四十箇所目 LIXIL GALLERY LIXIL BOOK GALLERY 京橋(東京)


 京橋駅で降りてスクエアガーデンで軽くランチをとってから地上に出ようか、それとも、降りるのは日本橋にしてコレド日本橋のイートインに寄ろうか、もしくはお向かいの滋賀県のアンテナショップCOCOSHIGAに寄ろうかと迷っているうちに、地下鉄は日本橋を出てしまったので降車駅は京橋に決定。

 

 到着は10時半をまわったところ。

 ランチタイムは11時半からが多い。

 思いの外早く着いたので、ランチの前に本日の目的を果たすことにして、スクエアガーデンを右手に見ながらエスカレーターで地上へ。


 強い陽射しを避けて街路樹の影に入り、中央通りの向こうに目をやると、そこには本日の目的地。



「LIXIL GALLERY」

「LIXIL BOOK GALLERY」



 LIXILは前身が水回りの製品を扱う旧INAXを含む住生活全般を扱う企業です。

 ギャラリー活動は1981年に開始されました。

 その関係で、展覧会図録は、INAX出版のものとLIXIL出版のものがあります。


 ギャラリーは、LIXIL:GINZAの二階にあります。

 一階はレセプションルームで、企業情報を映像や空間展示、資料で見ることができます。

 ワークショップも行われています。

 その日は、カラフルなミニタイルを使ったアクセサリー・クラフトのワークショップが開催されていました。

 奥のスペースは、展覧会の図録や関連書籍の販売コーナーになっていました。


 レセプションルームを抜けて、なだらかな階段を上っていくと、ギャラリースペースです。

 二階には三つのギャラリーがあります。


 上がってすぐ右手がエントランススペースで受付になっています。

 受付の隣りには、今までの展覧会の図録が展示され、それを左手に見ながら進んで行くと休憩スペースです。

 図録を座ってゆっくり見ることができます。


 その横は、建築家やアートディレクターによる「建築・美術展」のスペースです。  


 階段を上って左手はやきものの展示が行われる「やきもの展」のスペースで、右前方が「建築と美術とその周辺をめぐる巡回企画展」のスペースです。

                                       巡回企画展のギャラリーは、決して広い空間ではないのですが、展示物を見ているうちにすーっとその世界に入り込んでいけるような空気がそこにはあります。


 こんなこともありました。


 前回の「ニッポン貝人列伝 ―時代をつくった貝コレクション―」展の時のことです。

 展示されていたコレクションの持ち主は、老舗料理屋の店主にて鉱物学界の重鎮、医学博士、住職兼教師、銀行員と、学術界から在野まで実に個性的な貝類学者、博物学者、貝類コレクターの面々です。


 そんな彼らが、「貝類が好き」という一点でその場に集い、てんでに自らのコレクションについて観覧者に語りかけてくる姿が見えてくるようでした。


 彼らの話に耳を傾けているうちに、いつしか潮の香りが漂い、波音が聞こえてきました。

 足下を見ると、砂浜が広がり、点々と貝殻が。

 あるものは半ば砂に埋もれ、あるものは波に転がり、手にとってみてよ、と誘いかけてきます。

 思わず手を伸ばしかけた時、ふ、と人影がよぎりました。

 顔を揚げると、フィールドノートを片手にした老紳士が立っていました。

 彼は無言で穏やかな笑顔を浮かべ、私の手のひらにそっと何かを乗せてました。

 ぷっくりとしたハートの形の貝殻。

 

 ――リュウキュウアオイ?リュウキュウアオイモドキ?インドアオイ?――


 考えている間に、老紳士の姿は消えていました。


 ビーチコーミングに出かけた時の記憶と、目の前の貝殻コレクションの醸し出す記憶が、交差したのかもしれません。



 建築関連の巡回展「武田五一の建築標本 ―近代を語る材料とデザイン―」展では、大正から昭和初期にかけて建築業界を牽引した京都の建築家武田五一が残した建築標本が圧巻でした。

 タイル、ガラス、金具、石材、瓦、仕上げ様式、模型、設計図など、一つ一つは小さな建築部品や装飾品ではありますが、それぞれの持つ意匠、多彩な材質、また当時流行したスパニッシュ様式などの時代を表わすものなどが組み合わさって、建築物という一つの作品が出現するのが、手に取るように分かりました。

 これらの資料正式名称は、「京都帝国大学工学部建築学教室旧蔵 建築教育資料」というのだそうです。


 そんなことを思い出しながら、今回の展覧会へと意識をもどすことに。



 「ふるさとの駄菓子-石橋幸作が愛した味とかたち-」展。


 この展覧会は、見逃せないと思っていました。

 と言いますのも、カクヨムのコンテスト用に和菓子の話を書こうと思いたち、お菓子について調べ始めたのですが、和菓子の世界の奥深さには目を見張るものがあり、

すっかり魅了されていたからです。


 調べ出すとついどこまでも行ってしまって帰ってこられなくなってしまい、もどってきても思いつくまま語ってしまうので、聞かされる方は、情報過多で話術もなってない話につきあわされるとなると、ちっても面白くありませんよね。

 これでは、物語にはなりません。

 でも、語りたい。

 和菓子について、語りたい。

 では、それを個性にしてみてはどうだろう。

 個性は、強味と弱点、うらはらです。

 そこで、なんとか折り合いをつけてと思い生れたのが、蘊蓄語りを個性として持つ主人公でした。

 


 さて、では、駄菓子の世界へ入っていきましょう。


 駄菓子とは何でしょう。

 一般には、子どものお小遣いで買えるような、安くて甘くて酸っぱくて塩っ辛くてといったメリハリのきいた味のおやつを思い浮かべるのではないのでしょうか。


 ところが、調べてみて、また、今回の展示を見て、それだけではないということに感銘を受けました。


 駄菓子は、生活を潤し、道中の心強い友であり、時に庶民の信仰に寄り添ってくれる、大地に足を踏みしめて立っている人々の楽しみのお菓子だったのです。


 ここで、展示内容について、ご紹介しましょう。


 駄菓子職人石橋幸作氏が、駄菓子行脚として各地で地道な聞き取り調査を重ね、紙粘土で考証復元した貴重な資料が展示されていました。


 パルプににかわを混ぜた紙粘土で作り色を塗った立体的な駄菓子模型は、採取した駄菓子の姿形を知ることができる貴重な資料です。


 さらに、用途や目的によって「信仰駄菓子」「道中駄菓子」「薬駄菓子」「お茶請駄菓子」「食玩駄菓子」の5つに分類して、民俗学的観点で捉え直したことも石橋氏の功績といえます。


 コンパクトな展示ながら内容はとても濃く、時間の経つのを忘れて何度も見返しました。


 <展示内容>

 ・ごあいさつ

 ・郷土の駄菓子と仙台 講演会講師 佐藤敏悦氏(東北民俗の会 会長)の言葉

 ・石橋幸作氏について

 ・駄菓子行脚の記録

 ・紙粘土による駄菓子模型 

 「信仰駄菓子」 門前で売られる縁起菓子、宮中行事由来の節句菓子、婚礼や法事などの個人の慶事での引菓子

 「道中駄菓子」 街道沿いの宿場町での名物として、道中の食糧やお土産として喜ばれたお菓子。

 「薬駄菓子」  紫蘇、薄荷、肉桂、生姜汁、胡麻、榧の実、柚、防風の葉、ヤマゴボウ、大豆、

砂糖など、主に植物を原料とした、病人や産婦の滋養のためや薬効(薬事法改正前)をうたった薬菓子。

 「お茶請駄菓子」お茶と一緒にいただくお菓子全般のことで、おこし、かりんとう、きなこねじり、明治以降に広まったパンなどの腹もちのよい粉もの、有平糖やカルメラなどの南蛮由来のものなどバラエティに富んだお菓子。

 「食玩駄菓子」 子どもがお小遣いで楽しめて、かわいらしい色や形に意匠が工夫され、味も子ども好みのお菓子。

 「細工もの」  新粉を練っ彩色して作る眺めて楽しむしんこ細工や、空気を吹き込んで膨らませる「まやもの」や鋏で細工をする「鋏もの」などの飴細工などのお菓子。

 ・駄菓子売りの風俗 駄菓子商売風俗人形の展示。


 それにしましても、紙粘土の再現模型は、いわば食品サンプルです。

 よくぞ残してくれました、と、感謝の気持ちがわいてきました。


 それぞれの駄菓子分の物語があるのです。

 現在は、あやかしとお菓子という切り口で書いていますが、お菓子の世界は、また別の切り口でも取り組んでみたい魅力がいっぱいです。


 二階にある三つのギャラリーを、何度か往復して、それぞれの展示を堪能しました。



 さて、いつもであれば、この後、お隣りのLIXIL BOOK GALLERYへ寄っていくところなのですが、なんと、 今年の夏、8月20日に閉店してしまったのでした。

 

 ――大ショックです――


 実は、このお菓子の展覧会に来たのは2回目でして、1回目に来た時に図録は買ってありました。

 とはいえ、関連書籍諸々見たかったので、本当に残念でした。


 LIXIL出版2018年発行の『ふるさとの駄菓子 石橋幸作が愛した味とかたち(LIXIL BOOKLET)』(LIXILギャラリー企画委員会企画、佐藤敏悦執筆、佐治康生撮影⦅各特記以外全て⦆、石橋佐吉、博物館 明治村協力・所蔵、アートディレション祖父江慎)は、展覧会の図録としても、読み物としても充実した内容となっています。


  LIXIL BOOK GALLERYは、建築、インテリア、デザイン分野を中心に扱っている書店で、ここでは、展覧会に来るたびに、図録+αで本を買い込んでいました。


 暮らし(建築、美術、インテリアetc)文化や、ギャラリーでの展覧会関連の書籍、世界の家や街並みを楽しむことのできる旅行記など、ずっと眺めていたくなる本の並んでいる棚でした。


 こちらで出版されている展覧会図録がまた素敵なのです。

 図録というよりは、アート読み物というのがふさわしい、見応え読み応えのある本たちです。

 

 趣味の琴線に触れる本に囲まれて、至福の時間を過ごせる場所が、また一つ減ってしまって、さびしいかぎりです。


 何処かで復活することを祈りつつ、帰路につきました。



追記

 LIXIL GALLERYは大阪にもあります。



<LIXIL GALLERY LIXIL BOOK GALLERY>


最寄駅 東京メトロ銀座線「京橋」駅

LIXIL GALLERYのホームページで詳細をご覧いただけます。



<今日買った本>


『ふるさとの駄菓子 石橋幸作が愛した味とかたち(LIXIL BOOKLET)』

LIXILギャラリー企画委員会企画、佐藤敏悦執筆、佐治康生撮影(特記以外全て)

LIXIL出版発行



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