第1.5話「僕たちの2011年」
「瀧、年が変わることについて、どう思う?」
ジャングルジムの上で、涼は白い息を吐いた。
「別に、考えたことも無いよ。どうせ、来年が来ても、俺の日常が変わることなんてないだろ。」
遠く見える地面に視線を向けた。
そう、日にちや年が変わろうと、俺の日常は何一つ変わらないんだから・・・。
すると、利用は笑みを見せつつも唇を尖らせた。
「瀧・・・まだ小学生なのに、そんなことばっかり言ってたら、つまらないよ。」
いきなり両頬を抓られ、涼の手を叩き落した。
「なら、涼はどう思うんだよ!」
頬をさすりながら微笑しながらも、どこか悲しそうに見える目をした涼を見た。
「僕?僕は、今年が死んで来年が生まれるって思ってるんだ。」
その言葉が理解できず、眉を顰めた。
「何言ってんだ?」
「2012年が来るとカレンダーとかから姿を消すだろ?」
「そんなの、当たり前だろ?」
首をかしげつつ、真剣な涼の目を見た。
「それが、僕には2011年が死んだようにしか見えないんだ。あんなに身近だったのに、2012年を迎えたあとは、見向きもされなくて、時が経つほど存在自体を忘れられる。これって、生き物の死と似ていると思うんだ。」
そんな涼を横目で見ながら、溜息を吐いた。
「それだったら俺は、成長したんだって思ってるけど?」
涼が目を開いた。
「俺たちの日常は何も変わらないだろ。普通にご飯食べて、寝ての繰り返しでさ・・・。でも、2011年に起こったことは自分の中に、記憶としてあて、きっと来年の俺を助けてる。これって、成長してるって言えないか?」
涼は吹き出して笑った。
それを見て、顔から火が出るんじゃないかと思うくらい、熱くなった。
「なるほど。その考え、好きだよ。」
その言葉が信じられず、恥ずかしさを隠すように、笑っている涼の胸を何度も殴った。
平成が終わる。
ジャングルジムの上に立って、星空を眺める。
いくら口から白い息を出しても、涼がここに来ることはない。
「寒いな・・・。」
静かにしゃがみこんで、腰をかけると冷たかった。
「あいつだったら、なんて言うのかな・・・。」
また、平成が死ぬって言うんだろうか・・・。
星を見つめた。
「俺も・・・お前が死んでからそう思うようになったよ。2011年は成長してたんじゃなくて、やっぱり、2012年と交代した瞬間に死んだんだって・・・。戻ってこないし、日常も変わらないし・・・今じゃあ、誰もお前のことを口に出さなくなった。」
目を閉じたままの涼の顔が、脳裏に浮かんだ。
「過去は過去でしかなくて、今の俺にはなんの影響も与えてくれなかったんだ。成長・・・させてくれなかったんだ。」
涼が死んで以降・・・俺の見える世界は色あせてしまった。
「俺が平成も2011年も・・・大切に覚え続けてやるよ。」
こんな味気ない世界を見つめ続けるくらいなら・・・。
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