第81話 1942年 春頃 自動車レース 過去
――三重県 鈴鹿市 藍人
藍人は会社の仕事を兼ねて三重県の鈴鹿市に足を運んでいた。鈴鹿市には自動車レース用の鈴鹿サーキットが昨年落成し、今年度から自動車レースが開催される運びになっている。
自動車レースは世界各国から注目されており、藍人の目的は世界各国から集まる自動車産業の関係者であった。
初のスポンサーが協賛する大型の自動車レースとあって、会場へ多くの観客が集まり世界からの注目も高い。初回ということで、ドイツやオーストリア連邦など海外の自動車も参加している。
観客以上に熱い視線を送っているのが自動車産業の関係者の面々であった。藍人は日本の自動車メーカーと海外の自動車メーカーの両方にコンタクトを取り、ビジネスになりそうな輸入品と輸出品をさがすため鈴鹿サーキットまで来ていたのだ。
決して自分の趣味のためではない。決して。
各社自慢のスピードを重視したレーシングカーがスタートラインに集合する姿は圧巻で、藍人の手に持つカメラにも力が入る。
スタートを告げるファンファーレと共にレーシングカーは一斉に走り始める。初めての大型レースということもあって、途中トラブルで止まる車や、軽い接触事故を起こす車などもあったが怪我人もなく、大好評のうちにレースは幕を閉じた。
その日の夜、日本のとある自動車会社から誘いを受けていた藍人はその会社の打ち上げ会場へと移動する。
会場の入り口では以前仕事で取引をしたことのある中年男性が彼を待っていてくれた。
「藍人さん。こんばんは」
「お待たせしてすいません。いやあ自動車レースってすごかったですよ。興奮しました」
藍人は中年男性に両手を広げて本日のレースでいかに興奮したかを告げる。
「それは私達メーカーもですよ。あれだけ各国自慢の自動車が集合した姿は圧巻でした」
中年男性も同じように非常に興奮した様子で藍人を会場の中へと迎え入れた。
会場内は既にたくさんの人が集まっており、外国人の姿もちらほら見える。藍人を迎え入れてくれた中年男性はありがたいことにずっと藍人の案内役をかってくれている。
「これだけ大反響なら、来年も開催できそうですね」
オレンジジュースをスタッフから受け取りながら、藍人は中年男性に話かける。
「ええ。お陰様で広告費を出すという企業が今年より多く集まりそうです。テレビでの放送も好評だったようですし」
「それは良かったです。まあ、あれだけのレースを見れば多くの人は感動しますよ!」
「今回幸い怪我人は出ませんでしたが、もう少し安全性を考慮しなければという反省点も見えました」
藍人は中年男性の懸念点に確かにと思うが、もうそこまで考えていることに感心するのだった。
「なるほど。外国の自動車はいかがでしたか?」
「さすが藍人さん。どんな時でもビジネスを忘れませんね」
「いえ、ビジネス以上にこのレースをもっと盛り上げたいって気持ちの方が強いです」
「いくつかコンタクトを取りたい海外メーカーがいます。ぜひ仲介をお願いしたいです」
「了解しました。ぜひやらせてください!」
藍人は中年男性と握手を交わし、彼の期待に応えるべく頑張ろうと心を新たにするのだった。
排出規制や独墺とソ連の戦争など自動車会社にとって逆風があるが、藍人が見たところ自動車会社に悲壮感は全く感じられなかった。むしろ本日開催されたレースで自動車会社は活気があるように見える。
マイカーブームも始まったばかりだし、数年後には一家に自動車一台という時代が来るはずだ。これだけ大きな潜在需要が見込める自動車会社の未来は明るいだろうと藍人は確信したのだった。
――磯銀新聞
どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回もエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! 孫が小学生になっちまった。俺も結構な歳になったんだなあ。
孫は可愛いかって? そらもう可愛いさ。あれだよ。ランドセル買ってしまったよ。ランドセル知ってるか? そうあの高級品だよ。そのうち安くなるかもしれないけど、高かったんだよ!
台湾で住民投票が行われ「日本へ帰属」が圧倒的な支持率を得たぞ。その結果、台湾は台湾府として日本の一部となった。台湾国籍の市民は全て日本国籍へと変わる。日本の植民地は台湾が台湾府になったことで存在しなくなったが、南洋諸島の委任統治領はまだ残る。
委任統治領はオーストラリアの委任統治領だったニューギニア東部が完全自治を認められ、イギリス連邦に所属したという先例があるから、日本はそれに
委任統治領は三つの形式があり、南洋諸島は日本の構成地域として扱ってよいとされている(C式)。ニューギニア東部も南洋諸島と同じC式だったから、イギリスに追随するか日本独自に日本の内地又は海外州とするか決めかねているというわけだ。
ニューギニア東部と違い、南洋諸島は人口も面積も少ないから独立して経済を成り立たせるのは難しいだろう。結局日本政府は現地の市民と協議を行い、市民感情に配慮すると決定を先送りにした。
んー。次はどっちに行こうか。複雑じゃない方から行くか!
オランダ領東インドへ反乱勢力の鎮圧を続けるオランダに対し、日英仏の三か国はオランダへオランダ領東インドの自治権を認めるよう提議を行った。一週間後にアメリカも日英仏へ追随する。
しかしオランダは世論がオランダ領東インドの自治権を認めない為、オランダ政府も自治権付与に動くことができなかった。日英は再度オランダへマラッカ海峡の安定だけは確保するよう要請を出すが、オランダの回答は
満州における日米協議が行われ、日本とアメリカは参戦条項の改定を行うことを決める。満州がモンゴルから提案を受けている国境線に関する協議でこのまま一切の妥協を行わないのならば、ソ連が満州に侵入した場合に限り日本の参戦義務が発生すると参戦条項の改定が行われた。
平たく言ってしまうと、満州から戦争を仕掛けずに、ソ連赤軍が満州に攻めて来た場合に限り、日本が参戦すると決められたってわけだ。
日本が戦争回避のためにアメリカと協議することで満州へ圧迫をかけたが、満州の意思は変わらなかった。これは国境紛争が起こるだろうなあ。アメリカはどうするんだろうか。
アメリカが妥協した理由は東欧にあるだろう。東欧では独墺軍とソ連赤軍の戦争が始まっている。独墺軍がソ連のポーランド占領地に侵攻し、両軍の戦いが始まる。日本も独墺軍へ後方支援を行っている。
東欧でソ連が戦争を始めたので、アメリカは満州でソ連が参戦したとしても規模が小さくなると試算したんだろうか?
独墺軍とソ連赤軍の戦いは緒戦航空支援を受けた独墺軍がソ連赤軍を押していたが、ソ連赤軍は独墺軍の機械化部隊へ次第に対応していき戦線を押し戻すことに成功する。
航空機などの性能に勝る独墺軍と数で勝るソ連赤軍の争いはどちらに天秤が傾いてもおかしくない情勢だ。情報が入り次第続報をお知らせするぜ。待っていてくれよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます