十七箇所目 パン屋の本屋 日暮里

 弱っている時は、パンが恋しくなります。


 ふかふかのパン。


 なじんだ地元ならではのパン。


 子どもの頃になじんだ味は、その人となりの一部になっています。


 だから、味覚にむやみに攻撃してこないのです。


 パンの本を買いに行こう。

 今日は、パンと本を買いに行こう。


 ちょっと気弱な昼下がり、思い立って、本を買いに行きました。



 おかずパンの店、天然酵母パンの店、フランスパンの店、ドイツパンの店、コッペパンの店、ペストリーの店。


 世の中に、美味しいパン屋さんは、増え続けています。

 でも、パンと本と一緒に買える店は、まだ少ないかもしれません。


 山手線の日暮里駅で降りて、谷根千界隈とは反対の方角へ。

 徒歩7,8分ほどで、その本屋さんに着きます。



 パン屋の本屋さん。



 ここは、パン屋さんと本屋さんの複合施設の中の新刊書店です。


 カフェや雑貨屋との複合本屋さんは増えましたが、パン屋さんと、というのは珍しいかもしれません。


 その日、晴れて気持ちのいい空気ごといらっしゃいませと招き入れるように、お店の引き戸は開けられていました。


 入って右側は絵本や児童書のコーナー、左手は街歩きやカフェめぐり、売れ筋の文庫本や一般書がきっちりと収まっている棚があります。


 そして、横長の店舗の真ん中にレジがあり、その隣りが、パンの本のコーナーでした。

 

 パンの本とひと口に言っても、パン作りの本、パンが出てくる小説、漫画、パン屋さんを紹介する本、パン屋さんの経営読本、パンの絵本、ガイドブック、世界のパンの紹介本etc、実に多彩です。


 一般的な書店をのぞいたら、それぞれの分野ごとに売り場が分かれています。

 つまり、あちこち移動することになります。


 本屋さんで移動しながらブラウジングするのは、楽しい時間です。

 ですが、ちょっと疲れている時には、しんどかったりもします。


 そんな時、この本屋さんは、パン本に関しておすすめです。


 パンに関する本が、縦横無尽に、しかも過不足なくセレクトされています。

 ぎゅっと、棚に、本のパンが詰まっています。


 自分の家の棚を思い浮かべながら、あ、このパン本うちにある、こっちのもある、このお店のおすすめのパン本読んだことある、この本のパン屋さんドキュメンタリー映画になったんだっけ、カフェの方にも行きたいな、最近行ってないから近いうちに行ってみよう、あ、“真夜パン”これはドラマ化したんだっけ、夜中にイケメンが食べもの屋さんやるのって、アンティークから流行し始めたのかな、あれは洋菓子だけどね、などなど。


 パンの本を前に、なんとなく気持ちが上向いてきたところで、今日のお目当ての一冊を手にとりました。


 『地元パン手帖』甲斐みのり著 グラフィック社刊


 著者が日本各地をまわって集めた、それぞれの土地で長年愛されている地元ならではのパンがカラ―写真満載で紹介されています。

 「地元パン」のラインナップは、食事パン、おやつパン、お菓子パンといったところでしょうか。


 パン本体のみならず、ぴったりデザインのお店のロゴやパンのロゴにパン袋、ユニークでかわいい、パン屋さんとパンのキャラクターなども、うれしいことにカラーで掲載されています。


 ぱらぱらと眺めていると、パン旅に出かけたくなります。

 それにしても、知らないパンの多いこと。

 地元ならではのパンって、こんなにあるんですね。


 みなさんにとっての地元パン探しは、ご一読いただくとして、私が気になった地元パンをあげてみます。


「ウエハウスパン」


 ウエハウスといえば、昭和の喫茶店で脚付きの銀のアイスクリームカップに盛られたバニラアイスに添えらえていたウエハウス。


 添えられていたのは、ウエハース?。


 ウエハウスパンは、大きめの長方形にカットしたウエハースで、バタークリームを塗ったやわらかなパンをはさんだものです。


 ウエハウスのカリっと感とパンのやわらかさとバタークリームの練りっとした甘さとが混然一体となって、日常の食事パンにはない特別感がありました。

 なにより、ピンク、パステルグリーンときれいな色のウエハウスが、子ども心に響きました。


 自分の地元パンではなかったのですが、流通の関係か何かでお店に入荷されていたのだと思います。


 さて、と、上を向いたら、ロシア民話の絵本『おだんごぱん』が目に入りました。


 棚の上の段に面出しになっているのを、背伸びしてとろうとしたら、表紙から、おだんごパンが転げ出しました。

 ぱんがしゃべる話なので、そんなこともあるのかもしれません。


 ふ、っと、香ばしいパンの匂いが漂ってきました。


 パン屋の本屋さんの中庭をはさんで向かい側にあるパン屋さんのドアが明けられていました。


 これは呼ばれてしまいます。


 パンの匂いをたぐるようにして、パン屋さんへ。


 イートインスペースで、中庭をはさんで向かい側の本屋さんを眺めながら、バニラの粒の香り高いふわふわのあらかわクリームパンと、なつかしい味の大きなきなこのコッペパン、the 日本のおかずパン!のちくわパンなど、この街の地元イメージのパンをいただきながら、遅めのランチ読書を楽しみました。



 世の中に、美味しいパン屋さんは、増え続けています。


 美味しそうな写真のたくさん載っているパンの本も、増え続けています。


 でも、心浮き立つパンの小説の本、もっとあってもいいかなと思っています。




<パン屋の本屋>


最寄駅 JR山手線「日暮里」駅

関連ホームページで、詳細をご覧いただけます。


<今日買った本>

『地元パン手帖』

 甲斐みのり著

 グラフィック社発行

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