11話-知らないこと



「…メイちゃん、こういう所初めて?」


「はい…なので。少し緊張しているのです…」


「ふふ、大丈夫だよ。リラックスしてね。」




今年20歳の誕生日を迎えたばかりの私だけれど、大人になった なんて実感はどこにもなかった。

カウンター越しに握ってくれる、回らないお寿司屋さんに物怖じせずに入っていく彼女が、少し大人に見えて


憧れ を再認識すると共に、疑問も生まれた。


「…あの、おいなごちゃんって何歳なのですか…?」



考えてみれば私は…私達は、お互いの事を何も知らない。

年齢も、お互いの本当の名前も。




こんな事を聞いて、また困らせてしまうだろうか。

そんな懸念はどうやら不要だったようで、彼女は特に気に留める様子もなく応える。


「3月に21になったよー。どうして?」


「いえ…大人だなって思って…。学年で言うと私より二つも上だったのですね…!」



私はあと2年で、こんな大人になれるのだろうか…。

彼女は2年前を、どんな気持ちで過ごしていたんだろう…?


そんな気持ちを言葉にしようとした時、彼女は少し真面目な口調でこう言う。




「メイちゃん可愛いんだから、ネットで会った人にそんな個人情報教えちゃダメだよー。」


「お、おいなごちゃん…おいなごさんも歳教えてくれたじゃないですか!」


「その通りだけど、私が言った事が本当だなんて根拠が無いでしょ?」


「う…、そうですけど…。」


「あと、私の事は親しみを込めて、おいなごちゃんって呼んでね。」



「は、はい!」




どこか掴み所が無くて、やはり真意が見えない彼女だったけれど、一つ一つの仕草から何かを見つける度に嬉しくて


自分でも気が付かないうちに、彼女が気になる存在に変わっていた。



それと同時に、彼女は私の事をどう思っているんだろう?

と、そればかりが気になるようになった。



しかし考えても、気にしても、彼女の真意は見えない。



どうにもならない考えをどうにかするには、どうにかするしかないのだが…


どうにもできないと悟った私はひとまず、目の前に出されたばかりの手巻寿司を頬張ることにした。

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