四十三箇所目 東京都庭園美術館 目黒

 遠来の友への手土産を探しに、目黒の東京都庭園美術館へ出かけたのは、クリスマスシーズンまであと少しの頃でした。


 庭園美術館には、庭に丸いプールがあった頃から、四季折々の庭木や花を楽しみがてら、立ち寄っていました。

 アール・デコ様式の建物で展覧会を見るのも贅沢ですし、庭園でくつろぐのもよいものです。


 今回訪れた時は、紅葉が美しく、池に移るゆらぐ紅、黄色葉をレンズに写し撮ろうと、カメラをかまえる人が多かったです。

 かくいう私もその一人となって、刻々と移りゆく日本庭園の水面の錦にカメラを向けて、時を忘れてしまいました。


 リニューアル後に訪れる機会を逸していたこともあり、今回はゆっくり時間のとれる日を選んで訪れました。


 正門を入ってすぐのチケットカウンターで受付を済ませて、建物までの道をぶらぶらと歩いていきます。

 晩秋を彩る木立ちを仰ぎながら進んでいくと、ほどなくして館が見えてきます。


 アール・デコ様式の旧朝香宮邸。


 1933(昭和8)年に建造された本館に、新館が増築されて、現在の東京都庭園美術館となっています。

 2015(平成27)年には国の重要文化財に指定されました。


 外観をまず撮影して、階段を上がり玄関ホールへ。

 撮影可能ということで、まずは、ひとしきり撮影会です。


 ルネ・ラリックデザインのガラスのレリーフ、今にも壁から抜け出てきそうな美しいラインの女性像が、目を惹きます。

 アールヌーヴォーのアクセサリー作家として、また、アールデコのガラス工芸作家として知られるルネ・ラリックが製作したガラスの美女たち。

 訪れる人が、まずシャッターを向けるのがこの美女たちです。

 フラッシュの浴びすぎで灼けてしまわないかしらと、ささやき合う美女たちの声が聞こえてきそうです。


 左手に広がるモダンな黒白チェッカー模様の床や壁を眺めてから右手の受付へ。 

 受付を済ませてから館内の撮影の可否を尋ねると、良い場所と駄目な場所があるので、各フロアのスタッフにたずねてくださいとのこと。

 受付を出てすぐの正面の小さなスペースは撮影可とのことで、早速、細々と凝ったつくりを撮影。


 写真を撮り終えてから、展示とともに各室の設えを見学していきます。

 館内でも筆頭の興味深い室内装飾は、次室つぎのまの香水塔です。

 上の方の飾りに香水を配して、照明の熱で香りを漂わせたとのことです。

 モダンでゴージャスな館ならではの演出です。


 館内の随所に見られる装飾は時代の特色が見られ、内装、家具、敷物や照明器具、ラジエーターカバー(暖房機用カバー)など、和洋折衷のアール・デコ様式の美に溢れています。


 企画展と建築、装飾、インテリアと、贅沢な見学の時間を過ごしながら、二階へ。

 二階の見どころの一つに、妃殿下デザインのラジエーターカバーがあります。

 植物が配置された和風モダンなデザインのアイアン細工が素敵です。


 二階に来るたびに、いいなーと思うのは、書斎です。

 隣りの書庫へつながっている円形のゆったりとした書斎。

 書きものが捗りそうな空間です。


 ベランダは撮影可とのことで、国産大理石のモノトーンチェックの床を踏みしめて、窓の外に広がる芝庭や、茶室「光華」のある日本庭園を撮影しました。


 芝庭には親子連れがランチボックスを広げてくつろぎ、庭園は紅葉真っ盛りで、都会の喧騒は遠く、実にのどかな午後でした。



 さて、訪れた時の企画展は「 エキゾティック×モダン アール・デコと異境への眼差し」でした。

 ヨーロッパ諸国における異境文化の取り扱いについては、それぞれに問題意識を持つ必要があると思いますが、当時の現地の人々の文化を知る資料として美術作品を展覧会で展示してもらうことは、そうしたものに触れる機会のあまりない一般市民としてはありがたいことです。


 新館には、ミュージアムショップ「ノワール」とカフェの「カフェ庭園」があります。

 「カフェ庭園」は、スイーツをいただきながら展覧会について歓談するのが似合うスペースです。


 レストランは、正門横にフレンチの「レストラン デュ パルク」があり、チケットカウンターの隣りにミュージアムショップ「ブラン」があります。


 「ノワール」と「ブラン」、黒と白、館内の大理石モノトーンチェックから名付けられたのでしょうね。

 扱っているグッズに違いがありますので、ご注意ください。


 正面玄関のガラスの美女にウインクされて、彼女たちに軽く手を振ると、館を後にしました。


 芝庭、日本庭園、西洋庭園を散策しながら、ミュージアムショップ「ブラン」へ。

 オリジナルグッズは、こちらのショップで取り扱っています。


 館内で見かけた美しいフォルムやデザインは、オリジナルグッズに活かされています。

 グッズデザインのグッドクオリティに、思わずコンプリートしそうになってしまいました。


 ここで、遠来の友への手土産を選んでラッピングしてもらいました。


 それから、美術館の図録『旧朝香宮邸のアール・デコ』を求めました。

 この本は、カラー写真をふんだんに使い、各室の様子が紹介されています。

 この本を片手に館内を見学すれば、より深く建築の妙を堪能できると思います。



 帰りは、恵比寿まで歩いていくことにしました。

 以前は、目黒と恵比寿の間をちょくちょく歩いていました。

 久しぶりの街歩きに、ずいぶんとお店が変わったなと、なくなってしまった手芸屋さんやギャラリーなどをなつかしく思い出しました。

 

 恵比寿ガーデンプレイスは、クリスマスガーデンになっていて、巨大なクリスタルシャンデリアを中心に、きらびやかに、にぎわっていました。

 ガーデンのゆるやかな坂を上りきると、ツリー越しに、東京タワーが見えました。


 平成最後のクリスマス、と誰かが言っているのを耳にして、ちょっとしみじみしながら帰路につきました。



<東京都庭園美術館 目黒>

最寄駅 JR山手線「目黒」駅

東京都庭園美術館のホームページで詳細をご覧いただけます。



<今日買った本>

『旧朝香宮邸のアール・デコ』

公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都庭園美術館 編集

公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都庭園美術館 発行




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