第62話 錬金術師の資格
Ziggy's View
空気が読めない、という事態についての考察
世の中には混成言語と呼ばれるものがある。母語を異にする者同士が共に暮らすうちに言語が混ざり合い、どちらともつかぬ謎の言語が誕生する。当事者同士にとってはそれは自分の母語とは違うとわかっているが、その言葉を生まれた時から聞いている者にとっては、それこそが母語となる。前者をピジン、後者をクレオールという。
これは最近になって自身の経験と一部が共鳴することになった。私に見える "A Phantom of the Air" である。私には物心ついたときからずっと見えていたので、これが自然だった。なので周りの人々も同じだと思っていた。徐々に違和感が強くなり最近になってようやく、どうやら他人とは違うらしいと考えるようになった。
この点については芥川龍之介という人物に共通点を見つけたように思う。それで少し安心した。彼が亡くなる前にどうにか話してみたかったところだが、もはや不可能だ。これは諦めるより他はない。ただ、正直言ってこれについて語り合うべきかどうかは迷いが多い。もしかしたら、これを感じているのは世界で私ただ一人である可能性が首をもたげるからだ。話をして全く違うものだとわかったら、私はどうなってしまうだろう?
まあ、それは置いておこう。ただ、もう一人私の感覚に近い者を見つけた。ソクラテスという名の哲学者だ。プラトンという人が著した「ソクラテスの弁明」の中で、彼は「ダイモニオン」という言葉を何度か使っている。私の予想ではこれは「直感」にあたる何かだと思う。私は自分の感覚の一部を "The Voices for RE; Vendetta" と名付けた。それに類するものかもしれない。
ところで、「ソクラテスの弁明」を改めて読むと、まるで今、私が生きている時代の裁判のように感じる。これは、是非読んでいただきたい。
ちょっと話が逸れて来た。元に戻そう。
つまり、子どもの学習能力は非常に高い、ということが言いたいのだ。ただし、それでも限界は存在する。それ故に子供たちは遺伝子によって記憶された取捨選択能力によって、必要なものとそうでないものを選り分け、自分の生存に必要な知識、技術を学習する。(※当然、これは私見だ)
選り分ける基準となるのは、両親が話す言葉と動作、行動だ。それが頻繁に繰り返されるほどに重要度が上がると判断する。それは五感を総動員した受動となる。音、口の動き、舌の動き、唇の動き、視線、表情、まばたきの頻度、筋肉の微動、感情の強弱、などなど。
そうなると、両親から子供に伝わらないものが発生する。それは、両親が語ってこなかったことだ。それはたいていの場合、親となった人間の根幹をなすもの。所謂、その世代の「常識」というものだ。(※重ねて言うが、これは私見だ)
つまり、これが世代間ギャップの正体の一つではないか、と見ている。
もう一つある。それはストーリーテリングの手法だ。
上の世代が下の世代を叱る。これは当然発生する。それはあっていいものだ。
(※ただし、怒鳴り声を上げるだけになると効果はほぼ無くなり、誰からも相手にされなくなる。こうなるともはや怠惰の一種になってしまうので、これは一時外すことにする。)
その際に使われるものに私は特徴的にものを見出した。それがストーリーテリングであると見たのだ。これも見聞きしたものであるのだが。
お説教の方法にも世代間に特徴があった。映画などから得た知識だが、これはつまり、相互作用があったと思われる。
ある世代が、何かを伝える際には、その時代の流行りものに影響を受ける。言葉やその並べ方、身振り手振りや、抑揚の付け方、意図的な崩しや、造語などなど。それらを総合的に駆使して伝える。
エンターテイメントの常は流行り廃りである。その要因の一つが「同じものを長く観ていると、飽きる」というものだ。これはフィクションでない場合にも起こったのだろう。
状況を想定すると、叱る側は感情を込め、身振り手振りを加え、視線を動かし、抑揚をつけ、自分の伝えたいことを伝える。時にはそれが暴走気味になり、自分の言葉に酔っていくこともある。叱る側の基礎がしっかりとしていれば、それは誰かにとっての正義であるのだろう。それはいい。だが、時間が経つにつれて、その説教中に反論をしてもいいんじゃないか? と思い始める者もいる。それは主に世に溢れるエンターテイメントから得ることになる。
一定の期間、何らかの作用により人々の心を打ってきたものが、ある時、中断されることになる。そうすると、叱る側は戸惑う。(※一部です)沈黙が支配したり、反発の声が徐々に高まってくると焦る。そうなると、大声を上げる、という状況が生まれる。(※一部です)
その際に言われる言葉が、「常識が無い」とか「空気が読めない」というものだ。
ただ、それだけの言葉で押し通せるものでもない。違和感を覚えたものは話を聞くことを止めてしまうだろう。
おそらくだが、下の世代から突っ込まれた者たちは、自分たちを人間足らしめた「常識」というものを何故持つことが出来たか、何故学習することが出来たか、を説明することが出来ないのだろう。
もちろん、それは言葉のみによるものでは無い。それぞれが生き抜いた人生に刻まれるものだからだ。だが、その点から目を背けてばかりいると言葉に信用が無くなってくる。何らかのほころびが生まれてくる。
ちなみに、この点は私が「上の世代」となった時(それまで生存していればだが)に、返って来ることだろう。もしも私がそう感じたら、目を閉じて、じっくり呼吸してヒントを探るとしよう。
しかし、そうだとすると、長く国や地域を保つことは不可能という事になってしまう。保つことが出来る要因は不明だ。強いて言えば愛国心かもしれない……が、その一言で済ますのも乱暴だ。何か自分自身がしっくりくる言葉を使うのが良いだろう。
私の場合は「重力」としたい。
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