第79話 1941年 秋 満州国境線問題
――東京 藍人 過去
日本ではマイカーブームが始まり藍人も家族三人で国産のディーラーへ足を運んでいたが、来年から実施される車の排出ガス規制があったため、自動車会社は対応にてんてこ舞いになっている。
藍人は展示されている小型車の扉を開けて乗り込みハンドルに触れていたら、息子も楽しそうに助手席に座り体を揺らす。
「
「うん!」
息子の
「藍くん。ちゃんと見て選んでね」
「わ、分かってるよ」
来年から実施される自動車排出規制は自動車業界に衝撃を与えたそうだが、自動車業界自体はついに自分たちへも規制法の波が来たのかと割に冷静だったと聞く。日本では公害対策法が定められていて、工場の排出規制やゴミ処理の基準、大気汚染基準などが細かく定められている。
マイカーブームは結構なことだが、そのおかげで空気が汚染されていると政府発表があり、自動車排出規制が定められるようになったというわけだ。
公害の恐ろしさは学校教育でも取り入れられており、科学物質の汚染で人体にどれだけ被害を与えるのかとか、自然環境の破壊は生活環境にどれだけ影響を与えるのかなどが授業で語られる。
藍人もロンドンのスモッグ問題は写真だけであるが見たことがあり、スモッグで子供が外で遊ぶのも気を払うような生活環境になって欲しくないという気持ちは当然だと思っている。
公害だ環境だと言っている政府であるが、迫る電力不足問題に備え新エネルギー研究所での研究は進んでいるが、ダムの建設ラッシュが続いている。ダム建設は公共事業の一環として実施されているから「環境が」という政府の言葉と矛盾するように見えるが、水害対策にもなると政府は説明している。
事実日本の消費電力は年々増加の一途を辿り、発電施設の増設と発電効率の改善は最重要項目として政府内で議論されているそうだ。
「父さん。こっちの車はどう?」
いつの間にか車から降りた息子が車の窓腰に藍人を呼ぶ。
急いで運転席から降りた藍人は息子に手を引かれ別の車の前にやって来る。息子が指さす車は大型車で藍人と蜜柑の希望とはサイズが異なる。
「大きいな。この車は」
「うん。強そうでしょ」
「そうだな」
藍人は無邪気な息子の頭を撫で、ちらりと蜜柑に目をやると彼女は「ダメよ!」と目で語り首を横に振った。
この後何度か蜜柑ににらまれながら車の見学を続ける藍人と息子であったが、結局決まらず帰宅する運びとなった……
その晩、自宅の縁側で藍人と息子は涼を取る為にくつろいでいた。秋になったとはいえまだまだ暑い日が続き、屋内は日中にたまった熱気のせいで暑い。縁側に出ると、気持ちよい風と虫の声が響き快適に過ごせるというわけだ。
「父さん。俺さ。夢があるんだよ」
「おお。
藍人は身を乗り出し、息子の言葉を待つ。
「ありがとう。父さん。俺さ、宇宙に行きたいんだ!」
「すごいぞ。
「うん。絶対父さんに見せてあげるよ。俺が宇宙から父さんに通信するんだ」
頼もしい息子の様子に藍人は顔が緩みっぱなしで、藍人は息子の頭を撫でる。
――磯銀新聞
どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回もエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! 秋と言えば月見! 団子じゃない。月見酒だぜ。酒が上手い。
俺が注目しているロケットなんだけど、ついにロケットが大気圏を突破したとかなんとか。これは、来るな宇宙時代が! 俺が死ぬまでに人類を宇宙に送ってくれよ。頼んだぜ。
独墺とソ連は不気味な静寂が続いている。ドイツが東プロイセンの共産党主義者の摘発に時間を取られているってこともあるが、ルーマニアの国王派の支援も理由の一つだろう。
ソ連がルーマニア共産党へ目に見えた支援を行っていないのが非常に不気味だよな。独墺日はルーマニア国王派へ本格的な支援を開始したが、国王派だけでは兵力で優勢で武器弾薬も豊富にある共産党軍へ苦戦している。
独墺軍がルーマニアへ踏み込めばすぐ片はつくと見られているが、そうなるとソ連も進出してくるだろうから、東プロイセンの共産主義者摘発が完了しなければ動きはないだろうな。
オーストリア連邦単独でルーマニアへ軍を進駐させても問題ないが、日独墺は急がずじっくりと事を進めることで同意している。独墺の足並みを同じにして協力して当たることを重視するとのことだ。
中華ソビエト共和国で動きがあった。華北と華南を固めた中華ソビエト共和国はフランスとポルトガルの列強租借地に対し返還を求める声明を出す。列強各国は拒否の返答を返すが中国共産党政権はあきらめていない様子で、早期返還を今後も求めると発表している。
フランスは膠州湾と広州湾を租借地に持ち、ポルトガルはマカオを植民地としている。フランスはフランス領インドシナにおいて完全自治権を認めるなど脱植民地への動きを見せたので、中国共産党は租借地の返還を求めたのかもしれない。
ポルトガルは自力が低いからだろう。イギリスの租借地に対して中華ソビエト共和国は沈黙を保っている。まあ、イギリスは別格と考えているんだろうな。
モンゴルが満州国へ両国の国境線について協議を求めている。モンゴル人民共和国と満州国は国境を接している部分があり、一部地域の国境線がまだ未確定だった。
これまでモンゴル人民共和国は満州の貢献者たるアメリカへ配慮して国境問題を提議しなかったが、先の中華民国との戦争で自信をつけたからか、中華ソビエト共和国の後押しもあり、ついに満州国へ協議を提案したというわけだ。
モンゴル人民共和国が主張する国境線は満州国が主張する国境線と異なり、現在は満州側が実行支配している状況になる。協議の拒否又は協議の結果次第では国境紛争に発展する可能性が高い。
話は移るが、イギリスが混迷する東南アジア植民地に対し新しい方針を打ち出している。イギリスは東南アジア地域の自治権を認める方針でイギリス連邦という枠組みを作り、イギリス連邦の中で東南アジアのイギリス植民地へ自治権を付与する仕組みで植民地と協議を行っている。
この結果、東南アジアのイギリス植民地のうち英領マラヤはマラッカ半島にあるマラヤ連邦、ボルネオ島北のブルネイ王国の二つに分かれた。サワラクはブルネイ王国の一部としてブルネイ王国内で自治権を認められる形となった。
シンガポールだけはイギリス直轄地となり、イギリスの東南アジアにおける防衛拠点とすると決定した。
その他のイギリス植民地であるビルマはビルマ国として、オーストラリアの委任統治領のニューギニア島東部はニューギニア国として自治権が認められることになった。
複雑になってしまったよな。平たく言うと、東南アジアにおけるイギリス直轄地はシンガポールだけになる。フランスの直轄地コーチシナと合わせて広大な植民地はオランダ領東インドを除き全て独立の運びとなった。
ああ、フィリピンはまだアメリカ植民地だったな。フィリピンは独立を問う住民投票が行われることが決定している。
この動きを受けて日本政府も台湾へ住民投票を行うと発表している。実施はアメリカより遥かに早く、なんと1942年中に行うとのことだ。といっても台湾の世論は独立ではなく、日本領となることが体勢を占めているから「形だけ」他国へ合わせたのだろう。
他にティモール島東部に植民地を持つポルトガルは反乱軍へ軍事出動を行い鎮圧にあたっていて、こちらはそう時間をへずに鎮圧されるだろう。
まあ、こうなるとオランダも苦しい立場だよな。一部を直轄地として残し自治権を与えるか、あくまで植民地に拘るか。オランダの今後に注目だぜ。
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