かいてんずしのちいさなひみつ
篠騎シオン
かいてんずしのちいさなひみつ
「回転ずしには秘密があること、知っているかい」
「秘密?」
賑やかな回転ずし店に響く、一つの会話。
ただその会話は喧噪にかき消されて、会話の相手にしか聞こえない。
「そう、ほらあそこをみてごらん。そこだよ、ちょうどいま曲がろうとしている皿の上だ」
「あれがどうかしたの?」
「君にはみえないかい? あの妖精が」
「妖精?」
「そう、ほら、彼女たちはお寿司の妖精だよ」
「お寿司の妖精? 妖精なんているわけないじゃん」
「君がそれ言う? あ、あのお皿に乗っている子は、ほらあそこの、玉子のお寿司の妖精に恋してるみたいだ」
「……恋するその妖精ちゃんはなんのネタなの?」
「気になってきたみたいだね」
「暇なんだよ! で、なんのネタ?」
「そう怒るなって。彼女はそう……ウニだよ」
「ウニと玉子かぁ。身分違いの恋?」
「そうそう。あ! 玉子のお寿司がお客さんに食べられた!」
「ど、どうなるの?」
「お寿司の妖精にとっての幸せは、恋する相手と同じ人に食べられることなんだ」
「……あのお客さん、安いネタばっかり食べてるなぁ。あんまりお金がないみたいだ。同じ人に食べてもらうのは無理かなぁ」
「ここで妖精の特殊能力の発動だ!」
「特殊能力?」
「たまに回転ずしで目の前を通ったネタがやけにおいしそうに見えて手に取っちゃうことがあるだろう? あれが、特殊能力さ」
「おお! ウニのお寿司がおいしそうにきらきら輝いている!」
「だろ。いけー」
「おお! とってもらえた!」
「二人ともお幸せに」
二人の間にしばしの沈黙が広がる。
「それにしても暇だな」
「暇だね」
二人は自分のつけられている場所から回転ずしの店内を見下ろす。
「僕ら、ここにいるだけだもんな」
「だもんねー」
忙しい店内で二人の声は誰にも届かない。
彼らは回転ずし店の壁に付けられた、寿司ネタがかかれた板の二枚。
なぜか心が宿ってしまった彼らは今日も暇を持て余す。
彼らのお話が本当かどうかは、あなたのご想像にお任せします。
かいてんずしのちいさなひみつ 篠騎シオン @sion
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