十六箇所目 東京大学総合研究博物館・UTCC 文京区本郷

 本郷キャンパスを抜けて博物館へ行こうか、南北線で駒込に出て東洋文庫ミュージアムに寄ろうか、言問通りを下って根津神社を抜けて森鴎外記念館へ向かおうか、いっそのこと上野動物園にハシビロコウに会いに行こうか。


 こんな時、連れがいれば、上野桜木界隈に出て軽く昼飲みでもなのですが、さすがに一人で日のあるうちからというのは気が引けます。


 時計を見ると午後3時半を過ぎたところ。

 もうちょっと外をうろうろしていたい頃合い。

 ただ、電車で移動してだと、現地であまりゆっくりできそうにありません。

 ならば、行先は決まりです。


 言問通りをはさんで向かい側の東大本郷キャンパスにある、東京大学総合研究博物館へ。


 弥生キャンパスから歩道橋で本郷キャンパスにまず渡ります。

 構内をぶらぶらと、ぶらぶらと、歩いていきます。

 博物館は、赤門よりまだ先です。

 右前方に、重厚な校舎とは対照的な、ガラス張りの建物が見えてきました。


 UTCC――東京大学コミュニケーションセンターです。


 赤門の脇に建つコミュニケーションセンターには、大学の研究活動から生まれた商品やオフィシャルグッズが並んでいます。


 研究会に入るほど蓮の花好きの知り合いから、ここに大賀蓮おおがはすの香りをベースにしたオードパルファムがあると聞いていたので、立ち寄って香りを試してみました。

 清かで心に残る香りは、寺院の鐘を聴いた時のように、すっと鼻腔を抜けていきました。


 博物館関連の書籍も、こちらで扱っています。


 ここで目を惹いたのは、こちら。


『博士の肖像 人はなぜ肖像を残すのか』木下直之編 東京大学総合研究博物館


 歴代各学部の教授の肖像画、肖像彫刻の構内での所在調査をして、居場所の確認されたもののうちから計七十五点を紹介した展覧会の図録です。


 肖像とは、死者を追慕するもの……

 学校が存続し続ける限り、肖像となる死者も増え続けることになります。

 居場所の確保もしなければならなくなります。

 生きていても居場所を探し、死してなお居場所を探す。

 肖像とは、追慕のみならず、存在について考えさせられる呼び水でもあるようです。

 

 ラフカディオハーン像の浮彫は、機会があったら見てみたいです。


 図録を入手してから、足早に博物館へと向かいます。

 


 この博物館には、たまに訪れます。

 あまり人がおらず、いてもひっそりとしていて、好きな場所です。


 最初に訪れたのは、リニューアル前で、小惑星イトカワについての展示をしていました。


 ゴージャスな宣伝で、人で溢れかえっている博物館もあります。

 それも悪くはないのですが、生命体密度の低い、非生命体密度の高いここが、私にはしっくりきます。


 こちらの博物館はリニューアル後、「展示型収蔵」という試みがされていました。

 自動ドアが開くと、目の前に、大きなガラスケースが現れます。

  

 コレクションボックス。


 学術標本が俯瞰できるようなディスプレイです。


 自然標本、考古発掘出土品、骨格標本、剥製、中でも目をひかれたのは、小柄な人の丈ほどもありそうな、大きな、偕老同穴かいろうどうけつ(もどき?)。 

 細かな編み目状の筒には、二匹の海老が住まうのだとか。

 その二匹は雄と雌で、筒の中で成長するのでそのまま外に出られなくなり、そのまま二匹同じ場所で生涯を終えるのだとか。

 添い遂げる縁起ものとして、結婚式の祝辞で使われます。


 エントランスのコレクションボックスだけで、見る物が多く珍しく、けっこうおなかいっぱいになってしまいました。

 

 受付で博物館ニュースを受け取って、中へ進んでいきます。


 館内の構成は次のようになっています。


先史時代の考古学と人類学、地理学の関連の調査探検の標本蒐集を見ることのできる「モノの文化史」「エクスペディション」のコーナー、大型動物の標本の収集と研究の現場を垣間見ることのできる「無限の遺体」のコーナー、折々の企画展示、そして、「chronosphere」標本分析研究現場。


最奥に、放射性炭素年代測定室があります。

年代を測定する様子がガラス越しに見えるようになっています。 

最奥の部屋で加速器質量分析装置が稼働しているのを見ることができます。

年代測定、それぞれの資料体の同位体組成分析が実施されているとのこと。


オープンラボ。


リアルタイムでの活動が見られるというのが、この施設の面白いところです。


 最奥まで到達して、しばらく装置の稼働を見学してから、そろそろもどることに。

 

 ところどころ開けられている、標本や発掘されたものが仕舞われている引き出しを、気の向くままに見ながら出入口へ。


 生体エネルギーを発していないとはいえ、元生命のあったものたちと接しているというのは、緊張感があるものです。


 博物館の収蔵物には、時に闇を持つものもあります。

 表には出てきずらい時代の流れの中の闇です。

 博物館は、生けるものの尊厳について考える場でもあります。


 ファンタジーを楽しむ素養があれば、目の前を通り過ぎる人の骨格が浮かんだり、骨格に肉がついていくのが見えたり、そうなると脳も忙しくなってしまって、まったりなどしていられないのも博物館です。


 それはそれで面白いです。

 

 エントランスホール。


 自動ドアが開いて、とん、と、館内の空気に背を押されて、外へ。


 二、三歩よろけて振り返ると、コレクションボックスのガラスの向こうの埴輪と目が合いました。


 じゃ、またね、と首を傾げて挨拶すると、自動ドアが閉まりました。



<東京大学総合研究博物館・UTCC>


最寄駅 地下鉄南北線「東大前」駅

    地下鉄千代田線「根津」駅

    地下鉄丸の内線「本郷三丁目」駅

    地下鉄大江戸線「本郷三丁目」駅


※関連ホームページで、詳細をご覧いただけます。


<今日買った本>

『博士の肖像 人はなぜ肖像を残すのか』

木下直之編 

東京大学総合研究博物館発行

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