Verse 3. A Vision of the ESCApe from NEgative FLOW

第53話 火は従順なしもべだが、悪しき主人でもある

Salt Side

 そいつは、リュウ・アマミヤと名乗った。どこの国の人間かはわからない。ただ日本語は流暢だった。


 そいつが言うには、例のリスベットの仕業により世界中の『大物』のほとんどが抹殺されてしまったらしい。その空いた席を埋めるのに世界中で闘争が繰り広げられているそうだ。どうにかリスベットの企みを逃れたアマミヤは、棚から牡丹餅で大統領になるが如く、大きな力を得た。アマミヤは俺の体内にある弱みを握り、脅迫している。この街を潰せ、と。


 こいつは、この街から得た金の卵に満足し、ガチョウを抹殺する。大いなる罠にはまらぬように、後腐れなく完全に。


 俺の事を少し話しておこう。


 俺は元はこの街の人間だったようだ。物心つく前に何者かに攫われた。恐らく俺の他にも攫われた者たちは多かっただろう。俺は体を調べ尽くされ、データを取られた後は用済みとなり、実験の餌食になった。俺がやられたのは、心臓に特殊な爆弾を仕掛けられることだった。実験に関わった者は言った。


 "G.O."に居る人間の一人に爆弾の起爆スイッチを持たせた。

 死にたくなければ、そいつを必死に探せ。

 なお、起爆スイッチは我々も持っている。

 逃げ出したり、余計なことをしようとすれば、スイッチを押す。


 そんなわけで俺は必死にやって来た。この上、非道を繰り返すことになるとは。


 作戦は俺に丸投げ。上手く行かなければ殺す。きっと代わりは大勢いる事だろう。


 傍らに居たダーケスト・アワーが話しかけて来た。


「一つ贈り物があるらしい」

「贈り物?」

「ちょっとした兵器、だそうだ」


 兵器……碌なものじゃないだろう。だが、受け取るほかないな。俺はダーケスト・アワーに案内されるままに歩いた。ある部屋に通され、そこにあるものを見る。大きな筒状のものがある。そこに、何かが居た。人のようだが。


「こいつは、この街からさらわれた者の一人だ。そして、この街から得た技術で改造された。人でありながら、とてつもない力で殺戮を繰り返す。力は証明されているそうだ」


 そんなものにまで手を出すとは。だが、これも俺の罪の一つだな。こいつを動かすことを拒めば、スイッチが押される。俺の精神は、もたないかもな。



Night Side

 私は大体の状況を知り、大規模な襲撃があると予測した。厳しい状況になるだろう。豊臣の小田原攻めとは違うものになる。兵站の輸送や、兵士の休息、交代も迅速に頻繁に行える。今は、私の病室で、それらについての作戦会議中。


「でもね、これは"G.O."対全世界、という場合の話。状況は少し違う」

「違うって?」


 ヴェロニカが聞く。不滅もルドビコも身を乗り出すようにしている。


「私の予測では、『優しい忘却』によって隔離された都市は世界中にある。それらが同時に蜂起すれば……もっとも、もう蜂起しているようなものだと思うけど、"G.O."に向かう力は相当弱くなる。それぞれの都市との結びつきを強めれば、私たちは勝てる」

「でも、そんなこと、どうやって……」

「きっと、それがハドソンの狙いの一つだと思う。彼を追っていくことが、この街を助けることになる。私は信じる」

「一部でいいから、教えてくれないか?」

 不滅の問いに、私は応える。私は知る限りを伝えた。


 あのフーリッシュ・ハートの襲撃に加担した企業の一部。それは私がかつて関わった企業だった。僅かだけど外へ出て得た情報、そしてあのリスベットとのやり取りで感じたもの。それらを合わせると答えが出て来た。


 恐らく、それらの企業はこの街でアイアン・インゲルが果たしたような役割をしている。そして、その企業が存在する街を強くしている。この街で私たちがやってきたように。


 これも予想になる。希望的観測は多分に含まれるけど。


 私はかつて、リスベットが言うところのエコノミック・エンパイアを、その幾つかの勢力をある場所に閉じ込めた。それで一時期、あの企業群は『好きなように』仕事が出来た。今思えば、それも優しい忘却に至る過程の一つだったかもしれない。


 私はエコノミック・エンパイアを騙して、そこに押し込めた。時間が経つにつれて、彼らは騙されたことに気付いたんだろう。徐々に外側へ出ようとしている。使える力を総動員して外側を動かした。最新設備を使える連中だから、通信なんかは容易だったろう。一部の者は外へ出ることを果たしたかもしれない。その結果、"G.O."にも彼らの手が伸びて来た。外側との折衝を任されていたハドソンは相当な労苦の果てに彼らを撃退してきた。


 きっと、フーリッシュ・ハートの襲撃がきっかけの一つだったと思う。ハドソンは彼らを根絶することを決意した。


 私は彼らが二度と出てこないように入口を厳重に塞いだ。だから、彼らの許へたどり着くのも困難になってしまったんだ。


 それ故に、ハドソンは精霊の力に頼ることにしたんだと思う。強力なブローグ・ヒャータを創るために、私のエア・ブレス・メタルを奪った。それにより呼び出せる精霊で入口をこじ開けようとしているんだろう。


 でも、ハドソンが知らないこともある。おそらくだけど。


 私が厳重に塞いだその入り口だけど、開くための鍵があるんだ。その鍵は私が関わった企業に分解して渡してある。もちろん、その企業群が捨ててなければだけど。私、そちら側にも結構ひどいことしてきちゃったからね。


 つまり、私がハドソンとブラックバードを追う旅は、この街を助けることになり、私が鍵を集めるとともに、いろいろな街を手助けし、例の扉を開けることは、この街を救う旅となる……といいんだけどね。


 ベッドの傍にいる三人の目は輝いていた。これで行けると思ってくれたかな。


 三人とも了承してくれた。


 その後、不滅が小包を差し出した。


「これが、望みのものだ。だが、本当にいいのか?」

「ええ、ありがとう」


 私は包みを開ける。そこにあったのは義手だ。義手と言うのはおかしいかもしれない。鋼鉄派が使っている体のパーツ。私のデータを基に最適と思われる右腕を技術の粋を凝らして作ってもらった。


 当然、みんな不安になるだろう。力が混ざり合って反発力は弱まったけど、これだと両極端を無理やりくっつけるようなものだ。私の体には相当な負担がかかるはず。でも、私は上手くやれる気がした。やり方は鈍いナイフと一緒に学んで来たんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る