第5話1-4

 スクリーンパネルのボードをユミハが、部室の倉庫から持ち出してくる。

電源スイッチを押すと、パネルが明るく映し出され、ユミハはタッチペンを取り出し2、3操作した後、徐に議題を書き出して行く。

「はいは~い、じゃヴァーシャがうるさいから、とっとと学園祭の演目決めるよ~」

 気のないエーファの言葉は、如何にもめんどくさそうな覇気のない言葉に捉えられがちだ。

曲がりなりにも、この人形劇同好会の発足人であり部長でもある彼女は、誰よりも人形が好きで4人に作り方の指導や動作プログラム作成を伝授する程、知識と経験が豊富なのだが、如何せんやる気が出るまでがじかかかるのである。

 好きな事をやりたいが楽をしたいという、怠惰的な態度が行動の妨げになっている。最近は、自分以外の部員が製作出来る様になり、後輩のユミハの入部も相成って、分業とかこつけては益々さぼり癖が万永してしまっていた。

 そんなエーファのやる気と行動を導かせるまで、4人の一連のやり取り、最近では5人のやり取りが、一種の通過儀礼と化した。

「何よ、その言い草は。まるで私が悪いみたいじゃない」

 問題定義のすり替えに、少し腹に据え兼ねる思いでいる、ヴァーシャを尻目に、ユラとコルネリアは、やっと話が先に進められという安心から、笑みを浮かべて拍手をして迎えた。

 パチパチ


「それじゃ、何かある人」

 その言葉を待っていたのか、ユラが手を上げる。

「はいな」

「ホイ、ユラ」

「あのね、動物が”わー”といっぱい出て、楽しく遊ぶの」

「却下」

「え~」

「動物が、”わー”と出てくると言うけど、何体作るつもり?」

「ん~、百体ぐらい?」

「「ぶっ!」」

 流石に、人形の数を聞きいたヴァーシャは思わずエーファと共に吹き出してしまう。

 流石に、人形百体は物理的に無理がある為、現実的ではないのでヴァーシャもエーファに賛同せざるおえない次第で。

「ユラ、流石にそれは無理があるんじゃない?」

「そうかな~」

「ヴァーシャの言う通りだぞユラ、現実的に考えて今から百体作れるか?。それに、話が抽象しすぎて何がやりたいかわからん」

 腕を組み、考えているのか考えているのかわからないユラの様子に、何か妙案でもあるのか、それとも駄々をこねるのではないか、一抹の不安を胸にする一同を知ってか知らずか、笑みを浮かべ髪を着分ける。

「うん。やっぱり、無理だわ」

 あっけらかんと、あっさり手を引いた態度に肩すかしを喰らう、一同でのであった。

 一同は、仕切り直しの名目で一息つき、次へと移る。


「じゃ、次ヴァーシャ」

「え?、あ、あたし?」

 不意に指名された事により、狼狽えながら自分を指しあたりを見渡すと、周りの空気は期待の緊張に包まれる。

 勢い余って立ち上がったものの、特に何も考えていなかった事に後悔の念を受けるが、何よりもエーファにそれを悟られるのが脂よりも自尊心が揺らず。必死に思考を巡らせていく。

「あの~」

 思考を巡らせるが、空回りの音ばかりが頭をよぎり、期待という抑圧に押し潰され、思考停止に陥ろうとした時、コルネリアが手を挙げた。

「何、コルネリア?」

 助け舟を出してくれたのどうか分からないが、少なくても今のヴァーシャにとって救いの神であるコルネリアに、ホッと胸をなでおろす。

「恋愛もの何て、どうかしら?」

「恋愛?」

「そう、この大宇宙で二人の男女が恋をするの。だけど、二人の恋を阻む最大の障壁が…。それは、お互いの家系が、長きに渡り醜争いをしているの。ああ、なんて悲劇。そんな家系が二人の恋を許すわけなく、やがて星々を巻き込む陰謀に…。そして舞台は宇宙へを変え、そして…」

「ちょいちょいちょい。長いよ、コルネリア」

 自己陶酔しながら、語りだしている姿に呆れたのか、エーファは話を止めた。

「あら、そうですの?。此処からが良い所ですのに…」

 話を途中で、強制的に終了させられた不満はあるが、一応自分の言いたい事が伝わったと思い意見を求める。

「どお?。中々、面白く出来る感じがするけど。しかも、みんなの憧れ恋愛ものですから、受けること間違いなしよ」

 鼻息を荒くして、得意げなコルネリアの姿に圧倒され、みんな一歩後ずさりして引く。

「確かに、先輩の言う通り恋愛ものは受けはいいかもしれませんが、話の内容から複雑になりすぎませんか?」

 ユミハの言葉に被せるように、エーファは口を開く。

「そうそう、ユミハが言った様に、複雑な内容は観客からわかりづらいし、時間内に収まるかどうか。第一脚本書くのに時間がかかっちゃうからね」

「それに、見に来てくるのは、子供が多いからね」

 ヴァーシャの言葉に、ハッとなるコルネリア。

「あ、確かに子供には、少々難しいかもしれませんね」

 ヴァーシャの言葉で、コルネリアが引き下がってくれたので、余計な討論にならずに済み、安堵の表情になる一同。

 一度火がつくと、話の長くなるコルネリアな為、今回引いてくれたのは嬉しいのだが、意外と言えば意外。


「そんじゃ、ヴァーシャよろしく」

「あ、え?。あ、あの…」

 コルネルアの話に夢中で、肝心の自分の意見をまとめていない自分に、再び軋轢が襲いかかろうとしていた時、苦し紛れに行った演目が3人を奈落に突き落とす。

「え~と、そうだ!学園物なんて…どうか…あっ!」

 言いかけた言葉に、思わずハッとなるヴァーシャ。

 それは、去年の演目の題材だった。

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