二十二箇所目 東京藝術大学 藝祭 上野


 東京藝大附属図書館を体験し終わって、学生さんたちの出店をひやかしながら、上野公園の大噴水の辺りまで来たところ、おなかがきゅうきゅう言い出しました。

 そろそろ、ランチタイムです。

 大噴水前の広場に、ごはんワゴン車がずらりと並んでいます。


 藝祭に来たことだし、ふだんあまり食べないものがいいかなと思って選んだのは……


「日本初!!エジプト料理コシャリ専門キッチンカー」


 エジプトの国民食といわれる「コシャリ」のテイクアウトのお店です。

 お米、マカロニ、細かく刻んだスパゲティ、豆、ニンニクフライのミックスディッシュ、コシャリ。

 好きですよ、トマトソースをかけたりなどして、ざっくりまぜて食べる、不思議な味わいの一皿。


 初めて食べた時は、炭水化物+炭水化物+炭水化物にどうしようかと一瞬、躊躇したものでした。


 が、これが美味しいのです。


 エジプトセットには、ひとこ豆のペーストや、牛肉とオクラのトマト風味や、トルキッシュコーヒーや、ミントティーetcがつくそうです。


 さて、公園アウトドアでランチを済ませて、園内で開催されている藝祭アートマーケットへ。

 本屋さんはないかなときょろきょろしてましたら、ありました。


『東京藝大裏ガイド~あなたの知らない東京藝大~』制作ほん部 裏ガイド制作班 


 これこそ、ここでしか買えない一冊

 

 一味違う藝大紹介本です。

 目次に目を通しますと、これは!なタイトルが。


「東京藝大 逸話・伝説徹底収集」


 大学構内の(幽霊)と(都市伝説)がずらっと紹介されています。

 

 例えば、絵画棟には、赤いワンピースの人が降りてくるひとりでに動くエレベーターや、隙間の子どもと言われる幽霊がいたり、金工棟の木工室の窓が道具掛けになっているのはその窓から女性の幽霊が見えるという苦情があったからだとか、第二ホール音楽部声楽科に誰もいないはずの時に正確なミの音を出す幽霊が出るとか、地下であちこちつながっているとかetc。


 この本に掲載されていた内容は、「ただし、検証されてないので、自己責任でお楽しみください」とのことです。


 ……怪談、都市伝説を自己責任でって……


 霊感ある人は、自己責任暮らしだと、外歩けないのではないでしょうか。

 

 藝大は昨年創立130周年を迎えたとのことで、歴史あるところに怪談あり、ですね。


 ところで、学校の怪談といえば、みなさんも一つや二つ、母校の怪談を知ってますよね。


 ちなみに私出身小学校にもいくつかありましたが、子どもの頃怖かったのは、薪を背負って本を読みながら歩く姿の勤勉の権化二宮金次郎の話です。

 夜中、学校に泥棒が入ろうとすると、二宮金次郎が、しょっている薪をひょいっと引っこ抜いて、物凄く怖い形相で、思いっきり泥棒に投げつけて、防犯活動をしていると密かにささやかれていました。

 二宮金次郎のしょってう薪の本数が時々減っているのがその証拠だと、もっぱらの噂でした。


 他にもあるのですが、あまり口にしたくないので、この辺にしておきます。


 そうだ、ねえ、なつさん。

 なつさん、怪談を何か知ってますか、ってご本人が怪談ですけどね、こうして現代にうろうろしてるってことは。

 それはさておき、いかがですか。


 なつさんは、涼しい顔で、露店の本をひやかしています。


 確か、上田秋成は読んでましたよね、図書館で。

 怪談ものではなかったみたいですが、なつさん、いかがですか。


 重ねてききましたら、なつさん、思い出したという風に話してくれました。


 「たけくらべ」の美登利が墓参りに来てくれた、ですと?

 さすがに、それはないでしょう……

 美登利は、なつさんの書いた小説、すなわち、フィクションの世界の住人じゃないですか。


 え?証拠がある?その時の絵がある?描いたのは日本画の巨匠?

 それって、もしかして、鏑木清方かぶらききよかた画伯の描いた「一葉女史の墓」のことを言ってるのではないですか。


 え、そう、それですか。


 見たことありますよ、画伯の終焉の地、鎌倉の閑静な住宅街の旧居跡に建っている、鎌倉市鏑木清方記念美術館で。

 文学と画伯の絵の企画展でした、見たのは。


 一葉女史ことなつさん、あなたのお墓にもたれて、何やらもの思いにふける美登利の手には、初恋の真如との思い出の水仙がありましたね。

 美登利は、きっと、なつさんに、番外編でも続編でもいいので、真如に会わせてくださいと頼みに来たのではないですか。


 なつさんは亡くなってこの世の人ではないですし、美登利は物語の世界の住人で、やっぱりこの世の人ではないのですから、そっか、もしかすると、この世じゃない所で出会っていたのかもしれませんね。


 さて、なつさん、この後本を買いに行きたいのですが、どこかおすすめの所ありますか。

 そう難しく考えずに、なつさんのお知り合いで、この辺りにいらした方など教えてください。

 え、ああ、お医者さんがいましたね、わかりました、D坂を上って行ってみます。


 では、また、御縁があったらお会いしましょう、って、なんだか抹香くさい挨拶ですね、また会いたいですよ、なつさん。


 そういえば、出る人と、見る人、どちらが霊感が強いのでしょうね。




<東京藝術大学附属図書館 上野>

最寄駅 JR山手線「上野」駅他

関連ホームページで、詳細をご覧いただけます。


<今日買った本>

『東京藝大裏ガイド~あなたの知らない東京藝大~』

 ほん部 裏ガイド制作班 制作・発行




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