第27話 1926年までの検討 現代
考えがまとまった健二は父へ自らの検討結果を伝えると、父は感心したように頷いていた。
「健二。経済ブロックというのなら、確かにその三か国は政治的にも友好関係を結んでおきたい相手だから理にかなっているだろう」
ロシア公国は防衛上必要。ドイツは技術もそうだが、何より社会不安から戦争へ向いては困る。オーストリア連邦周辺は火薬庫だから安定させたい。幸いこの三か国はあちらの世界の日本とこれまで友好的な関係を築いている。
健二の考えを遮るように父はさらに言葉を連ねる。
「他にも不況時でも付き合える相手を模索しておこうか。四か国と不和を招くようなら入れない方がいいが」
他の国かあ。フランス・イギリス・アメリカなどの列強は自国内で解決させるように動くだろうし、史実では他国を助けようとはしなかった。ならば列強以外の国となるわけだが……
日本に近い国から考えてみようか。中華民国は平時なら貿易してもいいけど……恐慌時はダメだな。東南アジアのタイは経済規模が低すぎるが取引相手としては問題ないか。しかし、フランスとイギリスの植民地に囲まれているから注意を要するだろう。
アラビア半島のナジュド王国は現在石油の開発中。恐慌発生時に開発がどこまで進んでいるかによるか。もし開発が完了し石油の生産プラントが稼働しているのなら、豊かな国へと歩み始めるはず。ナジュドの石油生産プラントは日本企業だから開発完了してるなら日本経済にとって追い風となるか。
しかしこの時代……どこかしらの勢力圏や植民地となっている国の多い事多い事……アフリカは言うに及ばず、南米や中米もアメリカの勢力圏と言ってもいい状況だ。アジアも多くの地域が植民地となっている……
残す地域はヨーロッパかあ。トルコはどうだろう。トルコとは1890年に起きたエルトゥールル号遭難事件をきっかけに日本との友好的な関係は続いている。一概に一緒にするわけにはいかないが、トルコと日本は列強から見るとマイノリティだからこそ良好な関係が築き上げられると思う。
実際史実でも二国は良好な関係だったから。トルコは宗教的に日本は民族的にも宗教的にも列強と異なるから、差別意識の強いこの時代においては列強から何かと不利な条件を突きつけられてきた。
もっと日本が力をつければ人権宣言など宗教や人種によって差別する社会を大々的に糾弾すれば、列強各国の社会は動揺すると思う。史実の例で見ると、日本がパリ講和会議で人種差別撤廃案を提出し否決されたニュースが流れると、アメリカの黒人が事件を起こしたりしていたからな。
当たり前だけど、現時点で人権宣言を行う事は悪手以外何者でもない。良好だったアメリカやイギリスとの関係性をぶち壊すことになるだろうから。もし英米との敵対が決定的になったとしたら、人権宣言による揺さぶりは良い手かもしれないなあ。
思考がそれてしまったが、トルコとの協力関係を強化することは悪く無い。この世界のトルコはシリアも持っているから政治的・軍事的に見ても対ソ連・対バルカン半島の火薬庫へ対処できる。
日本とは地理的に離れているけどドイツ・オーストリア連邦からは近いので、トルコは引き込めるなら引き込みたいな。
西欧は可能性があるとすればオランダなんだけど、非常時の相手としては信頼が置けないかなあ。平時はもちろん貿易を積極的に行う。何しろインドネシアに植民地があるからな。
インドネシアには必須資源が埋まっている……
東欧地域に目を向けてみよう。真っ先に思いつくのがポーランド。しかしこの世界のポーランドと日本は史実より良くはない。西プロイセンの領土問題で北側がドイツ領にとアメリカと一緒に働きかけ実現させた事も一つの理由だろう。
もう一つは史実だとシベリア出兵時にポーランドの孤児700名ほどを救い出した事案があったが、この世界ではロシア公国の領域へ早々に集まったためそもそもこのような問題自体起きていない。
関係性が良好になるきっかけがなかったとは言え、ポーランドと日本は利害関係が存在しないから平時の貿易量を増やしながら良好な関係を構築していけばいいと思う。
ポーランドも東欧において重要な地域に違いないから、ポーランドが受け入れるかどうかは別にして、話だけでも聞いてくれるくらいには持っていきたいなあ。
北欧地域はこれまで鉄鉱石の輸入はあったが、そこまで強く関わり合いがあったわけではない。ここも利害がぶつかることが皆無なので平時の取引相手として活用すべきだな。
「父さん。考えた結果だけど、経済協力についてはドイツ・オーストリア連邦に加えてトルコも誘えないかな?」
「日本とドイツ・オーストリア連邦・トルコそれぞれ二国間で経済協力を結ぶなら問題なさそうだな。恐慌の時でもトルコなら大丈夫と思うぞ」
「父さんが考えた候補ってあるの?」
「ああ。健二と同じくトルコ。それにナジュド王国は恐慌時にも引き入れたい。平時ならどこの国相手でも幅広く貿易できればいいな」
「平時は取引が無かった国とも取引できるように手広くってことかな」
「史実でもそうだったとは思うが、この世界の日本は経済力があるからより手広く出来ると思う。重点的にとなると、列強――英米仏伊に加えてポーランドと北欧諸国だろうな」
「俺もだいたい同じ考えだよ。父さん」
「よし、恐慌までの協力関係についてはこんなものか。軍事については既に日本も考えているだろうが……一応提案しておくか」
軍事かあ。父さんは輸送力と輸送鑑につける護衛、そして哨戒を重視すべきと主張している。地味だけど、物資の輸送は平時の交易にも必要だし、戦時に物資を届けるためには護衛が必要だろう。
哨戒能力が無ければ敵機を発見できないし、哨戒が潜水艦も含めて完璧なら戦闘を行うにも物資を輸送するにも都合がいい。何より戦争で一番重要なのは情報なのだというのが父の言葉だ。
父の意見は理にかなってると健二は思ったので特に彼から何かを提言することはなく、父の案をそのまま伝えるということで話がまとまった。
「あ、父さん。索敵といえば1926年に八木・宇田アンテナが発表されたんだっけ」
「ええと確か、八木・宇田アンテナは1924年に解明して1926年に英文で論文を発表したんだったかな」
「この世界だとどうなるか分からないけど……アンテナについて話をしておいたほうがいいかな?」
「技術系は素人が説明すると変に歪んで伝わって却って悪化するかもしれないぞ。ノートの人も科学者ではないだろうし。俺達が八木・宇田アンテナについて調べてノートに書くとするだろ。それをノートの人が技術者に伝える……」
「二回伝言ゲームになるってことかあ。アンテナって技術に注目してねって程度なら大丈夫かな?」
「確かにアンテナ――レーダー技術はこの先必須の技術だろう。アンテナってどんなものかの概要だけでも伝えるか」
「技術的なことには触れずにどんなものって概要だけ伝えて、注目してねって感じだね。了解」
話がまとまったところで健二はノートを開き、検討した内容を筆記していく。彼は全て筆記し終えた後、史実で起こったいくつかの可能性も併せて伝えてからノートを閉じたのだった。
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