第18話 1920年頃 過去 ソロモン諸島

――過去 牛男

 南洋諸島で元気に汗を流す牛男は恵まれた体格に加え、鎧のような筋肉質な体を持つ。さらに彼は精悍な顔をしていたので、現地の若い女性の注目を浴びていた。本人は注目されていることなぞ知らず、懸命に力仕事に精を出していた。

 彼は休日になると美しい海へ繰り出し、色とりどりの魚や美しいサンゴ礁を観察することを忘れない。これほど美しい海がこの世にあったのかと彼は感激し、熱帯のサンゴ礁に魅了されていた。

 二週間が過ぎる頃、村の若い女性たちは休日のたびに牛男が海で泳いでることに気が付き、彼の泳ぐ姿を眺める者が出て来る。

 そうなると必然的に牛男へ話かける者も出て来るが、女性に気後れする牛男は挨拶以外会話を交わそうとはせず、無骨なその姿にますますファンが増えてしまうことになった。

 

 牛男達が何をこの島へ建築しに来ていたのかというと……港湾設備だった。島へ港湾設備を建築することで船の往来を活発にしこの島が南洋諸島の経済的な拠点となることを期待してのことだった。

 港湾設備があれば、多くの資材を運び込むことが可能になる。最も軍船が寄港できることも多分に考慮されていたが……

 港湾設備工事は牛男たちの懸命な作業の結果、順調に進んでいく。

 

 ある日の昼、牛男は中年の男とお昼を食べていた。


「牛男。いい娘は見つかったのか?」


中年の男はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ牛男に問うが、彼は女の話となると口をつぐんでしまう。


「……」


「全く。どこまで奥手なんだか……お前に興味を持ってる女の子はわんさかいるぜ」


「女性と話をするのは苦手です……」


「本当、もったいない奴だよ……」


「そういえばたまに届けてくれる新聞にこれからは量より質だって盛んに宣伝してましたけど」


牛男はあからさまに話題を変えて来る。中年男はそれに苦笑するも口を開く。


「そういやそんなこと書いてたなあ。世界一の品質をとか。ドイツから技術協力を受けるやらそんな感じだったな」


「ドイツですかあ。友人が今ドイツに行ってまして」


「面白そうな友人がいるんだな。俺もドイツの話を聞いてみたいよ」


「しかし世界では紛争ばかり起きてますよねえ。ここはこんなに平和なのに……」


牛男はサンサンと照り付ける南国の太陽の光に反射する波打ち際を眺めしみじみと呟く。


「そうだなあ。アジアでもモンゴルとどこだっけ……中東の方……」


「ええと、ペルシャ帝国でしたっけ」


「そうそう。ペルシャ。王様が変わったとか何とか」


「そういった話ばかり聞きますよね。ドイツでもオーストリア連邦でも……」


 南洋諸島まで日本の領域が広がったことで、オーストラリア・オランダ領インドネシア・アメリカの太平洋諸島とも今後軋轢が発生するかもしれない……そう思うと牛男は陰鬱な気分になるが、そうじゃないと思い直す。

 考え方を変えよう。近くなった国とはこれまでより交流が深まると。いろんな商品を貿易することでお互いの利益になる。そしてこの地や周辺地域がもっと便利に豊になっていくんだ。国を越えて、一緒にこの美しい海を眺めることができたらどれほど素晴らしい事か……

 牛男はそんな幸せな未来に思いを馳せるのだった。

 

 

――ワクテカ新聞

 日本、いや世界で一番軽いノリのワクテカ新聞っす! 今回執筆するのは新人記者の池田壱いけだいちっす。よろしくお願いしまっす! 叶先輩から一度書いてみろと依頼されて書くことになったっす!

 入社したての僕ですが、一生懸命書きますので最後までお付き合いください! 今回は日本特集! これからの日本はどうなる? です。

 

 日露戦争が終わってから、日本国内の投資が活発になって各地でインフラ工事が行われていてどんどん便利な世の中になっていってます。特に道路舗装が進んでいて、自動車が行き交う日も遠くないって政府は言ってます。

 自動車と言えば、国産自動車をアメリカのように大量生産しようと研究開発が進められてるんですが、そう上手くいくものか見ものですよねえ。自動車が普及したら、国内の輸送も鉄道が無い地域でも届けやすくなりますよね。

 郊外へ住んでる人も都心まで自動車で出て来られる……そんな夢のような時代を目指して政府の援助を受けながら新しく作られた自動車会社さんが頑張ってるみたいですよ。

 そうそう、輸送と言えば鉄道も忘れてはいけません。鉄道も政府主導で都心部を中心に普及が進んでます。大都市内を縦横無尽に列車が走り、大都市間を繋ぎ。そして郊外まで広がって行く……十年後には驚くほど早く日本国内の移動ができるようになっていると思いますよ。

 港湾設備の立て替え工事もほぼ完了を見せており、大型船の寄港も容易にできるようになってきました。先の欧州大戦から造船所も大型化してますので、今後船の大型化が進むと思います。


 世界では少しぶっそうな事が各地で起こってます。一番気になるのは共産主義革命を起こそうとがんばってる人達ですね。ドイツ・中華民国の共産主義者達は特に勢力を拡大しそうでこれからも注目ですよ!

 ロシア革命を機に分離独立していた地域も赤軍に呑み込まれそうな情勢です。中央アジア地域……西トルキスタンは時間の問題でしょう。

 紛争の目玉はカスピ海周辺でしょうか。カスピ海の東側……さきほど紹介した西トルキスタンは赤軍に呑み込まれる勢いです。南側のペルシャ帝国では王朝交代が起こりガッチリと体勢が固まってますので赤軍も手を出しずらいと思います。

 なによりイギリスが目を光らせてますしね。

 でも西側は混沌とする可能性が高いです。アルメニア・アゼルバイジャン・グルジアは先のトルコと英仏の平和条約で独立承認した地域です。カスピ海西側に隣接するアゼルバイジャンは、バクー油田という大きな油田があり、ロシア革命を機にアゼルバイジャン共和国として独立しイギリス軍が防衛に動いたんですが、赤軍も攻め込んだんです。結果アゼルバイジャンはソ連に占領され、バクー油田がソ連に渡っちゃいました。

 同じくアルメニア・グルジアの共和国もソ連に占領されました。ソ連はまず旧ロシア帝国が抑えていて分離独立した地域の占領に動いてるようです。

 

 ソ連も攻めてばかりではありません。ポーランドが戦争を仕掛け、一時ソ連が攻めていましたが、逆転されソ連が現在敗色濃厚です。

 それでも、カスピ海西側の三地域を自国に組み込み、モンゴルを共産主義化。西トルキスタンを制圧と地域をどんどん拡大していってます。旧ロシア帝国の独立地域であるウクライナも頑張ってるようですが、ここも危うい気がします。

 

 お話変わって中東へ。アラビア半島はヒジャーズ王国が衰え、ナシュド王国がアラビア半島を統一。エジプト王国は欧州大戦前から独立運動が盛んでイギリスが手を焼いてるようです。現状イギリスの力が戦争で疲弊してますので、独立するかもしれません。

 お隣西側にある北アフリカのリビアはイタリアの植民地ですが激しい抵抗運動がずっと継続してます。そこまでして植民地を維持するメリットは何なんでしょうか……叶先輩に聞いときます。

 いや、エジプトは僕でも分かりますよ。スエズ運河ですよね。リビアって農業国ですし……

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