第2話「占い」

「なあ瀧、知ってるか?」

講義が始まるまでの10分間、寝てこの時間を過ごそうと思ったときの事だった。

「何が?」

重くなりかけていた瞼を軽く擦りながら、隣に座っている田中裕二の顔を見た。

硬そうな顎鬚を摩りながら裕二はリュックから大きなカレンダーを取り出した。

「それがどうしたんだ?」

出会った当初は奇怪な行動だと思っていたが、今では色あせてしまった俺の日常に残る僅かな彩色である。

「今年の12月28日に世界が滅びるって話だよ!」

裕二は11枚捲って、その日を指差して見せた。

それを鼻で笑いながら見た。

「滅びるって・・・どうせ、今回も普通になんにもなく新年を迎えるだろ。」

大げさと思える程の溜息を裕二は吐いた。

「そんなわけが無いだろ?プロフェット様の言うことなんだから間違いはないって!」

眉間に皺が寄った。

「誰だよ・・・プロフェットって・・・。」

すると裕二は鞄の中に手を入れて、新品の雑誌を机の上に出した。

「事件や災害とかを予言で当てて、半年前からテレビで話題になってるプロフェット様だよ!」

熱意の篭った裕二の言葉をBGMの様に聞きながら、見開きのページの真ん中で黒いスーツを着た髪の長い男が両手を広げて立っている姿を眺めた。

「預言者でプロフェットか・・・安直なネーミングだな。」

摘むようにページを捲りながら、プロフェットに関する記事をナナメ読みした。

「プロフェット様は凄いんだって!半年前の大地震とかを予言して、その近隣住人を全員避難させたり連続殺人事件の犯人を当てたりとかしたんだぞ?」

鼻を大きく広げながら地震に満ちた顔をして裕二は言った。

「訪れた人の過去とか個人情報を当てて人の信用を得て、デタラメに言ってたことが偶然当たったんだろ。」

嘲笑しながらそう言うと、裕二はそれを否定する様に微笑した。

「今までにプロフェット様は予言しかしたことが無い。それが全て当たったから、沢山の人が集まってこんなにも騒がれる存在になったんだよ。凄いだろ!」

「じゃあさ、それを聞いたお前はこれからどうするんだ?」

からかう様にそう言うと、裕二はそれを吹き飛ばす様に鼻で笑って見せた。

「プロフェット様の救いの言葉を待つ。その方が効率的だろ?」

それを聞いて少し間を開けた。

意識的に笑みを浮かべてその先の言葉を言おうとしたその時、裕二は吹き出す様に笑った。

「冗談だよ。俺はそこまでの信者じゃないからな。」

溜息混じりに裕二が言ったことを聞いて、自然と眉間に皺が寄った。

「俺はその日が来ない様にまず、巨乳の美女を安全な場所に避難させるな。そして、地球に降り注ぐ隕石をこの拳で打ち砕くんだ。」

長袖をまくって、平均的な太さの二の腕を見せつけながら自信に満ちた顔をして見せた。

それに溜息を吐いた。

「今日の学食のランチってなんだっけ・・・。」

そう言いながら用の無い鞄の中を漁った。

「自分から質問しといてその反応はなんだよ。」

「何が?」

惚けた様な笑みを浮かべてそれに答えた。

「何がじゃねえよ。そう言うお前はどうなんだよ。」

腕を組みながら裕二は言った。

「別にどうもしないよ。どうせ、今回もノストラダムスの大予言の時みたいに何も起こらないだろうし。そんなことを考えるだけ時間の無駄だろ。」

そう言ったと同時に講義の始まりを告げる鐘の音が教室内に鳴り響いた。

「達観してんな。」

苦い笑みを浮かべながら裕二は言った。

昔も同じ様なことを言われたが、今のそれはこれと違うものだ。

あの時は在り来りな日々に辟易していた。

だから現実から目をそらし、疲れる事を避けていた。

でも、今は違う。

「俺は未来よりも過去を大事にしてるんでね。」


「12月28日、世界は終わりを告げる。」

高く上がっている太陽を背にしながら街中を歩いていると、大きなスクリーンからそんな声が聞こえて来た。

裕二が今日話していた事を脳裏に思い浮かべながら立ち止まった。

そして、スクリーンに映っているプロフェットという男をじっと見つめた。

取材記者はマイクを片手にありふれた質問を投げかけていたが、プロフェットは煮え切らない返答ばかりをしていた。

その様子を鼻で笑いながらバイトへ行こうと足を出した時、人にぶつかった。

「すいませ・・・。」

そう言いながら顔を上げて見ると、さっきスクリーンに映っていたプロフェットが目の前に居た。

呆然としていると、長い髪を微かに揺らしながらプロフェットは俺を見た。

「12月28日・・・本当にこの世界は滅びる事になる。」

訝しみながらその言葉を聞いた。

「そうみたいですね。」

愛想笑いをしながら一歩後ろへ下がった。

「すみませんが、急いでるんで。」

軽くお辞儀をしながらプロフェットから逃げようとしたとき、右腕を掴まれた。

「君に大切なものはあるかい?」

不気味に感じる笑みを口元に浮かべながらプロフェットは俺を引き止めた。

「今はバイトに遅れない様にすることですね。」

苦笑いをしながら相手の手を振り解いた。

「そうか・・・。私の大切なものは、遠い昔に別れてしまった友人だ。もう随分会っていない。」

貼り付けられた笑みをプロフェットは浮かべた。

友人という言葉を聞いて、涼の姿が脳裏に浮かんだ。

それに自嘲した。

「君がその友人にとても似ていたので、思わず声をかけてしまったんだ。」

「そうですか。それでは。」

話が長くなりそうだったから、無理やり打ち切る様にそう言いながらプロフェットに背を向けた。

そして、自分の姿を隠す様にわざと人混みの中を歩いた。


「野上!お前、良い度胸してるな・・・。」

まるで仁王像の様に手を胸の前で組んで立って熊澤は言った。

「遅れてすいませんでした。」

早く家に帰りたいと思いながら深々とお辞儀をして熊澤に謝った。

「全く、うちは年中忙しいんだから遅れて来られると迷惑なんだよ。」

まるでサンタクロースの様な黒くて長い髭を撫でながら言った。

お客の居ないプラネタリウムのロビーを横目で見ながら失笑した。

「すいませんでした。」

そう言うと熊澤は溜息を吐いた。

「たく・・・。今度同じ事をしたら減給だからな。」

熊澤から掃除道具一式を手渡された。

それを受け取ってからもう一度深くお辞儀をした。

「はい。すみませんでした。」

熊澤の姿が見えなくなった事を確認してから顔を上げて館内を見回した。

そして息を吐いた。

「相変わらず・・・営業してるんだかしてないんだか分からないくらいに人が来ないな・・・。」

バケツを床に置いて、箒の柄に顎を乗せながら改めて館内を見渡しながら言った。


「さて、館内の清掃でも始めようかな。」

暫くしてから溜息を吐きながら薄汚れているバケツの柄を掴んで、プラネタリウムの中へと入った。

中に入ると、上映はとっくに終わっている筈なのに人の気配がした。

それに驚きながら座席を見渡してみると、目を輝かせながら何も写っていない天井を見つめている女性の姿が見えた。

不思議に思いながらその女性の側へと歩み寄った。

「はぁ・・・綺麗だったな・・・。」

「そんなに星が好きなんだね。」

それに続くように話しかけてみると、女性は飛び上がるように後ろを振り返った。

「す、すいません!今すぐに出ますから!!」

慌てた様子でそう言いながら立ち上がった。

「そんなに慌てなくていいよ。閉館まではまだ30分もあるからさ。」

茶色いバンドの腕時計を女性に見せて、その隣に座った。

それに合わせる様に女性も座り直した。

「小さい頃から星を見るのが大好きで、よく家族で見に行ったりしたんです。だけど、歳をとるごとにそういうことも減っちゃったんですよね。」

そして、苦い笑みを浮かべながら女性は言った。

「なんだか近頃の真っ暗な空を見ていたら、急に星が見たくなったんです。」

投映機を見つめながら女性は言った。

「ここなら、上映時間に来ればいつでも綺麗な星を見ることができるからね・・・。」

頭の後ろで手を組んで深く椅子にもたれ掛かった。

しかし、高い背もたれにその格好は有効的ではなかったため、すぐに手を下ろした。

気恥ずかしく思いながら何も写っていない天井を見つめた。

「貴方も星が好きなんですか?」

それを聞いて、視線を女性の顔に向けた。

「好きじゃなかったら、こんな所でバイトなんかしないって!」

笑いながら言ったその声は変に上擦っていた。

「本当ですか?」

疑わしそうな顔をしながら女性は言った。

それに口を尖らせ、頬に熱を感じながら視線を逸らした。

「別に・・・心底嫌いってわけじゃない。こうやって星を見ても綺麗だって思うし、もっと知りたいって思うよ。」

天井に向かって片手を伸ばしながら言った。

「けど・・・そのもっと知りたいって気持ちの先にいくと・・・星を見てられなくなるんだよね。」

苦い笑みを浮かべながら言った。

「どうしてですか?」

その言葉に渋い顔をした。

本当は分かっていたが、話してもきっと頭のおかしな奴だと思われるのが関の山だ。

「さあ・・・よくわからないけど・・・急に怖くなるんだよね。」

苦笑しながらそう言った。

「分かります!私も怖いテレビ番組とか好きなんですけど、見た後は必ず後悔するんです。それで夜中にトイレに行けなくて、朝まで我慢したり部屋中の明かりを付けたまま寝たりとかするんです。」

自分を抱きしめる様に腕を組みながら、女性は体を微かに震わせた。

吹き出す様に笑いながら女性を見た。

「ひ、酷いです!私にとっては、重大な悩みなんですよ?夏になるとそういう番組ばかりだから、おかげで夏は睡眠不足になりがちなんですよ!」

怒った顔をしながら女性は言った。

「ごめん、ごめん・・・。」

失笑しながら言った。

「貴方も大変なんだね。」

そう言うと女性は一瞬だけ驚いた顔をして見せた。

そして、すぐに吹き出す様に穏やかな笑みを顔に浮かべた。

「ええ、私も貴方も大変なんです。ということで・・・。」

そう言いながら女性は慌ただしく立ち上がった。

「いきなりどうしたの?」

突然の尋常ではない態度の変化に驚きながら聞いた。

すると女性は鞄を握り締めながらこっちを見つめてきた。

「ゆ、友人と4時に・・・あ、会う約束をしていたのを忘れてたんです・・・。」

腕時計に視線を向けると、時刻は4時50分だった。

「電話とかすれば良いんじゃ・・・。」

「友人は電話が嫌いなんです!!普段は優しくて頼りがいのある友人なんですが・・・約束を守らないと口から火を吐くほど怒るんですよ!電話でこういう事を告げても、面と向かって話せっていつも言われるんです。」

頭を抱えながら女性は言った。

「そ、そうなんだ・・・・。」

変わった友人だと思いながら苦笑した。

「それじゃあ!」

そう言いながら女性は手を振ってプラネタリウムから出て行った。


「涼・・・12月28日が地球最後の日なんだってさ・・・。」

缶ビールを片手に、机の上に置かれている、写真に言った。

それに映る涼の姿は、あの日と変わらない容姿で、屈託のない笑みを浮かべている。

「お前なら、滅亡最後の日は、何をするんだ?」

缶ビールを机の上に置いて、壁にもたれて、ゆっくりと目を閉じた。

始めは真っ暗闇で、何も見えない。

けど、しばらくすると、遠くのほうから少しずつ明るくなっていく。

眼が眩むほど、辺りが明るくなると、頬に気持ちの良い風が当たる。

それで目を開けると、いつもと同じ、真っ青な空と草原が見える。

「最後の日?」

写真と同じ表情で、涼が隣に座っている。

「そんなの・・・決まってるじゃないか。」

まるで子供のような無邪気な笑みを浮かべて立ち上がった。

「僕は・・・。」

言いかけて、涼が止まった。

目をゆっくり開けて、写真をまた見つめなおす。

「そういえば・・・いつも裕二みたいなことは言うけど、お前って・・・。」

冗談と言いながら、時々真剣な顔をして、わけのわからないことを言う。

十三年後の未来・・・どうなっているか。

「涼も・・・俺と同じ質なのか?」

苦笑しながら、写真を軽く小突く。

死んでしまった後で、気づいてももう遅い。

心地よい、浮遊感に浸りながら、畳んだ洗濯物を枕にして眠った。


朝起きて、学校に行って、バイトをして、家に帰って寝るのが、日常だった。

その間に時々、裕二が間抜けなことをして、それに振り回される。

そんな当たり前に、昨日から新しいのが加わった。

「今日も来てたの?」

なにも映っていない、プラネタリウムを眺めている、女性の背後から声をかけた。

すると、体を一瞬だけ震わせて、こっちを振り返った。

「ど、どうしたの?その顔・・・。」

目から大粒の涙を流していた。

慌てて女性の隣に座って、自分のハンカチを渡した。

「昨日言ってた、友達とうまくいかなかったの?」

渡したハンカチを頬にあてながら、女性は首を横に振った。

「いいえ。土下座をしたら、彼女は許してくれました。」

それを聞くと、彼女の交友関係を複雑に思った。

「これは・・・・今日、死ぬかもしれないので・・・。最後に、ここで大好きな景色を堪能していたら・・・耐え切れず、出てしまったんです。」

その言葉に、眉を顰めずにはいられなかった。

「死ぬ?なんで?」

「私・・・とある雑誌で、電話占いというのをやってるんです。」

胡散臭そう・・・と思った言葉を飲み込んだ。

「それで今日、バナナの皮に滑って、泥水の上に着地した挙句に、散歩中のポメラニアンに吠えられて、驚いて飛びのいた真横を大型のトラックが通過するって言われたんです。」

ものすごく具体的で、現実味のない内容だ。

「今日の朝から、その占い通りになりまして・・・。」

言われて彼女の服を見ると、泥で汚れている。

「それは確かに、不安になるね・・・。でも、その内容で、どうして死ぬなんて思ったの?占い師にそんなことを、言われたわけじゃないんだろ?」

すると、女性は滝の様に涙を流した。

「言われたんです・・・。」

顔を両手で覆って、女性は泣き続ける。

占いなんて胡散臭いと思っている、俺でもこれは不安になる。

「ねえ、このあと・・・時間とかある?」

彼女はキョトンとした様子で俺を見つめてきた。

「ありませんが・・・。」

「あと少しで、仕事が終わるから・・・それまで待っててよ。」

別に下心で言っているわけじゃないのに、顔がやけに熱くなった。

「そんな占い、本当にさせたくないし・・・。」

女性の顔が少しだけ明るくなった。


今まで20数年の人生を歩んできた。

その間、一切異性との交流はなかった。

一通り着替え終わった後で、ロッカーの扉に頭をぶつけた。

「占いなんて、まったく信じる質じゃないのに・・・。」

ため息交じりに言いつつ、あの女性の泣いている姿が脳裏に浮かんだ。

あのまま、彼女を放っておけるほど、俺の心臓には毛が生えていない。

というより、ガラスハートだと自負するぐらいだ。

「普通の人として、普通のことをしているだけだ・・・。」

別に気に病む必要なんかない。

そう思いながら、プラネタリウムの出入り口に向かった。

扉を出ると、大きな柱に寄り掛かって、建物とは反対方向を向いている彼女の姿が見えた。

「遅くなってごめんね。」

すると女性は首を左右に振った。

「いいえ。全然待ってませんよ。」

無理に笑みを浮かべて、女性は言った。

「それで・・・。」

その先を話そうとして、言いよどんだ。

それを察したのか、女性はクスリと笑った。

「名前、まだでしたね。私の名前は穂積雪って言います。」

つられて、同じように笑った。

「俺は野上瀧って言うんだ。それで穂積さん、その占い師にはこの先どうなるって言われたの?」

穂積は影のある笑みを浮かべた。

「車・・・死ぬって・・・。」

それを聞いた瞬間、背中に冷や水をかけられた気分になった。

光で眩む視界に鳴り響くクラクション・・・。

「野上さん・・・大丈夫ですか?」

不安そうな穂積の声で、自分が震えていたことに気が付いた。

さっきの不安を拭うように、顔を左右に振った。

「大丈夫。具体的には、どんな状況で?」

すると、穂積の顔が曇った。

「それが・・・それの先を言う前に、突然電波が不調になってしまいまして、聞けなかったんです。」

なんだか、気味が悪い・・・。

「そっか・・・。まあとりあえずは、車が絶対に通らない道を歩いて、今日を乗り切れば、問題ないな。」

そう言って、空を見上げるともう、真っ暗だった。

右手に自然と力が入った。


プラネタリウムから離れて十分経った現在。

後悔と単純バカという文字で頭の中がいっぱいだった。

「道路以外の場所を通ると、遭難しそうですよね。」

頼りない外灯で照らされた、一本道を歩きながらため息を吐いた。

周りは背の高い杉の木ばかりだ。

「普段、原付とバスで通ってたから・・・全然気にも留めてなかった・・・。」

時間が経つたびに、彼女の顔はだんだん暗くなっていく。

あのまま、プラネタリウムに居たほうが、安全だったと心底思った。

「でも、この道の先はプラネタリウムだけだし、閉館しちゃえば業者でないと、ここを通る車もないだろうから、安心だよ。」

苦笑しながら言ったが、彼女の顔は変わらない。

申し訳なさで頭の中がいっぱいになった。

こんな時・・・裕二だったら、アホなことを言って、彼女の不安を取り去るんだろうな・・・。

そんなことを思いながら、穂積を横目でチラチラと見た。

なにか・・・声をかけようと思った瞬間、遠くの方で車のライトがチラついているのが分かった。

考えこみ過ぎなのは分かってる。

自然と、車が通り過ぎるまで、穂積を自分の背後に隠すように立った。

しばらくしてから、緊張感を破るように、ため息を吐いた。

「なにもなくて良かった。」

そう穂積に笑いかけたとき、通り過ぎた車が不自然に停まっているのが見えた。

嫌な予感がする・・・。

その瞬間、穂積が声にならない声で叫んだ。

穂積の視線の先に目を向けたら、視界が眩んだと同時に、嫌なタイヤの擦れる音が聞こえた。

勢いよく、穂積の右手を握りしめた。


スーパーマン。

寒色系の体型に密着したスーツを着ている。

赤いマントで自由に空を飛び、悪人をやっつけて、困っている人を助けている。

笑うときはいつも、真っ白い歯をキラリと輝かせている。

それが俺の思い浮かべる、一般的なスーパーマンだ。

「スーパーマンが助けに来たんだ。」

自分に言い聞かせるように、空に向かって右手の拳を突き出した。

左もそうしたかったが、気絶している穂積の下にあるため、できなかった。

穂積を起こそうと揺すってみるが、全く起きる気配がない。

周りは田んぼ・・・というより、その中に居る。

感情の籠っていない、笑いが噴き出すように、口から出てきた。

スーパーマンなんて居ない。

遠くにプラネタリウムの屋根が見える。

ここまで、一瞬で移動してきたんだ。

無我夢中で・・・彼女の手を掴んで・・・。

右手の平をまじまじと、見つめる。

涼が死んでから、なぜか瞬間移動ができるようになった。

最初のうちは、距離は短かった。

でも、時がたつにつれてその距離は、だんだん長くなっていった。

周りに自慢したい気持ちはあった。

涼の葬式の時に、丸内に呼び止められて、それは秘密にするようにと言われた。

なぜと言うと、「世の中は普通の人の方が、寂しい思いをしなくて済むんだ。」と返ってきた。

漫画の中とか、よくある設定だ。

「占いなんて、結局当たらないも・・・。」

言いかけた時、人影が俺の顔を覆った。

視線を向けると、ショートヘアーの女が立っていた。

「車から降りてきた人に、刺されて死ぬでしょう。」

誰か・・・スーパーマンでも何でもいいから・・・来てくれないか。

女は両手で持ったナイフを大きく振り上げる。

あの予言・・・俺には意味がなかったかもしれない。

だって、12月28日よりも前に死んだら、全く関係ないじゃないか。

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