第77話 バイバイ・シェリフ
雪本不滅と魁田常周に、ほぼ同時に連絡が入った。
〈実有が勝った! 勝ったぞ!〉
〈ダーケスト・アワーが負けました! 死亡です!〉
二人は銃を向けたまま見つめ合い、頷いた。二人は共にカバー。そして無線で連絡を取る。
空に二つの信号弾が放たれた。そして、すべての銃声が止んだ。
二つの陣営は次の動作に向けて準備をしている。獣が獲物を仕留める前の前兆の様。戦場の中、ある一点のみが騒がしくなる。動揺を隠せず動き出す。つまりその場にいる者たちが獲物。そのほかの全てが認識した。そいつらを狩れ、と。
リュウ・アマミヤとその側近たち。彼らは動くのが早かった。死に物狂いで逃げ出す。ついてこれない者たちは放り出し、なりふり構わず逃げ出した。
彼らはこの点に関しては周到に準備をしていたようだ。逃げ道はいくつも用意している。そして不測の事態にも対処できるほど冷静な思考を備えていた。不滅も魁田もそのことを蔑みはしなかった。彼らは解っていた。生き延びるとは、そういう事だと。
だから必死で追いかける。銃撃し、走る。アマミヤたちが用意したヘリに乗り込む。アマミヤがヘリに乗り込むと一人だけ護衛を押し込み、残りの者はヘリを守るべく不滅と魁田の部隊へ銃撃。二人はヘリへの攻撃をなりふり構わず行うつもりだった。たとえこの場で倒れても、後ろの者たちへターゲットを示せれば、と思っていた。そしてもう一歩踏み出そうとした時だった。
馬の嘶きと共に彼らの視界が真っ黒になった。黒い何かがアマミヤの部隊めがけて突進していく。アマミヤの部隊からの銃撃はすべてそれに飲み込まれた。僅かに戦う意志を見せていた者たちは黒い何かに飲み込まれ、壊滅した。
その間にヘリは上空へ退避していた。もう自動小銃では狙えない距離。そして壁の向こうから護衛のヘリが数機近づいてくる。取り逃がしたか、と皆が思った。だが、その中に魁田常周の姿は無かった。
―――――
リュウ・アマミヤがヘリの中で力なく座り込んだ。
「いったい……なんだった……んだ……やつら…いったい……」
一人乗り込んだ護衛の兵士がアマミヤを見る。そのまま言った。
「マイクと無線の具合は?」
するとパイロットが答えた。
「良好です。コントロールをルドビコへ」
「アイ・ハヴ・コントロール。ご苦労様」
「あなたも」
そう言ってパイロットは固まった。操縦していたのはガーゴイルだった。
「な…? なんなんだ……? おまえは……? いや、おまえたちは……?」
ヘリにはもう一人乗っていた。魁田常周だ。ルドビコは右手に持っているものをアマミヤに見せた。そして顔を覆っていたマスクを取る。
「ようやく会えたな。イングソックのプロメテウス。長かった……もはや生き残っているのは一人だけ。まさか、そちらから来てくれるとはね」
アマミヤを拘束し、右手に持っているものを傍に置く。
「これが、私たちのパイア。お前が創り出した怪物たちが復讐に来たのさ。だが、解ったんだ。これは復讐じゃない。私が新しい道に進むためのステップなんだよ。」
「……っ……!」
「私の心臓に全てを込めて来た。私がこの街を駆け巡った日々の全て。彼女との全てを。これこそが私の世界のハート。そして私の残り香となる」
隣の魁田も言う。
「俺も同じだ。もしも、お前が生と役割に真剣で、誠実にやってきたなら、これには何の危害も無いはずだ。俺たちはこのまま去る」
二人を黒い何かが覆った。
「きっと、聞いてくれてる……
Wem der große Wurf gelungen,
(ひとりの友の友となるという)
Eines Freundes Freund zu sein,
(大きな成功を勝ち取った者)
Wer ein holdes Weib errungen,
(心優しき妻を得た者は)
Mische seinen Jubel ein!
(彼の歓声に声を合わせよ)
Ja, wer auch nur eine Seele
(そうだ、地上にただ一人だけでも)
Sein nennt auf dem Erdenrund!
(心を分かち合う魂があると言える者も歓呼せよ!)
私は巡り合えた。だから笑って退場するよ。
ありがとう、みんな。さよなら」
―――――
地上に居たほぼ全員が聞いていた。
そして空での爆発を見た。そこから黒い何かが飛んでいくのを見た者もいた。
―――――
Night Side
「あ、あれ……なんで……戻ったの……私も……」
私は倒れ、気を失った。
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