第47話 自分の名前は自分で決める。でも、あなたが付けてくれるなら…

Mary Jane Side

 こんな手段があるとはな。やってくれる。だが、どうにか俺は無事だった。備えていたのは俺も同じだ。信頼できる仲間たちを集めてこの後に起こるであろう事を切り抜けなくては。

 俺は連絡を取りつつ、例の通信ラインを開く。おそらく、あいつだろう。


Wolf_DH

 よう。無事か?


「なんとかな。お前は?」


Wolf_DH

 俺は目的の第一段階達成だ。もう少しで手が届くだろう。お前たちに礼をしないといけない。目の前の光景は酷いものだが。


「そうだな。それで?」


Wolf_DH

 調査が終わった。内と外の情報を照らし合わせて、さらに探っていった。その結果「何もない場所」があった。


「なんだと?」


Wolf_DH

 俺たちも工夫していったんだよ。この街のあらゆるものを探知しようと努めた。そうしていくうちに地下に「何もない」としか言えない場所があったんだ。


 つまり、あらゆるセンサーを使っても検知できない何かがある、というところだな。「地下の通路」とでもいえばいいんだろうか。レーダーには真っ黒な線のようなものが浮かんでいるな。


 それがこの街の地下を縦横無尽に走っている。そして、それが結びつく「ある地点」に大きな空間がある。おそらくそれが「秘密の部屋」だろう。


 その辺りを入念に調べると、黒い中に反応が見えた。きっとその部屋を作った奴以外の者、そいつ影響が強くなって反応が出たんだろう。


 徐々に反応が多くなっていったから、そいつの私物のようなものが持ち込まれているのかもしれない。


「そうか。よくやってくれた。言葉で礼しか言えないが。感謝する」


Wolf_DH

 充分さ。それに俺たち敵同士だろ? あんたの、その、健闘を祈るよ。


「それで、場所は?」


Wolf_DH

 たしか、外側との戦闘に備えて地図や地名を若干いじっているらしいな。攪乱や防衛のために。こっちにある地図と照らし合わせてもらうしかないが。


「大丈夫だ。その辺は頭に入っている」


Wolf_DH

 じゃあ、言うぞ。その場所がある地上の住所は、東京都港区台場―――――


「何!?」


 それは、今俺が居る場所だぞ。アイアン・インゲルの本社だ。


Ziggy Side

 不滅が対応にあたっているけど、地上は大変な状態みたい。私はエリア5のインフラをフル稼働させることを決めた。このエリアのインフラの構造は私にはわからない。作ったのは実有だからだ。彼女ならきっと説明することも出来るはずだけど、私には少ししか話さなかった。きっと、自分で考えろ、と言っているんだろう。最近になって、それがどれだけ大事なことかがわかって来た。


 このエリアのインフラは、簡単に言えば住人が一日を生きることで、それに見合ったエネルギーが生成される、というものらしい。彼女はこんな風にも言った。



 人は生きるためのエネルギーを自ら作り出せる。機械に支配されて気付くことが出来た。そして機械も人間が独立して生きることを望んでいたはず。そこから未来が生まれると信じたのだろう。そして、プラグが外れても、人は夢を観る。と。



 一つだけ解明できたことがある。このエリアの地面は、人が歩く際の振動をエネルギーに変えている、ということだ。それ以外にも仕掛けはたくさんあるはずだ。彼女はいざという時のインフラのコントロール権を私に委ねてくれた。きっと今がそれを使う時。


「ねえ」


 私の袖が引かれた。ブラックバードだ。


「どうしたの?」

「あの扉は?」

「あれは、非常口よ。彼女が言っていた。まだ、あの先へは言った事が無いんだけどね。鵜呑みにしてはいけないと思うけど、私は信じる」

「うん」


 そういえば、飾っ気が無い、なんて言ってしまった。非常口にそんなもの必要なかったはずなのに。今になって浅はかだと思う。それを聞いた実有は扉の上にフィギュアを二体飾った。それが今私たちを見つめている。



Mary Jane Side

 アイアン・インゲルに仲間が集まって来た。これで、並大抵の戦力なら圧倒できる。俺たちは必死にもがいていたからな。


 俺は先頭を切って歩く。社長室から少し離れたところにある実有の部屋だ。まさか、あれだけ探し求めたものが隣の部屋にあるとはな。俺はドアを蹴破り、部屋に押し入ろうとした。


 だが、部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、胸に衝撃が走り後ろに突き飛ばされた。何が起こったかわからずに体を起こし、目の前を見る。すると実有の部屋から二つの人影が現れた。所々に奇妙な模様を入れた装備を纏っている。


「精霊か」


 実有もしっかり備えていたようだ。人型の戦闘タイプ。派手な装備とは裏腹に油断ならぬ気配を漂わせている。これは全力で向かう他ないな。俺は仲間に戦闘開始の合図をした。俺たちは銃を構え、剣を抜き、持てる力を振るう。


 敵は二体。一体は格闘型だろう。もう一体は大ぶりの刀を持っている。右手に一本、左手に一本。

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