四十一箇所目 文京区立森鷗外記念館 文京区立本郷図書館 文京区
地下鉄の千駄木駅を降りて地上へ上がると、そこは団子坂下。
そこから、谷中へ根津へ日暮里へ、足を延ばして上野、不忍池へ。
谷根千と言われるこの辺は、かつて多くの文人たちが住み、散策していた界隈です。
今日は、その文人たちの中での一人、明治の文豪森鷗外ゆかりの場所に、本を買いに行きましょう。
団子坂を上がりきる手前に、右に入っていく道があります。
この道をまっすぐに進んで行くと、旧安田楠雄邸、高村光太郎旧居、ファーブル昆虫館 「虫の詩人の館」 などがあります。
ちょっとした文化探訪の散歩道です。
本郷図書館は、右折してすぐに見えてきます。
外観は、一般的な公共施設の図書館です。
お散歩は次回にということで、まずは館内へ入って、館内案内図を確認です。
関内案内図によると、書架と閲覧室は地下のようです。
そちらはじっくり見ることにして、先に一階を見学することに。
一階には、区内施設の各種パンフレット置場や、ちょっとした展示スペースがあります。
千駄木三丁目南遺跡、すなわち、この図書館の建っている場所からの出土品が展示されていました。
そういえば、お隣りの駅根津から東大方面へ言問通りの坂道を上って行くと、途中に弥生式土器の出土地の記念碑があります。そのことから一帯の住所は弥生と言います。古くからある場所なのですね。
まち案内コーナーには、文京ふるさと歴史館の展示図録が並んでいて、閲覧できるようになっています。
一通り見学をしてから、閲覧室へ。
地下一階が閲覧室になっています。
階段を下りていくと、カウンターを中心に、書架と閲覧スペースが広がっていました。
文京区ゆかりの文人たちの肖像イラストが、書架ごとに展示されています。
ゆかりの文人の多さに、この街が、「
読書相談や登録などの受付カウンターの上には、ひときわ大きな肖像切り絵が。
「森鷗外」、その人です。
図書コーナーの奥に進んでいくと、左手の一角が小さな庭になっていました。
サンクンガーデンと呼ばれる坪庭です。
鷗外ゆかりの沙羅の木が植えられていました。
六月下旬から七月初旬にかけて、可憐な花を咲かせるそうです。
ガラス窓越しに眺めてみると、樹木の緑に、読書で疲れた目が安らぎます。
サンクガーデンの右手に、鷗外関連コーナーが展開されています。
全集から、評論、随筆など、鷗外に関する本とじっくり向き合うことができます。
コーナーの一隅に、人々を見守るかのように、羽織袴姿の鷗外が立っています。
等身大のペーパークラフトです。
鷗外さんはこんな体格だったんだ、と、しげしげと見つめていましたら、ひょいっと足を踏み出して降りてきました。
――館内巡回の時間です――
ふっと耳元で誰かがささやきました。
辺りを見まわしましたが、誰もいません。
窓の外で沙羅の木の葉が、心なしかそよいでいるように見えただけです。
自分の子どもたちをやさしい眼差しで見守っていたように、読書に勤しむ利用者たちに、書に親しむのはよきことかなと言いたげな眼差しを投げかけながら、彼は館内を巡回していきます。
途中、作家個人の伝記や作家研究のコーナーがあり、そこには展示コーナーがありました。
その時は、以前開催された「ビブリオバトル」の資料が展示されていました。
「ビブリオバトル、第5回はよしもとばなな編だったんだ」などと、ガラスケースの展示物に気をとられているうちに、“彼”の姿は見えなくなってしまいました。
一周してカウンターにもどると、本郷図書館のスタッフさんたちが作っている『book+cat』というリーフレットをいただきました。
タイトルの『book+cat』は、創刊のごあいさつによると、「地域に猫=catが多いこと、目録のcatalogをイメージしたものです」とのことです。
内容は、ゆかりの文人の紹介や、オススメ本のコーナーなどです。
面白いと思ったコーナーは、「山羊さんぽ」です。
ヤギ男とヤギ美といった山羊の恋人同士が、てくてくと本郷界隈をお散歩しながら、地元の注目スポットを紹介するというコーナーです。
手描きの地図と、スポットの写真を見ながら、実際に歩いてみたくなる手軽なお散歩コースが掲載されています。
とくにvol.01では、団子坂、S坂など、乱歩の『D坂の殺人事件』や鷗外の『青年』の舞台となった場所が紹介されていて、リーフレット片手にそのままお散歩に出かけたくなってしまいました。
そういえば、つつじの季節に根津神社の脇の少し幅の広い曲がりくねった坂道の途中で出会った青年が手にしていた「東京方眼圖」は、森林太郎立案だったように思います。
あの青年とすれ違いざま、ふっと洋食の匂いがしたような気がしました。
精養軒かどこかで、牛酪を使った食事をしてきたのかもしれません。若者ならではの旺盛な食欲で。
では、そろそろ、本郷図書館を後にして、森鷗外記念館へと向かいます。
徒歩3分もかからない、ご近所です。
森鷗外記念館は、鷗外生誕150年に当たる2012年に開館しました。
鷗外の旧居「観潮楼」の跡地に建っています。
当時、二階から遥か彼方に東京湾を臨むことができたことからついた名の観潮楼に、鷗外は、明治25年から大正11年に60歳で亡くなるまで家族とともに住んでいました。
建て替え前の、鷗外記念本郷図書館時代にも訪れたことがあります。
現在は、記念館から図書館のみが分かれたのが、本郷図書館になっています。
それにしましても、ここに、かつて鷗外が住んでいた日本家屋が建ち、四季折々の草花が植えられた庭があり、文人が集い論を戦わせ歓談し、石川啄木、斎藤茂吉などの青年歌人が集って歌会が開かれ、また、親子で和やかな日々を過ごしたのかと思うと、感慨深いものがあります。
森鷗外、幸田露伴、斎藤緑雨の三人で撮影した「
在りし日の鷗外は、ここ観潮楼から、帝室博物館総長兼
博物館館長としての鷗外は、品目種別だった展示を、時代別陳列方法にし、目録作成を推進したり、「学報」を刊行して研究紀要にし、学究のためにより多くの学者が正倉院を拝観できるようにしたそうです。
図書頭としての鷗外は、宮内省図書頭として、天皇の死後に贈られる「
有能であることはもちろん、それぞれの仕事に対して真摯に向き合い、自分がその立場で何をすべきかを考えて、職務を全うしていたのです。
では、記念館の中へ入ってみましょう。
現在の外観は、渋い銀灰色の煉瓦壁の幾何学的な形の建物です。
シャープで都会的な印象です。
見上げる高さの自動ドアが開くと、広々としたエントランススペースが広がっています。
入って正面の壁には、鷗外の
右手にはミュージアムショップと受付。
ミュージアムショップには、鷗外の著作や展覧会の図録、シックなオリジナルグッズなどが並んでいます。
左手の奥には、ミュージアムカフェ「モリキネカフェ」。
この一階部分を利用するのには、入館料を必要としません。
カフェは居心地がよいので、考え事や書き物で、時々利用しています。
コーヒーをはじめとした各種ドリンクと、鷗外にちなんだ和洋菓子をいただきながら、ゆっくり過ごすことができます。
ドイツ留学をした鷗外にちなんで、ドイツパンの軽食もあります。
関連の冊子が置かれいて読むことができ、壁面もディスプレイされています。
座る場所によって、スカイツリーが見えます。
庭にすっくと立つ大銀杏は、秋には黄金色のランドマークになります。
団子坂から庭へ向かう途中の通路には、「沙羅の木」の詩碑があり、庭を通り抜けての薮下通り側の出入り口には、当時の門柱跡の礎石と敷石が残されており「観潮楼址」の碑があります。
展示室は地下一階です。
ゆったりとしたエントランスから、鷗外の深層心理へ潜るように階段を降りていきます。
階段を下りきると、鷗外の胸像が出迎えてくれます。
軽く会釈して、展示室へ。
展示室1に入ると、壁面に沿って、鷗外の生立ちとともに、ゆかりの品々や書籍などが展示されています。
その常設展から、特別展やコレクション展のコーナーが連なり、展示室2へとつながっていきます。
地下といっても天井がが高いので、ゆったりとした気分で、観覧できます。
現在開催中なのは、コレクション展「東京・文学・ひとめぐり 鷗外と山手線一周の旅」です。
山手線の各駅の開設当時の町の風景が壁面に大写しにされて、それが順番に映し出されていくのを見ながら、森鷗外、夏目漱石、幸田露伴、室生犀星、山田美妙、芥川龍之介、国木田独歩などの関連作品を知ることができます。
今回の展覧会のパンフレットに路線図とともに、文学者が描いた各駅の周辺にちなんだ作品の解説が掲載されています。
展示を見た後は、映像コーナーで小休止です。
三階には講座室と図書室があります。
訪問時は、大抵、展覧会を見学した後にエレベーターで上がり、図書室へ立ち寄ります。
図書室の前は、ちょっとした踊り場になっていて、その時々でミニ展示がされています。
文豪ストレイドッグスとのコラボ作品の展示もありました。
右手に進むと、休憩スペースがあります。
椅子に腰かけ、ガラス窓の外に大銀杏を眺めながら、しばし文学妄想にふけるのもまた良しです。
館内には、こうしたちょっと休憩スペースが、何箇所かあります。
かつてこの場所で暮らしていた鷗外一家や、集った文人たちのことを思い浮かべながら、ゆったりと過ごしているうちに、いつしか明治時代の風景に、自分も溶け込んでいるかもしれません。
<文京区立森鷗外記念館>
最寄駅 東京メトロ千代田線「千駄木」駅
森鷗外記念館のホームページで詳細をご覧いただけます。
<今日買った本>
『コレクション展「東京・文学・ひとめぐり~鴎外と山手線一周の旅」ミニ展示ガイド』
文京区立森鷗外記念館発行
『森林太郎立案 東京方眼圖』
森林太郎立案
春陽堂発行
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