第49話 お前たちが不滅なら、何故支配する必要があるんだ?

Mary Jane Side

 二体の精霊は相当に強かった。俺も各種のデータで戦略をいくつか持っていたが、こいつらは今までの精霊とはタイプが違う。この街に実有が呼び出している精霊は見守りながらのサポートが主で戦闘は二の次だ。こいつらは元から戦闘用に形作られている。


 剣客タイプの精霊は飛んだり跳ねたり、動き回り、一度も静止するようなことがない。俺たちの攻撃を躱しては受け、受けては弾き、攻撃には虚実を織り交ぜる。こちらの攻撃がほとんど届かない。いざ届きそうになるともう一体の格闘型がそれを防ぐ。


 格闘タイプは、ほとんど動かない。不気味なほどに静止状態を保つ。そして攻撃する際には動作が見えない程の速さで拳や蹴りを放つ。剣客タイプが俺たちを攪乱しつつ攻撃する。そして格闘タイプはいつの間にか俺たちの傍に忍び寄り、一撃を喰らわせ離れて行く。


 恐ろしいほどの手練れだ。やはり実有にも闘争本能のようなものがあったのか。それとも、誰かの力が混ざったのか。


 俺は戦略を巡らしつつ、仲間と共にヒットアンドアウェイを繰り返し、距離を取りつつ攻撃していた。だが、唐突に二体の精霊の様子がおかしくなった。腕や脚、腹や胸を押さえながらふらついている。よくわからないが、これはチャンスだ。俺は全力で攻撃するように命じた。


 おそらく、この二体はダメージを体中に循環させることができるのだろう。それ故に弱点となるポイントは見つけづらかった。だが、今は苦しみや痛みが見えやすい。おそらくその時にそう見えるところが弱点なのだ。ずいぶんと人間的だ。


 二体は相当に粘った。俺たちの攻撃や自分たちの状態に適応し、苦しみながらも自らの動きやすさを追求していた。その場にあるものを掴んで攻撃と防御に利用する。俺たちを掴んで盾にする。あえて苦しみを見せ、それに俺たちを引きずり込み攻撃する。だが、ついに倒れ塵となって空気中にさらさらと消えていった。


 俺は仲間たちの状態を確認し、負傷者は治療にあたらせ、動ける者たちを連れて歩き出した。実有の部屋に入り、中を探る。色々探し回って見つけた。花瓶の下にボタンがあった。それを押すと床に仕掛けられた扉が開いた。梯子が下へ伸びている。ここが入口の様だ。


 俺たちはそれを降り、さらに続く階段や通路を進んでいく。



Ziggy Side

 私はエリア5のシステムを掌握したものだと思っていた。だが違った。私は"G.O."全体に力を及ぼすことが出来るようになってしまった。実有はどれほどの力を持っていたのか。そして、彼女はそれをほとんど使わなかった。


 私は動揺しつつも街の状況を確認する。少し驚いたのは、今私が居る場所がエリア5でないということだった。地下を移動していたけど、それほどの距離ではないように感じていたから。きっと、今はエリア9の地下だと思う。まだ、正確には把握できない。私が見えるもの、聞こえるものを傍にいる仲間に伝え、そこから情報を整理して不滅へ、そして急遽編成されたであろう救助部隊へと伝えてもらう。私たちはうまくやれている。きっとそうだ。これほどまでに上手く出来た災害対策は見たことも聞いたこともない。もっともそれは多くがフィクションによるものだけど。


 被害の状況、危険の度合いを伝えることが出来たところで、少し休むように不滅にも仲間にも奨められた。私も同意し少しだけ休むことにした。


 謎の技術が詰まった机から離れると、ブラックバードが水を持ってきてくれた。


「あ。ありがとう」


 ブラックバードは頷き、歩き出す。私は彼女を目で追った。非常口の方へ向かい、そこから実有の部屋を眺めている。徐々にそちらに近付いたり、こっちに戻ってきたりしている。どうしたんだろう? なんだか、こう、もじもじしている、と言った感じだ。


 だが、その時、私は妙な感じがした。さっきと何かが違う。目を動かし、考えながら見回す。そして気付いた。非常口の上に飾ってあったフィギュアが二体とも壊れている。全身から嫌な汗が吹き出し、手が震えた。



Day Side

 街は酷い状況だが、ヴェロニカのサポートもあって俺たちの救援活動はスムーズに進んでいた。もちろん助けられなかった者たちもいたが。救助と消火にもあたり、退路も確保できている。時々だが「空気が蠢いている」というような感覚があった。きっと精霊たちが助けてくれたんだろう。いつか礼をしないとな。俺は次の仕事にとりかかろうとした。


 <聞いていますか?>


 何だ? 何かが聞こえたような……?


 俺は自分のデバイスから何か緊急のメッセージが無いかチェックした。だが、特段の緊急メッセージはなかった。


 今のは一体……?


 すると、馬の嘶きと共に炎が割れ、俺たちの前にルドビコが現れた。


「よう。大丈夫か?」

「ええ、何とか」

「一体どうした? お前もみんなを助けてくれていたのか?」

「そう。そうだったんだけど……今、何かが聞こえた気がして……」


 こいつもか。一体何が起こったんだ?


「でも、私、これについて行ってみようと思う。今、それがいいって思う。だから、街の皆をお願い。私も出来ることはするから!」

「ああ、わかった!」


 俺はルドビコを見送り、自分の仕事に専念した。


Mary Jane Side

 目の前の大きめの扉を開けた。銃を構えながら。中には人が大勢いた。地上からの非難民を受け入れているのだろう。その中の一人が俺を見て声を上げた。


「ハドソンさん……ですか?」


 俺は知っている。実有がヴェロニカと呼んでいる友人だ。俺は彼女に銃口を向け言った。


「悪いが、俺はお前の敵だ。ちょっと質問に答えて貰おうか」

「敵って……」


 動揺しているな。当然だ。だが、これは好機だ。俺はヴェロニカに近付き、銃口を突きつける。


「実有がブローグ・ヒャータを生成する際に用いる特殊因子があるはずだ。この地下空間のどこかに。それは何処だ。教えてくれ」

「だ、だれが……」


 ヴェロニカは俺を睨みつけ、拒絶の姿勢を示した。ならば、俺も態度で示そう。今の俺に容赦はない。暴力に訴えようとした時だ。俺の背中に何かが投げつけられた。


 後ろを向くと、少女が立っていた。ブラックバードだ。


 俺はヴェロニカから手を放し、ブラックバードの許へ歩いていく。その間、ブラックバードはずっと俺の目を見ていた。吸い込まれそうな黒い瞳。それが真っすぐ俺の目を覗いている。


「お前は知って……」


 問いかけようとした時だ。俺は唐突に理解した。俺の求めるものが何処にあるのか。何故かはわからない。彼女の素ぶりか視線の動きか。俺は一角にある小屋を見る。すると後ろで、


「やめて!」


 という声がした。なるほど、間違いないな。俺はブラックバードを掴み、小屋へ歩いて行った。部屋に押し入る際も後ろでヴェロニカが悲鳴を上げていた。


 部屋の中は殺風景だ。ベッドが一つに机が一つ。俺は机の引き出しを開けてみた。そこには金属の塊のようなものがあった。延べ棒のように整ってはいない。鉱山から掘り出された鉄鉱石のようなものだ。俺はそれに触れる。感覚でわかった。間違いない。これがエア・ブレス・メタルだ。


 俺はそれを懐にしまい。ブラックバードを見る。少女はじっと俺の目を見ている。そして言った。


「実有を解放したいと願っているなら、私を連れて行って」


 何を言っているんだ? 何故俺の望みを知っている? この子は一体何なんだ?


 動揺しながら、俺は動いた。長くとどまるのは危険だろう。俺はブラックバードを抱えて部屋から飛び出し、上へと通じる道を進んだ。後ろではヴェロニカの慟哭が響いていた。

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