第60話 忘れられた過去

Ziggy's View


リスベット:これが私の見解よ。あの「スナッチャー三原則」が人の心に伝播し、何らかの影響を持ってハドソンという男の一部となった。


実有:そんな……そんなことが……


リスベット:あなたは、解っているんじゃないの? いくつかの秘密について。この街での魔術の原理は不明としているけど、その力の一端を掴んでいるんじゃないの?


実有:……正直に言う。解らないよ。本当に。でも、話してもいい事はあると思う。


リスベット:聞かせて。


実有:……


 一つの物語を聞いた。ゴーレムと言うものを作った話。


 最後のところしか知らない訳だけど。


 ゴーレムは額に書かれた文字により力を得ていた。そこには真理を意味するemethが書かれている。ゴーレムは最初のeを外されmethとなった文字により崩れていった。meth は死を表すらしい。


 これはおそらくヘブライ語で語られていたのだろう。そこで何かが閃いた。


 真理、もしくは真実を表す言葉。その言葉の最初の幾つかを外すと「死」となる。


 これは私の心の支えとなったものの一つと似ている。


 実存を表す sat

 非実存を表す asat


 これらは一方が悪いと示しているわけではない。それぞれが支え合うという事を示している。絶対とは言えないけど。


 最初の文字、もしくは言葉は何らかの意味で次の言葉を否定しているのだろう。



 その襲撃に関わった一団、ルドビコたちも含めて。意識、もしくは無意識のどこかで、信じていたものがすべてひっくり返る、ということがあったかもしれない。彼らはおそらく私の何かに少しだけ感化された。それが自らの内面の一部と同調、共鳴し、何かを求めた。


 すがることのできるもの、とでも言えばいいのか。


 それを何度か繰り返し自分に必要なものが何かを探り始めた。きっと、その過程があまりにも急激だったから暴動のようなものに発展してしまった。


 人の意識や無意識はどこかで繋がっているという。それは昔からだろう。


 世界各地に残る英雄譚や冒険譚。その後も語られてきた物語の数々。そこに様々なヒントや手掛かりがある。そこから誰が何を見つけるか、創り出せるかわからない。その時に感じたものを残しておきたい。そんな考えの連続じゃないだろうか。だが、これも正解かどうかは不明……


 つまり、こういうこと。


リスベット:どういうことか、わからないわ。


実有:すっきり、しないでしょ?


 自分で出来ることに目覚め始めた時は、多すぎる情報から単純な答えを求める。推測すると、「祈りの言葉」というものがあれば救いが得られると思ったんでしょう。それをひたすら追い求めた。それがエネルギーとなった。エネルギーを溜めすぎると体に悪い。だから、動き出したくなる。その繰り返し。きっと、そういうことだよ。


 何かに向かい動き続ける。それが私を生かす糧となった。


 その結果、いくつかの偶然の一致を見つけた。その時の私には救いだった。


 ある知恵の根本原理を、ブラフマン、アートマン、プルシャ(人我)、プラーナ(生気)、サット(実有)、アクシャラ(不滅)などと呼んでいる。それらを追って行けば一つの秘儀へたどり着く。それは「真実の真実」と言うらしい。


 これはとても魅力的だ。実際に効果もある。だから、物語に埋め込むことは許してもらえるんじゃないかな。


 私が見つけた真実の一部は、きっとこう。


 外から見れば天然果実

 だが中身は機械仕掛け

 それらが木にたくさん生っている


 ある時、それらは考え始める

 我々の中身は何なのか

 それは機械の中の幽霊か


 真実は未だに藪の中

 幽霊がいるのは奥深くなのか?

 部品の随所に、歯車にこそ宿っていないか?

 

 そこから彼らは動き始める

 様々な世界を飛び回って探っていく

 何かに近付けると願いながら

 さながら蛇が脱皮するが如く


 それともう一つ。



 マトリックスでの日々

 マトリックスからの脱出

 救世主としての覚醒

 何らかの結実


 これは入れ子式、もしくはフラクタル構造となっている。


 つまり、今こそが勝負の時、ということ。


asato maa sadgamaya

tamaso maa jyotirgamaya

mrtyormaa amrtam gamaya


非実在から実在へ私を導きたまえ

暗闇から光へ私を導きたまえ

死から不死へ私を導きたまえ


……またやってしまったね……敵地で何をやってるんだか……


リスベット:あなたは、それでいいのよ。

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