トロ部長と炙り部下

@buccando

第1話

店主:お客さん、今日はいい鮭がいっぱい入ってるからね。星飛雄馬のライバルだよ。

男客:「巨人の星」の? 何、それ。

店主:サーモン豊作、なんちゃって。

男客:若い子には通じない親父ギャグだね。ま、いいや。トロサーモン握ってよ。君は?

女客:私は炙りサーモン。それにイクラも。

店主:(少し間があり)へい、おまち。

女客:(口に含み)うーん、おいしいわ。

男客:君、こんなうまい店よく知ってるね。

女客:でしょ? でも部長にトロサーモン、お似合いです。脂がのってて濃厚な味わい。

男客:炙りだってうまそうじゃないか。

女客:部長に身を焦がしてますって意味よ。

男客:(小声で)やめなさい。こんな所で。

女客:奥さんといつ別れてくれるんですか。

男客:そ、その話なんだけどさ……。

女客:私はいつでもOKですよ。このイクラくらい子供たくさん産んじゃおうかなっと。

男客:俺たち、もう終わりにしようか。

女客:え? 何ですか、急に。

男客:実は、女房がどうしても別れてくれなくて……。すまん。これっきりにしてくれ。

女客:結婚してくれるって言ったのにぃー。

男客:家庭って刺身に似てるんだよ。いらないようでも、やっぱりツマはある方が……。

女客:ひどい! あんまりです(と泣く)。

(SE)包丁を板に突き刺す音。

店主:てめえ、俺の娘をもてあそんだのか!

男客:え、大将、この子のお父さん?

店主:許せねえ。殺してやる!

男客:く、苦しい…首を絞めな…いで……。

女客:パパ、やめて、手を放して!

店主:くそ! とっとと帰りやがれ。手巻きにして、東京湾でヅケにするぞ。

(SE)男客が逃げ、店の戸が閉まる音。

店主:もっと光モノがある男かと思ったが。

女客:でも、ちょっとやりすぎなんじゃ?

店主:そうだなあ。寿司屋だけに、手じゃなく、酢でしめるんだった。

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