第4話 バレンタインデーイブ

 ――午後八時半。


 美舞は、帰宅前に、日菜子からお土産を持たされていた。

 その紙袋を覗いたら、凄い事になっていた。


「さっき言っていたアレかあ……。ひなちゃん。オールマイティーな家政科部のハイジ部だけど、いっつも、悪いなあ」


「只今帰りました!」


 シャラン。

 シャラン。


 玄関のベルが、帰宅を知らせた。


「お帰りなさい、美舞」

 ハグをする、ウルフ。

 これは、日課で、やめないらしい。


「さ、おうちに入ってあたたまりな。お茶にしようか。母さんは居ないけど」


 リビングに二人で行った。

 ウルフは、レモンティーを美舞の前に置いた。

 自分には、甘いコーヒーを持って来た。


「日菜子さんにお世話になっちゃったね」

「そうなんだよ。僕は、今日だけではなく、いつもそうだと思うんだ。ひなちゃんの事ね、親切過ぎだよ」


「なら、別の形でお礼をしないとな」

「それは、成る程だね。……うちでご馳走って、ひなちゃんは料理は師範級だしな。僕には、演武位しかないな」

 少し肌寒かったので、あたたかいレモンティーは丁寧に体をあたためた。


「ゆっくり考えるといいよ」

 ウルフは、目を細めて、優しく見つめた。


「明日だな、バレンタインデーは。間に合って良かったな」

「うん……」


「あのさ、父さん。お願い事があるんだ」

「なんだい?」


 ドキドキ。


「め、目を瞑ってくださいませんか」

 緊張する父と娘。

「え? い、良いけど……」

 ウルフは、ロマンチストだから、尚更であった。


 ドキドキ。


「手を出してくださいな」

「は、はい」


 ドキドキ。


「も、もう、目を開けてください」

「そうか」

 ウルフは、瞼をゆっくり上げた。


「みーまーいー! 美舞! びっくりしたぞ!」

 ハグをして来た。

「と、父さん、息が苦しいよ」


「可愛いなあ。オーソドックスの赤いハートの箱。この真ん中にある七本色違いのしゅるっとした細いリボンは?」

「うん、爪でしごくとそうなるんだ。ひなちゃんの借りました。てへっ」


「中身は、分かっている。ありがとう、美舞」

「父さんと一緒に作ったから、忘れられない『バレンタインデーイブ』になったよ。僕は、父さんが大好きなんだ」


 美舞は、別に赤いハート柄の包み紙でラッピングされたのを出した。

「これは、ひなちゃんから、父さんにって」


「日菜子さんから? 開けてもいいかい?」

 にゃんきちのセーターが入っていた。

 ハイジ部部長、日菜子の手編みである。

「うう、余り、おじさんを泣かせないでおくれ……」

「父さん……」


 シャラン。

 シャラン。


「たーだいま! よいしょっと。母さんのおかえりよー」

 マリアの帰宅であった。

「お帰りなさい」

「お帰り、ハニー」


「どうしたの? 二人ともニヤニヤして」

「てへへ」

「いや、まあ……」


「ここは、寒いし、リビングに行こうよ、母さん」

「そうね」


 マリアの前には、甘くないコーヒーが置かれた。

「はーい、ウルフ。ゴルビのチョコレート。日菜子さんのママとランチしに行って買ってきたの。大奮発よ」

 高級感溢れる黒い箱に入っていた。

「お、おう、それはすまないな。後で食べていいかい?」


「どうかした?」

「いやいや、大人だなって。マリア母さんとウルフ父さん」

 美舞は、やはり子供なのだと自認した。

 少しがっかりした。


「美舞、気落ちなんてするなよ? 立派に拵えたではないか」

「ありがとう、父さん」


 ――午後九時半。


 それから、四人で晩ご飯にした。

 いつにも増して、賑やかであった。

 美舞は、父さんがあんなに喜んでくれた事を素直に大切にしようと思った。


 バレンタインデーは、イブも大切で、好きな人を想い、チョコレート菓子やラッピングを手作りをして、自分と向き合う時間があるのは良い事の様だ。

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