1.旅たちの分枝

第2話1-1

  部室の隅で、今では使われなくなった木製のベンチに、5つの人形が肩を寄せ合い、整然と並んでいる。

毛糸で編み上げられた、50cm程の4等身の人形の表情は、使い込まれてきたせいか薄汚れてた。

何処か、草臥れ疲れた感じの印象を受けるが、作り手の思いと愛情を受けているのか、人形同士が仲良く笑みを浮かべていた。


「う~ん、こんな感じかな…」

 カメラのファインダー越しに、人形の位置と構図を確認しているヴァーシャ。

さんざん悩んだ挙句、やっと納得の行きシャッターを切ろうとした時、端においていた人形が立ち上がったかと思うとそのまま倒れこんでしまう。

「あっ!。もぅ…」

 また、やり直し。

「ごめんユラ、人形起こしてくれない」

 暇そうにしてたユラに、声をかける。

「はい、は~いな」

 あまり手入れのされていないセミロングの髪を掻き分けながら、人形を製作した時に余った短い毛糸を色の統一感もなく、ただ漠然と結んでいた。

そこに、ヴァージャの呼びかけに、少しでも暇を潰せるのならと思い、人形の所に駆け寄っていく。

「こんなんで、いい?」

ヴァーシャとカメラを見ながら、人形の位置を確認して、

「うん、ありがとう」


 笑みを浮かべお礼を言うと、その様子をユラ同様暇を持て余していたエーファは、椅子を反対に座り背もたれを抱え込んでいた。

「ねぇ、ヴァーシャ」

「何?」

 体制を入れ替え、背もたれに頬杖をつき、

「何で、そんなめんどい事やっているわけ?」

「めんどいって…」

 呆れながらも苦笑して、ファインダーに目をやる。

「別に良いじゃない、私、これが好きなんだから。こうやって、一瞬一瞬をカメラに収める事で、もう訪れないその時その場所を閉じ込めおく。まるで時代を切り取って…、そして、これからずっと思い出とし記録でき、何十年経っても記憶を呼び覚ます事が出来るのよ。素晴らしいじゃない」

 自分が、記録者でも言いたげなその言葉と、自信に満ちた表情にユラは感度をエーファは呆れていく。

「いや、思わない」

 ヴァーシャの力説に、初夏の部室の茹だる様な暑さでうんざりしているのに、余計に暑さを感じ手で顔を仰ぐ。

「だってそれ、ビデオでもいいんじゃん」

「分かってないわねエーファは。カメラだからいいのよ。遥か大昔に、ビデオよりも先に出来た先人たちの知恵の結晶、発明品であるカメラが味があって」

「そんなもんかね…」

「そうだよ!。一瞬一瞬が大切なのよ、記録よ味があるのよ!」

目を輝かせ、鼻息を荒くしながらエーファに詰め寄るユラに、思わず座っていた椅子を引きずり後ずさりする。

「ち、ちょ…、あんた、自分で何言っているのか分かってるの?」

「さぁ?」

意味も分からず、勢い任せで口にした事に、自分自身も曖昧さに気づき、小首を傾げている。

「さぁ…て、おまえな~」

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