第28話4-9
―シグロームスタ宙域―
専制政治による。圧政からの開放から始まったこの戦争も、政府側の降伏により、ようやく終戦を迎えようとしていた。
多くの犠牲と多くの国々を巻き込み、膨大に膨れ上がった、この戦争は、何が生まれ、何を残し、何を失ったのだろうか。
数隻の艦艇を引き連れ、反政府側に大きな勝利を齎した一人の女性が、その艦隊を指揮する旗艦にいた。
幾多の戦場で、数々の戦歴を積み重ねて行き、民衆からは、”勝利の女神””エーヴェルハイトの再来”とまで言われ、人々からは希望の星と謳われた。
自室で、端末を操作しながら書類の整理をしていると、訪問者を知らせる呼び鈴が鳴らされる。
ドアが開くと、彼女よりは少し歳上な中年の男性が敬礼をすると、手にした端末の書類の確認を促す。
それを見て、彼女はうんざりするが、男性は肩を竦めて、諦めろと言いたげな態度をとる。
だが、うんざりする事は、書類だけではなかった。
戦争が終結したとは言え、まだ戦後処理も各地に残る政府軍の残存兵力が抵抗している最中、戦勝パレードを行おうという。
それに合わせ、功労者である彼女には授賞式に参加するよう要請が送られて来た。
不安定なこの情勢の中、自分の船団を離れ単独で”ランドスケープ”に向かおうと言うのだから、それが如何に危険であるかは、誰の目にも明らかである。
そんな危険な旅をさせるのだから、反政府軍が浮かれ気分な現状なのか、男性も理解し、霹靂している彼女に、同情を禁じ得ない。
普段は、意見の対立や、嫌味や罵り合いを繰り返すが、仲が悪い訳ではなく、信頼しているからこそ、出来る掛け合いでもあり、この場合も、彼女の功績と現状を考えての事の同意でもある。
また男性も、彼女部下として、幾多の戦場で艦隊を引き連れ、政府軍の艦隊を壊滅させていく程の手腕を見せていた。
けれど、あくまで彼女の部下である事に徹し、自分の功績に関しては、あまり興味が無いようである。
最も。その辺は彼女も同じなのだが。
そんな、かけがいのない2人だが、出会はおかしなものだ。
まだお互い面識もなく若い時、とある空港で、イカ焼きの取り合いを行った事が切っ掛けだけど、再び出会うのに数年の歳月をようし、しかも2人その事を忘れており、思い出すのに再び時間が必要だった。
しばしの談笑をした後、一時の間の時間沈黙が流れ、徐に机の引き出しから、写真を貼った紙のフォトアルバムを取り出す。
色褪せた印画紙に映し出された数枚の写真を取り出しては、それを眺めたりしている。
写真には、若かりしの自分と友人た達とで撮った写真が映し出されており、今はもうこの世には存在しない後輩と友人の一人、その顔を撫でながら、当時のの事を懐かしむ。
それは、戦争で多くの人の命を奪ってきた事に、良心の呵責に苛まれ自問自答を繰り返為に、彼女の儀式に近いものだ。
自分は、本当に正しい事をしたのだろうか。
そもそも、何が正しいのか。
悪とか正義とかでは無く、そこにあるのは、真実だけのではないのか。
だったら、真実は何処に、何が真実なのか。
結局、私は何がしたかったのだろう。
―ねぇ、教えて…、みんな…。―
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