第48話 お前の導き方を誤った
Night Side
私はリスベットを睨みつけ、鈍いナイフを抜いた。
「これじゃ……地上は無差別爆撃と同じ状態じゃない。あなたの言う通りだったとしても、彼らが無事かどうかなんてわからない」
「そうね……その通り……それは、考えていなかった」
「考えてなかった!?」
私は刀を喉元に突きつける。そのつもりだった。だが、彼女の顔を見て、体が動かなくなった。
笑いながら、泣いている。
私が武器を持ち、攻撃態勢を取っているというのに、彼女は無防備だ。時に笑い、泣き出し、怒りを表し、地団駄を踏んだり、周りのものにぶつかっては、それに謝ったり。そのままふらふらと部屋を行ったり来たり。
「これで、終わった……私は、やれた……でも、だから何だったの……」
部屋が振動した。窓を見ると下に落ちているようだ。だが、この高さから落ちるにしてはゆっくりだ。恐怖に襲われながら、私は床にへばりついた。
弱い衝撃と共に、部屋の動きは止まった。顔を上げるとリスベットが居ない。窓から彼女が歩いていくのが見えた。ここは何処かの屋上だろうか? 私は扉を開け外へ出る。
そこからの景色は見覚えがあった。ここはホール・エリア48だ。助かったのだろうか? 私にとっては好都合かもしれない。鋼鉄派の領域なら私の障壁を相当弱くしても平気になってきたから。彼女との戦いにエネルギーの多くを向けることが出来る。
「燃えている。悲鳴が聞こえる。これが私のしたことか……」
街を見ながら、リスベットは呟いた。
私はその後ろから全力で斬りかかる。だが――
「うっ」
右腕に痛みが走った。私の右腕が何かに貫かれていた。黒い針のようなものだ。彼女の背中からそれが飛び出し、私の腕を貫いた。
「私、今、酷い顔をしているのよね。きっと」
そう言うと棘が彼女の背中に収まった。私は右腕を押さえる。血が流れ、痛みが走る。
「笑い男は、その顔を見せただけで人の命を奪った。だから、私も仮面をつけるべきよね。あなたもそう思ったんでしょう?」
その通りだ。でも、私は仮面をつけていない。そのやり方もわかってきたんだ。
彼女の体は全体が黒い何かに覆われた。真っ黒な人影。それが振り向いた。
それから、彼女は自分の体を自在に変化させて襲い掛かって来た。液体の金属で作られたサイボーグの様に。私が刀で防ぎ、動き回って逃げ、物陰に隠れる。彼女はそれに合わせて武器を作る。水が器に適応するように。その時、その場にあるもので戦う。それに合わせて自分を変える。ならば、私もそうしよう。
私は鈍いナイフと同調する。視界には一瞬キラキラとしたものが映る。未だに謎だ。「彼等」は何を望んでいるのか。
私は彼女の適応力に適応する。望みは彼女を倒すこと。この力は彼女が生み出したものだ。ヴィトリオルはきっかけだった。私は自分の力を混ぜ、そこに現れる結果を見て取る。彼女を覆う黒い何か。その構造を見つつ、斬撃を加える。徐々に反応が現れる。私の望む動きへ導く。その反応を強化する。いつもやってきたことだ。だが、今は右腕が痛い。ひどく痛い。もうすぐ、私の方が追い詰められる。彼女は笑いながら私の右腕を集中的に攻撃。私は屋上の端に追い詰められ、鈍いナイフを落とした。ここまでか。と思った時だ。攻撃が止まった。
私は彼女の方を見る。何かが彼女を抱きしめている。いや、抑え込んでいるのか?
「なんだよ……今日は笑ってないのか?」
「お前は笑いすぎだよ。少しな。俺と一緒に休もう」
そう言ってそいつはリスベットを抱えたまま、屋上から飛び降りた。周辺の喧騒が激しいのでそれに掻き消されたのだろう。地面に落ちた時の音は聞こえなかった。私は下を見る。リスベットが倒れている。その周りには、何かが砕けて落ちているようだ。
あれは一体、何だったんだ? 私は、まだ生きているのか?
身を起こし、楽な体制で座る。右腕は酷い状態だ。これはまずいな。血は止められるだろう。だが、その先はわからない。
私は屋上を眺める。
そういえば、鋼鉄派も飾っ気が必要だといつからか思ったようだった。このホールの屋上には四隅に石像が置かれていた。今、その一角が空だ。
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