第4話

「どこでそんなのを拾ってきたんだ!?」


浩人は驚きながら少女に問う。


「んーとね?あっち走っていったら落ちてた」


「落ちてたって…どういう状況になったら落ちるんだよ。普通なら絶対あり得ないだろ」


「ありえないの?」


「ありえないよ!そんなボコボコドロップしたらドラゴンでひと商売できるわ!」


「ま、まぁ落ち着いて…お腹空いてるんでしょ?このドラゴン食べよ!」



と、少女は言う。


「なんでそんなに落ち着いてるんだ…そもそもドラゴンは食べられるのか?」


ドラゴンの派生がとかげなのだと何かのメディアで見たことがある。今見た限りだと似たような皮をしているが、初めて見たので食べられる気がしない。


「食べるにしてもさすがに生は無理だろ…火をおこすにしたって火源がないし…」


「火?火なら、えいっ」


少女は近くの気に向かって何かを投げる動作をする。


すると指先から火が飛び、木が燃え始めた。


「ね?」


「ね?って…そういう場合じゃないだろぉぉぉぉ」


世間一般でいう、山火事状態になった。


このあたりは風が強く、木々に燃え移るのに時間はかからなかった。


「わわわ!どうすんだよこの状況!?」


「どうするって…このドラゴン焼くんだったらこのくらいの火は必要でしょ?」


彼女は当たり前のように答える。


「ドラゴンが焼ける前に俺たちが焼けたら意味ないだろーー!」


「あ、そっか」


少女は理解するともう一度手を振りかざす。


「きえろー!」


すると、さっきまで木という木に燃え移って山火事になっていたのが嘘のように火が消えた。


「あああああ!…えっ、なんで?」


浩人には理解できなかった。


「どうやって消したんだ?」


「えい!って手を振ると消えるんだよ!すごいでしょ!」


えへへ、と彼女が笑う。


「すごいっていうよりチートっぽい気が…」


「ちーと?なんかとろっとしてておいしそう!」


「たしかにある意味おいしいだろうけど…」


グゥウゥ…


お腹が鳴った。しかも二人同時だった。


「お腹…すいたね」


「そうだな…さっき燃えて倒れた小さい木を持ってくるからそれに火ってつけれるか?」


「できるよ!まかせて!」


少女は胸を張る。


「そ、そうか。じゃあ行ってくるよ」


浩人はそういうと木を集めに歩きだす。


「夜だから何も見えん。…それにしてもあまりにもイレギュラーすぎる。これが異世界っていうやつなのか」


到底理解はできないが、異世界というワードがあるだけで腑に落ちてしまう浩人だった。




それから少し経ち、ある程度の木材が集まった。やはりリュックのおかげで手に持つよりあきらかに多くの量を運べる。


「よっしこれくらいでいいだろ。ドラゴンがおいしいのかわからんけど…とりあえずなにもないよりはましか」


少女のところに戻ろうと踵を返す。


しかし予想外の出来事が起きてしまった。


読む側は予想できるかもしれないが。


「帰り道が…わからない」


住所不定無職の浩人が唯一帰れる場所。少女の居場所がわからなくなってしまった。


「くっそぉぉぉ!やっちまった!これじゃあ薪を拾った意味も、これから生きていくための希望も失った!どうすれば…」


とりあえずリュックを下ろす。極限まで体力を消耗している為、リュックの重さが何倍にも感じた。


「ドウシヨ、タスケテ…助けてぇぇぇぇぇ!!」


「はーい」


叫んだ浩人のすぐ後ろから声がした。


「うぉぉぉぉぉ!?いたのか!?」


「うん!拾いに行くっていってからしばらくたったけど帰って来なかったから迎えに来た!」


そう少女は言った。


「迎えに…よくこのクソ暗い中で見つけたな。今もさっきもだけど、暗視機能とか装備してるのか?」


「あんしきのう?なんかそれかっこいー!」


わーいわーいと少女が騒ぐ。


「それはそうと!さっきのドラゴンはどこ行ったんだ?引きずってきては…ないよな?」


「うん!おいてきた!重かったし!」


「重かったって…そういう言葉で表せないレベルだと思うんだが…ま、いいか」


むずかしい事を考えるのをやめた。


「とりあえずさっきの場所に帰ろ!」


少女は浩人の腕をつかんで引っ張る。


「ちょ、待てって!薪持っていかないと…それにさっきの場所わかるのか?」


「薪…?あ、それ持って行けばいいのかな?よいしょ、っと」


少女は片手でそのリュックを持ち上げる。よいしょと掛け声は言ったものの、持ち上げるときに一切重さを感じさせなかった。


「じゃあ行こ!あっちだよ!」


「ツッコムノツカレター。ドウニデモナレ」


自暴自棄になりながら、彼女の導くままに歩いた。

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