淳先輩とお寿司

@usapon44

第1話じれったい

 ヒノキのカウンター席に並んで座る。

「食べたいもの食べ」

 淳先輩が隣で言う。

「コハダといか」

 わたしは板前さんの後ろに並ぶ魚たちの名前を右端の値段が安そうなもののなかから選ぶ。

「もっと景気よくいこうや」

 隣にいる淳先輩が板前さんに注文する。

「ウニ」

 ウニ。わたしは自然と顔がほころぶ。緑茶を飲む。ほっ。淳先輩はいつもとかわらず美味しいお寿司を注文してくれる。ウニが目の前に置かれる。本物のウニ。

「食べえや」

 淳先輩はやさしい関西弁でいう。淳先輩とは大学の新歓コンパで知り合った。二軒目にいこうと歩いていたときだった。

「あれ、なんてかいてあるんや」

 スナックの文字を示す。大原女。

「おおはらおんな」

「なにいっとるんや。おおはらめやないか。漢字読まれへんな」

 やさしい瞳。わたしは、東京のお兄さんとそのときから勝手に決めてしまった。女子大には関西の人がほとんどいない。関西弁を話すと下品だっていわれるし、関西弁で話していると関西の人ってさあって言葉ですぐに関西出身とわかってしまう。だから大急ぎで標準語を覚えた。そやけど、たまに関西弁でほっこりしたいときは、わたしが淳先輩を呼び出す。高層ビルのカウンターで淳先輩とののんびりとした時間を過ごす。支払いは淳先輩がしてくれる。

「金はもっているほうがはらえばいいんだよ」

 淳先輩は本当にやさしい人だ、と思う。淳先輩が

「今、何時?」

 ってわたしの手首の時計をみる。指先が冷たい。わたしは心配気に淳先輩をみる。

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