第51話 お前自身が招いたことだ

Night Side

 どうにか血は止まったようだ。だが、意識が朦朧としてきた。今気を失ったら、再び目を覚ますことは出来るだろうか? うつらうつらとしていると、馬の嘶きが聞こえた気がした。そしてぼんやりとした視界に黒い何かが映り近づいてくる。 そして上の方には例のあれが……


「実有、大丈夫!?」


 聞き覚えのある声。ルドビコだ。どうにか彼女の顔を見ようとして、口を開ける。


「うん……だい……」

「大丈夫じゃないよね。ごめん」


 そう言って彼女は私を抱きしめた。その後私の腕の状態を見て、動揺した。私は、ポケットにある携帯端末を出し、使い方を教えた。これならきっとルドビコも触ることができるはずだ、と言い聞かせて。実際彼女は触ることが出来た。すぐに使い方がわかったようだ。いくつかの相手と連絡を取り、私に返した。


「渡良瀬と連絡がついた。場所を教えたから、もうすぐ来てくれると思う」

「そう……ありがとう」

「それと……その……『秘密の部屋』が襲われた」

「え……?」

「その……そのことで怪我をした人はいないみたい。でも……ブラックバードが連れていかれた」

「そんな……どうして……」


 私は起き上がろうとしたのだろう。それをルドビコが制した。


「理由は……もうすぐ、わかると思う」

「……?」


 私はそのままルドビコと屋上に留まっていた。しばらくして、そこへ渡良瀬さんが現れた。私の様子を見ると何処かへ連絡を取り、ルドビコと話していた。その後また私に、


「毒喰派の病院までルドビコが通れるルートを開けておく。それが一番スムーズに行くはずだ。いいか?」

「ええ。ありがとう」


 その準備の間に渡良瀬さんは色々と話してくれた。



 秘密の部屋を襲ったのがハドソンだったこと。


 彼はこの事態をずっと前から計画していたこと。


 この事態をもたらした色々なこと。


 毒喰派、鋼鉄派、ディープスパイダー、アイアン・インゲル、饗宴、もう一つあった秘密会議。


 ハドソンは、アイアン・インゲルにあった私の部屋に、秘密会議の記録を置いて行ったそうだ。


 そして、「秘密の部屋」にあった。エア・ブレス・メタルのこと。


 ブラックバードのこと。



 私には想像がついた。ハドソンの目的。彼の向かう先のこと。


 もしも想像通りなら、あの表彰式の協賛企業が道しるべとなるはずだ。でも、こんなことは本当はあってはならないはずだ。何かが違うはずなんだよ。


 それに、ハドソン。もしも、私のエア・ブレス・メタルがあなたに何かをもたらしたとしても、それはきっかけの一つに過ぎないはず。


 あなたの望みが少しでもかなったなら、それはあなたがそれを望み、その為に行動し、やり遂げた結果のはず。


 もしも、私のエア・ブレス・メタルの力が大きかったとしても、あなたが創った素材にそれを混ぜてはいけない。あなた自身のエア・ブレス・メタルを創らなけらばならない。あなたなら出来るはずなのに。ヴェロニカはやれた。だから、あなたにも、そして誰にだって創り出せるはずなんだ。


 もしも、いびつな何かで精霊を呼び出したとしたら、それはきっと、力の大きさに比例して、恐ろしいものになってしまう。でも……それでも、あなたなら、きっと……



Ziggy Side

 私は呆然自失となっていた。


 何も出来なかったことが悔しかった。みんなはそんなことは無い、と励ましてくれたけど。私は事態が収束に向かっているのを感じて、秘密の部屋の外に出た。海の側には朝焼けに混じって船がたくさんいるのが見える。この上、何をするつもりなんだろう?


 私は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようとした。


 何度目かの時に上を見ると、上空に何かが居た。


「なに、あれ……?」


 半透明、と言えばいいのだろうか? 何かがあるようでないような微妙な存在。鳥のようなものが足で何かを掴んで降りてくる。私の前に来ると一瞬姿を現し、足でつかんでいた封筒を離し、そのままさらさらと粉状になって消えていった。


「なに……これ?」


 私はその封筒を開いた。中には光ディスクのケースが一枚。カバーには、何か絵が描いてある。大きく目を見開いた人の眉間から何かが突き出ている。


 書いてある文字は、


 RAINBOW


 STRAIGHT BETWEEN THE EYES


 ケースを開けると裏にも文字が書いてあった。


 TRACK 07


 MISS Mistreated


 何だろうこれ? ディスクの中身は音楽? それとも映像? 私が扱えるものでどうにか出来るんだろうか?


 とにかくやれるだけやろう。もう、立ち止まることはない。立ち止まったとしても、また歩ける。


 後ろの方で馬の嘶きが聞こえた気がした。


Night Side

 目が覚めた場所は、ベッドの上だった。


 私はあたりを見回して、事態を把握しようとする。


 色々見て、ちょっと変な所に気付く。徐々にその違和感に注意が向く。


 私の右腕が無かった。

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