第20話 3つの戦

「そうはいかせぬっ…」


「残念だけどそういかせてもらうぜ。」


月夜とスキュアに襲いかかる剣士の横腹を蹴り飛ばし、何十人…もしくは百人に及ぶ剣士の前に立ちふさがる。


「貴様…1人で拙者らを相手にするつもりか…」


「まぁそんな所かな。雑魚お前らの相手は脇役で十分さ。物語でもそうだろ?主人公は先に行かせるもんだ。」


「このっ…!手加減はせぬぞ!!」



月夜はただただ真っ直ぐ走り続けた。もちろん敵は襲いかかってくるが意にも介さない。それは前を走る世界最強のおかげだった。


「がぁぁぁあ!?」


「”雷陣”。あなたたちじゃ私には触れられない。」


雷陣はスキュアを中心にドーム状に形成した雷のシールド。当然ながら、刀などで斬りかかれば感電する。一応、死なない程度に電圧は抑えているがそれでも成人男性を気絶させるには十分すぎる。


「スキュアさん!この襖の先です!」


「了解。ぶち破る。」


言葉の通り、大きな襖を消し炭にしながら堂々と名乗りを上げた。


「私は”鈍色の英剣”団長スキュア=ミレ=サンダースレイ。大人しく投降するなら手荒にはしない。」


しかし一段高い畳に座る男はその表情を変えずに冷淡な声色で三十人ほど居る武士に命令を告げた。


「…やれ。」


完全な鎖国政策を執っているミョウチョウにはスキュアの雷名は轟いていないようだ。恐れなど一切ないまま怒声と共に距離を詰めてくる。


「仕方ない…」


スキュアの神速の斬撃は敵を縫うように、紙のように切り裂いた。瞬く間に全員を戦闘不能に追いやると命令を降した男はやや動揺したが、直ぐに冷静になる。


「ほぅ…貴様強いな。俺の部下にならぬか?」


「お断り。」


「そうか…右近、左近!」


すると男の影から二人の剣客が現れた。かなりの長身で大剣を腰に刺した同じ顔の男達。


「スキュアさん!ミョウチョウの二大剣士、”大撃”右近と”連撃”左近です!」


「…センスのない2つ名…。」


「「ああ!?今の俺達に言ったのか?」」


「そう。だってその通りでしょう?」


「「いい度胸だ!!遊んでやるよ!」」


見事にシンクロする声にスキュアは頭が痛そうに顔を顰めた。双子テレパシーもここまで来れば超能力だ。


「すぐ終わらせる。」


「まぁ待てよ、スキュア。」


獰猛な殺気を放ちながら彼が戻ってきた。右近と左近はそれを獣だと勘違いするほどに荒々しかった。


スキュアを氷とするならアルは炎。それ程に対照的だった。


「アル。じゃ左をお願い。」


「おう。月夜、お前は奥のハゲだ。」


「えっ!?わ、私もですか!?」


悲鳴にも似た声を上げた月夜は酷く動揺していた。奥の男は殿。他の国で言う王のような存在だ。ミョウチョウにおいては神にも等しい権力を持つ男に挑むというのは勇気がいる行為だ。


「大丈夫だ。お前はもう弱くない。」


頭を撫ぜるとアルは腰の刀をスラリと抜きさり左近の間合いのギリギリ外まで無防備に歩く。


「よし、やろうか。ここからは何も聞こえないから遺言は今のうちに聞いておく。」


「…くくく…貴殿強いな。ただの抜刀だけで分かるぞ!強者との戦いは心が踊る…!久しく忘れていた感覚だ!参る!!!」


対して右近とスキュアの戦いは静かに始まろうとしていた。双方ほぼ同時に剣を抜き、無言のまま構えをとる。


「………」


「……参る。」


そして左右の戦いの火蓋が切られたのを見送り、月夜は静かに目を閉じた。


思い浮かべたのはたった2週間ではあるがアルと行った修行。それは月夜に自信をくれた。満月の晩、アルがくれた言葉は月夜に勇気を施した。そして今の言葉が月夜の原動力となる!


「…拙者…いや、あたしは輝夜月夜かぐやつくよ!アルゼーレ=シュナイザー師匠の一番弟子!!アスカは返してもらう!!」


「殿に刃を向けるか…!!この狼藉者がァ!!その罪、死によって詫びよ!!」


3人目の戦いは幕を開けた。

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