二十九箇所目 静嘉堂文庫美術館 二子玉川

そこには

星が在る。

光が在る。

闇が在る。

そして、宇宙がある。


さて、これは何を詠ったものでしょう。

正義の味方の歌のよう?

ことこれに限っては、正義の味方も敵もありません。

ただ、その存在自体が、美しい。


曜変天目。《ようへんてんもく》


黒釉茶碗の内側に現われた大小の斑紋を縁取るように、瑠璃色の光彩が現れている曄変天目。


国宝のこの茶碗は、世界で3椀しかないとされており、中でも星紋がはっきりと華やかなものが、ここにあります。


常時展示されているわけではなく、企画展に合わせて時折顔を見せてくれます。


というわけで、特別公開!の文字を見かけたので、両掌に乗る宇宙を見に出かけてみましょう。



二子玉川からバスに揺られて、7,8分。

市街地から脇道に入って少し行くと、静嘉堂文庫下のバス停が現れます。


バスを降りて、高い壁沿いに進んで、入口に掲示されたポスターを見て、企画展の内容を確認します。


正門から敷地内へ入ってからが、ちょっと長い。


長い上に坂道です。

夏は、きついです。


鬱蒼と茂った下生えや、木々の葉が天高くそよいでいるのですが、暑いです。

蝉がじじじ、と転がって鳴いています。


水分補給しながら歩いていると、タクシーや自家用車が、すーっと通りこしていきます。

いっそ、駅からタクシーにすればよかったと、後悔する瞬間です。


途中、持参の冷茶でのどを潤し、坂の上に光の乱舞が見えてきたら、到着です。


静嘉堂の文庫と美術館。


文庫は明治25年に創設され、建物は大正13年竣工で、当時の英国郊外の住宅スタイルをとっています。


鉄筋コンクリートでスクラッチタイルが貼られた瀟洒なつくりです。

アールデコの時代ですね。


大学時代、国文学の教授が、しばしば資料のある場所として口にしていた静嘉堂文庫。


現在、調査研究目的以外では、文庫内へは入れませんが、窓の向こうには、おさげ髪の女学生が調べものをしているのが見えてきそうです。


美術館は、平成四年にオープンしました。


三菱第二代社長の岩崎彌之助と、その子小彌太の父子二代で、昭和15年に設立、和漢の古典籍を中心に蒐集し、保存し、展覧会で提示し、専門図書館として活動しています。


収蔵品は、国宝7点、重要文化財84点を含む、およそ20万冊の古典籍(漢籍12万冊・和書8万冊)と6,500点の東洋古美術品とのこと。

 

静嘉堂という名称には、由来があります。

中国の古典『詩経』の大雅・概酔編からの引用とされいます。


籩豆静嘉|ルビを入力…《へんとうせいか》」の句から採った彌之助の堂号で、祖先の霊前への供物が美しく整うとの意味です。


今回の企画展では、お茶道具の一つ香合と香炉の展覧会が開催されていました。


香合は、陶器、蒔絵さまざまな技法、形、色合いの手のひらの芸術です。


愛らしい形に目を奪われ一通り楽しんでから、曜変天目を観賞しました。


ミュージアムショップでは、お茶道具のリーフレットを求めました。


帰りは下り坂。


上田秋成が記した煎茶の書『清風瑣言』を地元図書館の蔵書にあるのを見つけたので、立ち寄って借りることにしました。


帰ったら、茶葉を選んで、お茶をいただきましょう。


書を読み、茶を喫す。


静嘉堂へ出かけると、そうした時間を過ごしたくなるのです。




<最寄駅>

東急大手町線・田園都市線 「二子玉川」駅

詳細はホームページでご覧いただけます。


<今日買った本>

『静嘉堂 茶道具観賞の手引き』

静嘉堂 編集・発行


『静嘉堂 煎茶道具観賞の手引き』

 静嘉堂 編集・発行

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