第52話 一番悪い奴はとんでもないところにいる。例えば俺の頭の中とか

Day Side

 ヴェロニカが奮闘したこともあり、街の状態は沈静化した。


 この事件により俺とヴェロニカは共闘を公にする決意を固めた。そしてそれを表明したことで毒喰派と鋼鉄派は融和へ向かって行った。例えるならベルリンの壁の崩壊か。二大派閥ではもう扱えない。俺たちは道を模索し、歩む。俺たちはさらに強くなる。


 だが、街を囲う本物の壁はより強固に、高くなっている。これを打ち壊さなければならないのだろう。しかし、どこか妙な感覚がする。もしもこの壁が俺たちを守っているのだとしたら? だが、それに甘んじているわけにはいかない。


 だから俺は決めた。彼女を解放することを。


 まあ、そんな大層なセリフは要らないかもな。彼女は右腕を失ったショックから、すぐに立ち直った。そして自分で言った。


 「ブラックバードを助けに行きたい」と。


 俺たちはそれを全力でサポートする。


Wolf Side

 椅子に拘束されている男を見る。俺に気付いて顔を上げた。


「よう、生きてるか? 大石内蔵助」

「……ああ、なんとかな」


 俺は捕まえて引き渡すところまでが仕事だった。その後、再び呼ばれた。見たところ暴行を受けた様子はない。だが、苦しそうだ。


「辛いだろうがな。お前にはもう一つか二つ試練が待ってるぞ」

「どんなものだ?」

「この街の殲滅戦の指揮をお前に執らせろと言われている。お前には逆らえない理由があり、その理由を俺のボスが持っているそうだ」

「……そういうことか」

「どういうことなんだ? それは、話せないものか?」

「まあな……つまり、俺には『パイア』があるんだよ」

「パイア?」

「ああ、この辺させてくれ」

「そうか。まあ、いい。また何度か話さなきゃならないだろう。じゃあ、またな」


 俺が部屋から出ようとした時だ。


「なあ、あんた」

「何だ?」

「あの通信での名前だが、Wolf は新撰組と近藤勇ととっていいのか?」

「そうだ」

「じゃあ、その後ろのDH というのは?」

「そうだな……まあ、いいか。今のお返しと思えば」

「……?」


「俺はな、フーリッシュ・ハートに攫われた者たちの一人だ。


 酷い日々だったよ。その時に一つの光明が見えた。見えた気がした、のかもしれないが。


 ある時、フーリッシュ・ハートは仲間に酷く痛めつけられた。その犯人はそのまま逃げた。


 それがきっかけだったのか、フーリッシュ・ハートの許から離れる者が続出した。俺もその一人さ。


 だから、俺はそいつの後をひたすら追いかけた。どうすれば、あいつのようになれるのか? あいつの力の秘密は何なのか? そればかり考えて生きて来た。今もな。


 そして、そいつの出身国のことも調べ始めた。その国の伝説や物語で俺の心に響いてきたのがある武装集団の話だった。そんなところさ。


 彼らが滅びに向かう時のこと。俺たちの酷い日々の事。命を尊ぶのは好い事だと思うが、人の死を美化するのはちょっと嫌になってしまった。そんな感覚を持ったんだ。


 それがフーリッシュ・ハートの許での俺のコード・ネームと重なった気がした。だからそれをあのハンドルネームにも混ぜた。


 俺はダーケスト・アワー(Darkest Hour)だ」


 そう言って俺は部屋を出た。


 歩きながら思い出した。あの小説の話。そう言う事だったのか?


 あっちは虎だったな。


(Strike Back to the Economic Empire: End. to be continued...)

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