第5話
人生で初めてドラゴンを食べた。半生なのは物凄く気になったけれど、今はそんなことを気にしている余裕がなかった。
「うっぷ…結構食べたな。と言っても尻尾の先っぽだけだけどね」
「おいしかったー!」
ドラゴンはやはり大きく、何千人単位でも食べられるかわからない程の大きさだった。
「この余ったのはどうしようか。捨てていくのもなんだかもったいないような」
「また拾えばいいんだよ!気にしない、気にしなーい」
「そ、そうか。また拾うのか…そんな都合よく事が運ぶと思わないけど」
もう深いことは考えないと決めた。考えたところでなにも解決しないしね。
「腹ごなししたし、あとはどうやって寝るかだ。交代制で見張りして寝るのが得策かな?」
「とく、さく…ん?とりあえずこうたい、っていうのは分かるよ!かわるがわる起きて周りを見てればいいんだね!」
「つまりはそういうことだな。しかし俺が何か見つけても何もできないと思うけど…」
「じゃあ私が起きてるよ!今はそんなに眠くないしね?」
「うむむ、でも小さい女の子に任せて自分だけ寝るっていうのもなかなかプライドが…でも俺より確実に強いし。じゃあ、頼めるかな?」
「うん!まかせて!」
少女はそう言うと、うぉー!と雄たけびを上げた。とてもかわいい雄たけびだった。火力はあり得ないけど。
「そういやこの世界に来て安心したのは今が初めてかもしれない。寝れるなんておもって…」
少しづつ意識が薄れてきた。
起きたらまずはこの少女の家を探さないと。もしかしたらそこが村や町かもしれない。
そういえば、彼女の名前をまだ…
ブルっ。浩人の体が小刻みに震える。
「うっ、寒い…」
寒さで目が覚めた。まだ半覚醒の状態で周りを見回す。
「あれ、あの子はどこに…」
世界はぼんやりした明るさを取り戻していたが、深い霧がかかっていたため視界がいいとは言えない。気温が急激に冷えたのもこのせいだろう。
リュックに落ち葉を詰めて枕にしていたため頭は痛くないが、体がしっとり濡れている。
はっきり目が覚めた今でも、彼女の姿は確認できない。寝る前はそのあたりで雄たけびを上げながら立っていたのを覚えている。しかし今はまわりを見てもどこにもいなかった。
「あれ、どこいったんだろ。またふらっとどこかに行ったのかな」
もしかしたら昨日の夜と同じく食べ物を”拾い”に行ったのかもしれない。そう都合よく拾えるわけはないが。
「とりあえず今は一人だ。もしかしたら獣やモンスターがいるかもしれない。昨日のドラゴンを見てしまったら疑わざるを得ないからな…」
体を起こし、リュックに入っている落ち葉を中から取り出す。
「よし、っと…これでいつでも動けるな。昨日食べた半生ドラゴン肉も奇跡的に腹痛にはならなかったみたいだし、よかったよかった」
いつでも走れるように軽くストレッチをする。もし、走ってる最中に足がつったりした時には死、あるのみだろう。
枕はあったものの、体は地面につけて寝たので結構痛む。
「いたた…期待はしてないけど、ベッドとかあったら最高だな。期待はしてないけれど」
大事なことは2回言う。これ、社会の常識。
起きてから既に体感で20分程度経ったのだが一向に帰ってくる気配がないので、少し呼んでみることにした。
「おーい!…あ、名前聞いてなかった。名前がわからないんじゃ呼びようが…」
起きてから聞こうと思っていたので、予想外の出来事に対応できない。
「おーい!昨日の女の子ー!」
とりあえず呼んでみる。
しかし反応はない。
「もしかしたら先に家に帰ったのかもしれない。それはそれで彼女にとっていいことだし…ずっとお守りしてもらえるって確約なかったわけだから当然と言ったら当然か」
もし自分が動いて、彼女がここに帰ってきたら行き違いになってしまう。しかし、このまま帰ってこないのに居座るのもリスクが大きすぎる。
「動くか。もしかしたら途中でばったり会うかもしれないし」
考えるより、まず行動。
今日中に何とか人里にたどり着きたい。それが浩人の中では一番大きかった。
「にしても…どこに行こうか。昨日は西向かったし、ここからさらに西に向かうか」
東に進んでは昨日歩いた意味がなくなってしまう。少しだけ霧が晴れて太陽の場所もわかったので、西に歩くことにした。
「まずは人だ。人を探すんだ。きっちり寝たし、体力は大分回復してる。今日が正念場だぞ」
自分の心に鞭を打つ。こうなると頼れるのは自分しかいない。
「にしても、さっきからなんか変な匂いがするんだよな…こういうのなんて言うんだっけ」
山に入ったときは、絶対に気を付けなければならない匂いがある。
いち早く察知し、逃げたり対策をとるのが生還の成功率に直結する。
「んー…思い出せないけど、これはたしか良くない匂いだったような…すごく俺の中の危険意識が反応して…」
グルルル…
自然界の音ではない、意思を持った音が少しずつ増え。やがて、全方位から聞こえるようになった。
「うん、思い出した。この匂いって」
いわゆる
獣の匂いである。
「いやぁぁぁぁぁ!助けてぇぇぇぇぇ!」
気付いたら囲まれていた。狼のような生き物が少なくとも10匹。自分の目で確認でいるだけでその程度なので、もしかしたらもっと多いのかもしれない。どちらにせよ危機的状況なのにはかわりない。
「どどどどどどどどうすれば!囲まれてるおかげで退路はない!」
”ど”を連発したところでスタンド使いになれるわけはない。今の状況をゲームに例えるなら、逃げるコマンドの文字が薄くなっていて選択できない、もしくはS○Oみたいなログアウトボタンがないくらいの危機的状況である。
「うむむ…考えろ。古来より人間はその知恵を活用し生きてきたんだ。今回のような状況になったとき、どうするのが一番か。考えたら思いつくはずだ」
浩人は考えた。高校では国語以外の教科で赤点ギリギリを卒業まで取り続け、まわりから”ミスターギリッチョ”の名で呼ばれていた。学校でその名前を知らない人はいなかった。浩人の想像だが。
「よし。決まった!今、ここで、俺にできる最善の行動は…これだ!!!!」
スヤァ…
浩人は知っているのだろうか。それはただの迷信だということを。しかも狼に効果があるという話は一度も聞いたことがない。
バァウッ!ガルル!
一斉に襲い掛かってきた!逃げ道はない!
「ですよね!知ってた!!!」
一応理解はしていたようだ。
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