第8話1-7

「演目はいいとして、肝心の毛糸の購入と、校内と校外のポスター作りもしないと。それに、資料も…て、これはネットで検索するばいいか」

 演目以外の必要事項を口にするヴァーシャにエーファはめんどくさそうにして。

「毛糸は、それをばらせばいいんじゃない?お金無いし…」

 長椅子に置かれている人形を指差す。

「でもこれ、古いからまたバグが出ちゃうじゃ…」

 二人のやり取りに、割り込んで来たコルネリアは手を上げる。

「毛糸ですけど、実はすでに買っておきました」

「え?うそ!」

 コルネリアの言葉に、思わずっ耳を疑うエーファは椅子から飛び跳ねた。それに同調するかの様して、3人もコルネアに視線を集め驚きを隠せないでいた。

そんな姿を見て、ほくそ笑みながら得意げな顔をして、部室の棚の奥から小さなダンボールを取り出して、中から白く真綿らしい毛糸の玉を取り出す。

「じゃ~ん。最新のじゃないけど、色彩調整や自動修正が付いた良いやつよ」

「これどうしたんです?」

 素直に驚くユミハを押しのけて、ヴァーシャが慌てて詰め寄る。

「まさか、自分で出したの?」

「違うわよ。本当はそうしたかったんだけど、それじゃ部活動の規定に反しちゃうでしょ」

 勿体ぶった言い回しに、収入の出処が何なのかエーファも気になる所である。

「そりゃそうだ」

「実は、課外活動の時に施設の方から、移動費として少し頂いたりしていたのよ。ボランティアだから必要ないと言ったんだけど、子供たちを喜ばせてくれた、お礼見たな物だと言うのと、私たちの現状をその…、聞いちゃったみたいで、それで…。あ、生徒会にはちゃんと、収支報告はしてありますので大丈夫ですよ」

 彼女の説明が終わり、一同沈黙をした。

「あら?、みんなどうしちゃって…」

「何でそれ、もっと早く言ってくれなかったの」

 俯きながら、声を震わせるエーファ。

「え?」

「それがれば、もっと楽に美味しいもがいっぱい…」

「そうだよ、そうすれば午後のおやつがもうワンランク…」

「違うだろ!」

 論点のずれた、ユラとエーファの二人の頭を小突きながら、確かに黙っていたのは腑に落ちなかった。

「コルネリア、何で今まで黙っていたの?」

「ごめんなさい。言おう言おうとしたんだけど、みんなが部費の事で騒ぐから、つい言いそびれちゃって…」

「「「「あっ…」」」」

 コルネリアの言葉が身に染みる4人は、日頃の振る舞いを振り返り、もしこの臨時収入が明るみになれば、午後の優雅なお茶会と引き換えに、押し迫る貧乏という荒波に揉まれ、藻屑となり果てていた所だろう。

 その事からコルネリアの行動は感謝されるべき行動だったのかもしれない。


「毛糸は、コルネリアのお陰で揃ったし、臨時収入もある事だから、ポスターはヴァーシャの貧乏臭いカメラじゃなく、ビデオで適当に録って、端末でチャッチャと作って、スクリーンフィルムに投影しちゃえば…」

「ダメよ」

「なんだよ、またヴァーシャのダメ出しが出たよ」

「収入があったにしても、毛糸を買ったんだか、らどちらにしても予算はそんなに無いわよ。それに、スクリーンフイルム1枚いくらすると思っているの?何枚買うつもり?」

 実際、部費と臨時収入を足したとしても、校内、校外に貼るポスターの数を考えると現実的に厳しいのは理解出来るが、ヴァーシャの物の言い様に反発したくなる3人だった。

「ヴァーシャのけちんぼ」

「ヴァーシャの守銭奴」

「ヴァーシャのおたんこなす」

「誰が、おたんこなすだ!」

 今までの、素行に対しての鬱憤を怒鳴り声と共に、まとめてぶつけた。

「何の為に、苦労してると思ってるのよ。たくぅ」

「でも、先輩どうするんですか。何とか形だけでも繕わないと、カッコやつかないんじゃ」

「その為に、さっきカメラで撮っていたのよ」

 カメラを手にしながら、ユミハに説明する。

「スクリーンフイルムみたいに、デザインも動きも変えられないけど、この古めかしさ逆に新鮮味があると思うのよ。それに誰もやっていないから注目されかも。まぁ、ユミハに加工してもらってそれをコピーすれば、ずっと安く済むしね」

「アナクロだね」

「貧乏臭い」

 時代錯誤のカメラに得意となる姿に、興味のない素振りを見せるユラとエーファ。

「仕方ないでしょ、予算ないんだし、あまりお金をお金を兼ねない方法としては、手っ取り早いと思うけど」


「ま、ポスターに関しては、ヴァーシャとユミハに任せるから。よろしく」

 そう言いながら背を向け、丸根げをして関知しない事を示す様に手を振って、エーファは自分の荷物を取り出して帰り支度をするが、思い出したように、みんなに向きなお入り。

「あ、そうだ。”エーヴェルハルト英雄伝”だけど、ひとついく所があるから」

「何処へ、行くんです?」

 エーファの言葉に、一同同じ事を口走ろうかと思ったら、ユミハが最初に口火を切った。

「人格保護情報局に行って、本人に直接話を聞く」

 その言葉を聞いたヴァーシャとユミハは、少々怪訝そうな顔をしていた。

「何で、わざわざ」

「そうですよ、 第一エーヴェルハルトが私達にあってくれるかどうか」

「大丈夫よ。善良な一市民が、英雄に会いに行くだけだから。それに、本人から直接話を聞ければ、このうえのない資料となるじゃない。大体、記録は誰でも見られるんだし」

「あんたのその楽観的な性格は、時々妙な発想と行動を書き出させるのかね」

 呆れ返ったヴァーシャを尻目に、もう部活は思わったと言わんばかりに、荷物を手にしてた。

「んじゃ、帰ろうか」

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