第78話 Love and Piece
『世界の中心で愛をさけんだけもの』という本がある。表題作の短編を読んだけど、私はまだ深いところまで読めていないんだろう。でも、何か引っかかるものがあるんだ。他の短編もそんな感じだけどね。これを書いた人は私と似た部分を持つ人なんだと思う。だから私も刀に『鈍いナイフ』なんて名前を付けたんだ。
ルドビコが行ってしまってからのことだけど、私はあまり覚えていないんだ。でも記憶はあるんだよ。自分がそこに居たっていう。変だよね。
短くまとめると、"G.O."は元には戻らなかった。でも、強くなった。
黒井さんも渡良瀬さんも、仕事を信頼できる人間に任せて何処かへ行ってしまった。きっと、ルドビコを追いかけていったんだろう。彼らのための道は用意されている。そこを歩くことで自分の道を作り、誰かのための道しるべとなる。何だか昔のプロレスラーみたいな人たちだね。
そして私の活動も続いている。私と仲間に同調する人々もちょっとだけ増えた。それが『シェリフ派』なんて呼ばれているみたい。派閥を多く作るのは違うと思うけど、一瞬でも居場所を与えられるならそれもいいかも、なんて考えてる。
そして、魁田常周は"G.O."の知事になった。就任の挨拶の時にいくつかの政策を発表。その中に一つ飛び抜けたものがあった。"G.O."を段階的に階層化し、最終的には軌道エレベータにする、というもの。そんな無茶苦茶な、と思ったよ。
赤道以外に作れるものだろうか? 作ったとしてどうなるのか?
私も外を回るからちょっと耳を澄ませてみたけど、ほとんどそんな意見だった。
でも、そう言うのも一瞬だった。後はいつも通りの『優しい忘却』。つまり、彼の狙いはこれだったのか。私たちと同じ。
時間はかかるけど実現するかもしれない。天まで届いたらどうするのか。その先に何があるのか。やっぱりわからないままだ。でも、私は彼を信じてみたいと思った。
信じられる要素は確実にある。私は見た。傍らにブラックバードが居るのを。一瞬だけどね。
かつて、この街の基礎を作った人が言ったらしい。
『人生は重い荷物を背負って坂を上っていくようなものだ』と。
私の荷物は色々な記憶や幻、そして愛かな。それらが合わさった"Love and Pieces" そんな風に思えば立ち直れることもあるだろう。
ここに集った何か。それは『愛をさけんだ獣たち』。それが呼び合い、何かを奏でた。
日本風に、そして私流に言うなら『鬼鳴り』ってところかな。
そんな風に考えていたら少しだけ元気が出たんだ。それで散歩したら……
(聞いていますか?)
……?
何となく、気になった方へ目を向けて歩いていった。
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