第63話 ドイツ再軍備 過去
――台湾 牛男 過去
牛男は長年の夢だった台湾水族館はいよいよ本日オープンとあって感慨にふけっていた。牛男は土木会社を退職し、水族館の職員へと転職を果たした。南国の美しい魚やサンゴをふんだんに水槽におさめた台湾水族館は、台湾の観光名所として今後売り出していく予定だ。
初日の今日、開園前から多数の人が水族館の前へ長蛇の列をつくり、大反響のうちに初日の営業を終える。初日に訪れた人たちのほとんどは地元台湾の人で、ある意味見慣れた魚やサンゴであったが、水槽で見るカラフルな魚たちは海で見るのと違い新鮮で楽しかったと感想を述べていた。
初日の営業が終わった夜、水族館スタッフと台湾の観光産業を手掛けた政府関係者はささやかな打ち上げパーティを行っていた。
牛男がビール片手にひたすら食事をしていると話かけられた。牛男が振り返ると、懐かしい人が笑顔で立っている。彼はかつて牛男と台湾水族館構想を話した男で漁師のような日に焼けた官僚らしく無い見た目をしていた。
「お久しぶりです」
「牛男さん。お久しぶり。いやあ大盛況だったね」
「お陰様で。ここまで来れました!」
「牛男さんの頑張りのお陰だよ。東京オリンピックが中止になったり、欧州でも中華民国でも暗い話が続いているからね。暗い話題ばかりのところに、水族館は皆喜んでるに違いない」
官僚の男が言う通り、新聞を毎日読む習慣の無い牛男の耳にも暗い話題が入ってきている。ドイツは大変な事になっているらしいし、中華民国はいつ戦争になってもおかしくない政情と聞いている。
「俺はあまり詳しくないんですけど、オリンピックが中止されるほど世界情勢が混乱しているんですか?」
「そうだとも。牛男さん。ソ連が支援するルーマニアをはじめとした共産党軍とドイツの再軍備で大荒れだよ」
「確かオーストリア連邦も再軍備したとか聞いてますけど、それが問題なんですかあ」
情勢に詳しくない牛男はオーストリア連邦が再軍備したのだから、ドイツが再軍備しても不思議じゃないと思うのだけど、実際はそうじゃないらしい。
「牛男さん。もしポーランドが共産化されてでもいたら、ドイツの再軍備に異議は出なかったんだろうけど」
「ポーランドは確か日本と経済協定を結んでいるんですよね。ドイツとも」
「その通りだよ。牛男さん。同じ円ペッグを締結した国同士だから、お互いの貿易も活発になって来たところだったんだけどね。ポーランドの指導者が代ってから、ポーランドが豹変してしまったんだよ」
「難しいものですねえ。政治って……」
「政権次第で態度が豹変することは珍しくないんだよ。牛男さん」
「そういう意味では共産党一党独裁やイタリアみたいな独裁政権の方がブレないんでしょうか」
「そうでもないさ。権力が集中し組織が硬直化すると腐敗の温床になるし、統制と抑圧では競争社会に比べ長期的に見れば発展も遅れるだろう」
「うーん。難しい」
牛男は政治の話となると、複雑すぎて何がいいのか答えを出せないでいる。彼は難しく考えるのをやめ、自分たちで投票し代表者を選択できる制度の方が、独裁者から与えられる制度よりは、自身に納得できるからそのほうがいいかと結論つけた。
そして牛男はこう呟く――
「俺は魚を眺めていれる社会がいいです」
と。
――磯銀新聞
どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回はエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! いやあ。新エネルギー研究所へ取材に行ってきたが、いろいろ構想があるみたいだな。ハッキリしたことが分かったらすぐ記事にするぜ。待っててくれよ。
来年からアメリカと日本でテレビの本格的な放送が開始されることになったんだぜ。ええと、NTSC方式での放送開始で、来年の四月から放送開始とのことだ。
東京オリンピックは中止になったけど、東京オリンピックに合わせて作っていた東京、名古屋、大阪の電波塔の建築は今年度中に完成の見込みだから放送開始時にはバッチリ電波がビンビンだぜえ。楽しみだな。
しかし、テレビは買えないほど高いし、数もない。テレビ放送に合わせて民間の放送会社が立ち上げたのはいいが、どうやってテレビをビジネスにするか考えたところ街の目立つところや公園に街頭テレビを設置して放送するようだ。
集客力があれば、企業の広告をテレビで放送して広告収入で儲けを出すことを予定している。上手く人が集まればいいな! 俺は見に行くぜ! ボクシングが見たいんだよな。
さて、ドイツの再軍備について緊急東京首脳会議が開催されたわけだが、日本はドイツの再軍備を支持したもののヴェルサイユ体制はイギリスとフランスの同意なしでは修正することはできず、今すぐの再軍備は難しいだろうと会議後、日本政府の発表があった。
しかし、日本はポーランドが西プロイセンに進駐した場合、ドイツの再軍備を強く支持する。また、イギリスとフランスの支援をドイツが得ることが出来ない場合には、日本が支援を行うことをドイツに約束した。
これに対し、アメリカ、イタリア、オーストリア連邦は日本を支持。イギリスは態度保留。フランスは明確に日本を非難した。
フランスの非難声明を受け、日本は再度対ドイツの方針に変更はないと明言する。この日本政府発表を受け、日本の海軍、海兵隊は欧州派遣艦隊の編成を行っている。余談だが、カタルーニャへ派遣した日本海軍は既に帰国しているぞ。
1939年9月1日ポーランドはドイツ領西プロイセンに進駐する。ドイツは非難声明を出し、イギリスとフランスに即時応戦するよう依頼するも彼らは沈黙を保つ。
そしてポーランドは西プロイセンの自国民の保護を行い、ドイツが統治出来ていない西プロイセンの分割をドイツへ提案し、ポーランドの要求が受け入れられない場合、ドイツ領西プロイセンを占領し続けると通達した。
対するドイツは、英仏の支援が受けれず、ましてやポーランドの勝手な占領も彼らの提案する自国領の分割はもってのほかで、ついに再軍備を宣言する。
再軍備宣言を受け日本は即時ドイツの再軍備を支持。日本の声明の翌日にアメリカ、オーストリア連邦、イタリア、フィンランドを含む北欧諸国、トルコがこれを支持。
イギリスはドイツの再軍備については保留としたが、再軍備を支持した各国とはこれまで通りの関係を続けると煮え切らない声明を出した。
フランス、ベルギー、オランダ、ポーランドはヴェルサイユ条約違反だとして、ドイツを批判し、共産圏の国家も同じくドイツを批判する対応を取った。
これからしばらくは情勢が硬直するものの、日本の艦隊はドイツへと向かい西プロイセンの対岸へと到着する。その間にもドイツ国内では急ピッチで再軍備が行われ数か月以内に兵器の生産体制も整う見込みだ。
人員も着々と集められ、組織化され陸軍、空軍は年内にも体裁が整う予定になっている。武器弾薬は不足することが予想されるので、日本はドイツへ物資の輸送もひっきりなしに実施中となっているんだぜ。
日本の物資はハンブルグなどのドイツ東北部の港へ送られ、日本の艦隊は西プロイセンを圧迫しつつ、補給のためドイツ西北部の港へと入る。
その間にもポーランドは西プロイセンの支配を進めており、フランスは二度の警告を日本とドイツに対し行う。フランスの警告は日本の撤退とドイツの軍備放棄だったので、日独は明確に拒否した。
まあ、当然だよな……
フィンランド情勢はイギリスと日本の補給もありソ連赤軍の侵攻を食い止めている。焦るソ連はさらなる兵力を集めているという情報が入っている。こちらも目が離せないぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます