三十八箇所目 日比谷図書文化館 日比谷

 地下鉄の霞が関駅で降りて、どの出口が日比谷公園へ出るのに近いのかを地図で確認して、地上へ。


 熱い。

 暑いではなく、熱い、です。

 それが今年の夏。


 国会通りで信号待ちをする間に、そういえば官庁街だったと思い、辺りを見まわしてみました。


 左手の先、熱暑の陽炎の向こうに、国会議事堂がゆらいでいます。

 周辺には、各省庁、ここは確かに霞が関です。


 信号が緑に。

 横断歩道を渡ってすぐ右手が、日比谷公園の西幸門です。


 入ってすぐのかもめの広場に、噴水があります。


 噴水の中央に建てられたオブジェは、東京都の鳥ユリカモメで、水しぶきを上げ飛びたつ姿は躍動感があり、街のオアシスを思わせます。


 吹き上げられる噴水の水は、最初は遠慮がちに小さく、やがて、挨拶は済んだからと相好を崩したかのように大きく、勢いよく変化します。


 水の間に間に、真夏の日差しが虹を描いていき、鳥たちの羽ばたきを彩っています。


 木陰のベンチに座り、全国の都道府県の木が植えられた郷土の森の緑を背景にした噴水を眺め、しばし水の歓迎で涼をとりました。


 噴水が止まったのを合図に立ち上がり、木陰を辿って歩き出しました。



 ひりつくような暑さを逃れて、巨大な船を思わせる日比谷図書文化館へ。


 日比谷図書文化館は、野外大音楽堂と日比谷公会堂を左右に配した、独特のトライアングルフォルムが印象的です。


 かつては都立図書館だったのが千代田区に移管され、図書館機能に加え、博物館、学習、交流といった多機能を併せ持つ、本と本の文化情報を発信している施設です。


 階段を上がり館内へ入ると、エントランススペースが広がっています。


 まずは右手の受付・コンシェルジュカウンターへ。

 コンシェルジュがいるというのは、千代田区立図書館の特徴の一つです。


 コンシェルジュは、館内設備や展示、イベント情報の案内以外に、古書店街神保町など本に関わる地元情報をはじめとした千代田区の情報を提供することによって、地域活性化に一役かっています。


 今回の訪問の目的は、なじみの図書館に置いてある広報誌『ポモーヌ』で知った特別展「大正モダーンズ 大正イマジュリィと東京モダンデザイン」の見学です。


 では、受付を済ませて、特別展示室へ。


 フランス語で、イメージ、図像を指すイマジュリィ。


 この展覧会では、紙媒体による広報活動や印刷技術の革新、マスメディアの発達によって大衆的な複製印刷物、グラフィックデザインが発展した大正から昭和初期にかけてのものを「大正イマジュリィ」として紹介しています。


 展示作品は、本の装幀や挿絵、商業広告のポスターや、ファッションデザイン画、絵葉書や版画など多岐にわたります。


 展示構成は6章に分かれていました。


第1章 大正のデザイン 杉浦非水と大正の商業図案

第2章 東京大正パブリケーション 美術家たちの挑戦

第3章 子供ワールドと華と女性 カワイイの原点

第4章 新時代のジャポニスム 小村雪岱と浮世絵イマジュリィの世界

第5章 ポップ・カルチャーの洗練 映画、演劇、舞踏、音楽のパンフレット

第6章 銀座・東京モダニズム 大正ファッション&ライフスタイル


 さほど広くはないスペースですが、各章ごとにわかりやすく展示され、目にした耳にしたことのある画家たちが商業広告などのイラストデザインなどに携わっていたことが興味深く、また、その作品の斬新さや愛らしさに目を奪われ、順を追って見た後にまたもどったりと、場内をうろうろしてしまいました。



 幾何学模様の組み合わさった不思議なデザインのアートポスター。

 じっと見ていましたら、ロシアアバンギャルド風のデザイン画からマシナリーミュージックが聞こえてきました。


 耳の奥の奥、脳に直接つながって、雑音まじりのメロディと曲紹介のアナウンサーのかん高い声が、モボ、モガの闊歩する足音とともにめぐり渦を巻き、私は引っ張られて、駆け足で時代を遡っていきます。


 歯車が噛み合って、軽快な機械音のリズムに乗って、気が付けばここは銀座の百貨店か劇場か。


 クロッシェを目深にかぶって、ペンシルラインのワンピースを着こなしたアール・デコスタイルの娘さんたちが、指を絡めあって、歌劇のポスターの前でひそひそ話のまっさい中。


 20世紀初頭、大戦前、時代は古いはずなのに古びていないデザイン性に牽引されて、追い立てられるように生産されていったイマジュリィ。


 時代を捉えよ、マスメディアを牽引せよ、と、音楽は鳴りやまない。


 現代に立ち返って見てみると、洗練されているけれど決して目を刺すような色彩ではない。

 それが、温もり、ノスタルジーとなって、心の中に落ち着きどころを見つけるのだなと、納得。



 特別展を堪能した後は、常設展へ。


 千代田区の歴史について展示されている常設展示室は無料で見学できます。


 夏休みのイベントとして、千代田区内の歴史資料施設をめぐる「スタンプラリー de 歴史マスター」が開催中でした。


 スタンプの設置場所は、


1.国立公文書館「平家物語―妖しくも美しき―」

2.昭和館「昭和館で学ぶ『この世界の片隅に』」

3.憲政記念館「平成30年夏休み企画 よみがえれ!幕末明治の時空選挙 他」

4.外交史料館「明治150年記念展示『条約書にみる明治の日本外交』

5.日比谷図書文化館「常設展『江戸東京の成立と展示』」

6.領土・主権展示館「いったい何者?江戸の地図男!長久保赤水展」の千代田区内六ケ所です。



 特別展の他にも、二階、三階の図書館スペースでは、そこかしこにテーマ展示がされていて、知と文化の情報発信地としての役割を担っているのが感じられました。


 二階は、二つのゾーンに分かれています。


 パープルゾーンは、新聞、雑誌、地図、電話帳、地域・行政資料、文化財、時代小説、江戸、東京、観光情報といった、ここならではの特色ある資料があります。

 展示スペースがあり、今回は、特別展の関連展示がされていました。


 オレンジゾーンは、NDC3類(社会科学)、洋書、ビジネス、参考図書、大活字本や拡大読書器が備えられ、奥のアメリカンシェルフの横は障子窓でちょっと落ち着ける空間です。

 統計、白書、企業情報等のビジネス関連資料が充実しているのは、さすが千代田区です。


 三階は、グリーンゾーン、NDC000(総記)~699(産業)と新書、文庫、別置でデジタル関連資料と、ブルーゾーン、NDC700(芸術)~999(文学)と文学文庫、洋書、アート情報支援コーナーに分かれています。


 それぞれのコーナーに展示スペースが設けられ、各種テーマで展開されています。


 三階のエレベーターホールでは、ガラスケースに、千代田区内の大学共立女子大の学生さんたちが作製した「神保町グルメかるた」が展示されていました。

 作製に使用した料理に関する参考文献も展示されていました。


 日比谷公園には緑と水の市民カレッジのみどりの図書館グリーンアーカイブスもあるからか、生物多様性や自然環境に関するパンフレットも各種置かれていました。


 四階特別研究室では、歴史好き垂涎の貴重な古書を直接手にとって見ることができます。

 訪問時は、ルリユール関連の展示がされていました。


 資料を探す水先案内人パスファインダーも充実しています。



 一通り見学してから、一階奥の「Library shop & Cafe Hibiya」へ。

 窓の外に緑を臨める、開放的なライブラリーカフェ&ショップです。


 図書フロアの資料を持ち込んで利用できるのが、便利です。

 ショップで、特別展の図録と、絵葉書、千代田区文化財マップを求めました。


 展覧会図録では、大正イマジュリィを代表する作家が、アール・ヌーヴォ―、アール・デコ、大正浪漫、抒情性、怪奇と幻想の耽美、都市文化と前衛、といった分野で紹介されています。



 外に出ると、木立ちの影が伸び、日は西にだいぶ傾いていました。

 ようやく照り返しも弱くなり、夕まぐれの散歩によさそうです。


 このまま公園を抜けて新しくできた書店へ立ち寄ろうと思い立ち、今一度、知と文化のトライアングル・ビッグ・シップを振り仰ぎ、またね、と挨拶をして歩き出しました。




<日比谷図書文化館>


最寄駅 東京メトロ千代田線線・日比谷線「霞が関」「日比谷」駅他

日比谷図書文化館のホームページで詳細をご覧いただけます。



<今日買った本(資料)>


『大正イマジュリィの世界』

山田俊幸監修

株式会社キュレイターズ制作


『千代田区文化財マップ』

千代田区立日比谷図書文化館文化財事務室編集

千代田区教育委員会発行

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