいえ、虚を突かなければ効果は薄い。あいつにはもう使えない。
ダーケスト・アワーが態勢を整える前に、三つの石を取り出す。それらは空中に浮き、私の周りを旋回する。そして光を放ちながら徐々に強まる。ガーゴイルとレーザー兵器を合わせたもの。防御と攻撃を兼ねた障壁を作る。解除するのは私の意志。回転のスピード、光の強弱、リズムを取りながらも徐々に変化させる。相手の呼吸に合わせ、乱す。自分の動きを自分で乱す。それでもリズムは崩さない。相手もそれに乗ってくる。つまり次は……
ドン! という音と共に石の一つが砕ける。ダーケスト・アワーがスカルショットを放った。私は残りの石を彼に突進させる。二発目で破壊。その隙にもう一つを彼の後ろに回す。察知したが一発では落とせず。もう一発で破壊。私が後ろから斬りかかる。ダスト・ドライヴが振動を発し、塵を大量に発生させた。それを猛烈な勢いで動かし、その圧力で私を押し返す。私はもう一つの石を取り出し、起動。それと共に攻撃しつつ後退していく。
(そうだ……もう少し……もっと塵を巻き上げろ……)
周囲が塵で真っ黒になる。そこからスカルショットで銃撃。私は石で応戦。
(よし……ここだ……ここからなら……)
スカルショットの四発目。何度目かのリロード。私は石で攻撃。スピードはやや遅め。察知したダーケスト・アワーは振動を止めた刀で斬撃。石は破壊された。私はそこに突進し右腕を斬りつけそのまま走り去る。ダーケスト・アワーは、リロードしたスカルショットを私に向ける。放たれる前に私の『右腕』が彼の胸を貫いていた。
「なんだ……その……右腕……どうなってる……?」
私の右腕だったはずの義手。それが外れている。そして今ある右腕は真っ黒だった。その右腕の手が針のように細く長く伸び、ダーケスト・アワーの胸を貫いていた。
「私たちは、人の業と功績、そして自然の恩恵。その全てを貪欲に求め新たな種となる。私もずっと追い求めていた。それを拒む心もあった。だけど、右腕を失い、新たに得た事で何かが吹っ切れた。だから、あれから自分の毒と共に、鋼鉄の体に語りかけ、変化と進化を繰り返した。その結果、こうなったの」
「なんて……やつだ……俺には……到底たどり着けない……境地だ……」
ダーケスト・アワーは膝を着く。
「おまえは……ほんとうに……『守護神』なのかもな……」
私は右腕を引き、鈍いナイフでダーケスト・アワーを斬った。
「ごめんね……」
倒れるダーケスト・アワー。私も地面に座り込んだ。
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