第54話 潜在熱源
Night Side
「それと、話しておきたいんだ。エア・ブレス・メタルについて。
今まで迷っていたんだけど、リスベットと話して決心がついた。これはみんなに話しておくべきだったんだよ。だから今話すね。
私がフーリッシュ・ハートを昏倒させて逃げた後、体の様子がずっとおかしかった。そしてある時、鼻血がすごくたくさん出て止まらなかった。そのまま、野垂れ死にすると思ってたけど、幸いにして再び目覚めることが出来た。目覚めた時には、私の脳内に埋め込まれていた機械仕掛けのあれこれが消えていたんだ。それと同時に私の体にたくさん埋め込まれていた、フーリッシュ・ハートの仕掛けも消えていた。きっと、あの時私の体から排出されたんだと思う。
それ以来、私にはその不足分を埋めるかのように特殊な力が宿った。私が感じた"A Phantom of the Air"をより顕著に感じるようにできる力。そしていつしか刀の形に表すことが出来るようになった。それが『鈍いナイフ』。私はこれにもう一つの名前を付けた。自分と相性の良さを感じた昔の知恵から、その名前を貰った。この世界の空気に満ちるエネルギーの一つである『気息(プラーナ)』から借りたんだ。だからエア・ブレス・メタルとは、『鈍いナイフ』のこと。そして私の意志の表れの一つ。そして私が生み出す素材になった。
あの私の部屋だけど、あそこで眠ると安心感が強くてね。そうすると夢を観ることができた。つまり、悪夢に襲われてうなされても……その……目が覚めるまで眠れたんだ。そうすると机の引き出しにエア・ブレス・メタルが結晶として現れた。少しずつだけどね。私はそれでブローグ・ヒャータを創っていたんだ。
でも、他にもあったようだね。恐らく私から排出されたものが土に染み込んで『何か』を形成した。そして、それが意志を持ったのかもしれない。この先は、ルドビコ、あなたが話してくれるのを待つよ」
「……うん」
ルドビコは頷いた。二人も何となく納得してくれたようだ。
「もう一つ、ヴェロニカ、いい?」
「はい」
「私はあの本に書いた気がするんだ。もうよく覚えていないんだよ。だから、伝わりづらいかもしれないけど答えてもらいたいんだ」
「何ですか?」
「私は、この世界の何か大きなものをインペリアル・エコノミア(経済主義帝国)と表した。それについて、あなたはどう思う?」
「そうね……まず、英語とスペイン語が合わさっているのは変だけど、注意を惹く表現方法としては多くの例がある。だからそこは好いと思う。
でも、これだと『帝国の経済』もしくは『帝国的経済』ということになる。日本語で示された『経済主義帝国』とは若干違う。でも、それを含めて何か考えることを促しているのかもしれない。
この表記方法で行くとインペリアル・エコノミシスモとすべきかも。でも、もしかしたら、これは『卵が先か、鶏が先か』を言いたいのかもしれない。経済として俯瞰した際の視点、人やお金の流れ、世界の動き、それが悪の帝国の様なものを表してしまうのか。それとも、元々その手のものが存在するから経済の流れはそうなるのか。
何にしても、その辺りの事を考えながら自分の答えを探ってみる。狙いは、そう言う事なのでは……」
「うん。正解だよ。でもね、これについていろいろ考えたなら、それは全部正解なんだよ。あのエコノミック・エンパイアもね。もう一つ入れるなら人間の出す答えはみんな不完全だってこと。こう言っておけば、言い訳にも使えるしね」
「また、そんな……」
「あ、そうだ。ルドビコに、もう一つ聞いて欲しい」
「何?」
「あなたが私を迎えに来てくれた時の事。私はブランコで泣いていたよね。涙は出てなかったと思うけど」
「そうだったっけ……」
「きっと、そうだったんだよ。それで、私が落ち込んでいた理由だけど、それを今話す。
私は両親が居なかったこと、家が無かったことが悲しかったんじゃない。もちろん、それらも少しはあったと思うよ。
だけどね、あの時感じた喪失感の大部分は、復讐の対象が居なくなってしまったことなんだ。
振り上げた拳を下ろす場所が無くなってしまって、胸の辺りがごちゃ混ぜになっちゃってさ。それで座り込んじゃったんだよ。それをあなたが助けてくれた。
これで……私の事も少し話せた。だから、あなたの話も聞ける。話してくれるまで待てる。そういうことかな……」
私たちはその後も少し話していた。そんな時だ。ルドビコが呟いた。
「燃えている道に炎を投げ入れた……?」
「それは……あれ? ん?」
私は少し考えて呟く。
「想いを地図として……?」
ルドビコが再び呟く。
「ギリギリのところですぐに会えるよ、と私は言う……?」
「熱くなった眉の下には誇らしげな……?」
「でも、あの頃の私は年寄りで!?」
「今の方がずっと若い!」
二人で盛り上がってしまっている。残った二人は何が起こっているかわからないだろうけど、今はそれどころじゃなかった。
「少女たちの顔は前の道へ向かう……?」
「それは偽物の嫉妬心から……?」
「記録された政治へ……?」
「昔の歴史の……?」
「死体となった伝えるもの(エヴァンゲリスト)たちへ落ち……?」
「考えないこと、考えること、どうにかすること……?」
「でも、あの頃の私は年寄りで!?」
「今の方がずっと若い!」
そのまま続けてしまった。止まらなかった。
「私がぼんやりとした脅威にさらされた時に、私は護衛に力強く守られていた……?」
「無視できない程の高貴さを持って……?」
「思考の中で欺かれていた私は……?」
「護るための何かを得た……?」
「良い事と悪い事、それらを自分で決めること……?」
「かなり正確に、疑いなく、どうにかできる……?」
「でも、あの頃の私は年寄りで!?」
「今の方がずっと若い!」
二人で抱き合ってしまう。無いはずの右手が彼女の体温を感じるようだ。そろそろ二人にも説明した方がいいかな、と思った時だ。何かが聞こえて来た。
何かが叩かれる音。一定のリズムを刻んでいるのだろうか?
トン、トン、トン。という音が響く。これは……太鼓?
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