第4話 スキュアの指導


「……あれ…俺、寝て……ってやべえ!?」


「ん、起きたみたいね。」




「サンダースレイ!俺は何時間寝てた!?てかなぜ寝てた!?」


「スキュア。」


「クソ!一刻も早く鍛錬せねば!」


「スキュア。」


「……サンダース「スキュア」……スキュア」


頑なにスキュアと呼ばせたがっていた。そしてその答えに満足したかのようにうんうんと頷いて口を開いた。


「貴方は21時間と24分寝ていたよ。今から特訓つけてあげる。覚悟してね・・・・・・


覚悟そんなもんは五年前のあの日、心得たさ。殺す気で頼む。」


心の底から這い寄るような恐ろしい声色を発したスキュアに負けじと強い意志を込めて返事を返す。アルには時間が無い。やれることはやる。



♢♢


「これから私達がするのは模擬戦。貴方が気を失うまで私は手加減しない。」


「模擬戦…。まぁアンタ…スキュアがそう言うなら俺は全力で挑む。」


スキュアは本気と言ってもあくまで模擬戦での本気だ。命の取り合いの中で生まれる本気とはまた別の方向性での全力だ。


「じゃあ…行くよ。」


「おう゛っ!?」


「おう」という返事すらさせてもらえない程に速く、強い。僅かなひと踏みでアルの間合いまで侵入し、木刀で腹部を一閃。ただそれだけの単純な一撃が信じられないほどに強力な武器になる。これがSランク。これがスキュア=ミレ=サンダースレイなのだ。


「”蓮華”」


「うぐ…ぐぁっ!?がっ!…う゛!?」


息もつかせぬ連撃がスキルと呼べるほどに洗練されている。1度振られた剣は止まることなく流れるように次への斬撃に繋がる。これがスキュアの”蓮華”だ。


防ごうと剣を盾にすればそれを躱して叩き込まれる。対処法が見つからない。とりあえず距離が欲しい。


「ぅぁあああああ!!」


「なかなか速いけど…まだまだ未熟。」


アルは想定通り大振りでバックステップさせた。だが、完全に軌道を読まれて最小の動きで避けられ、もう一方はいなされる。


「がぁぁぁああああ!!!」


「まるで獣。荒々しすぎる。それじゃあ当たらないよ。」


一心不乱に双剣を振り回すがその全てが掠りもしない。涼し気な表情でその全てを躱していく。足捌き一つ取っても僅かにも及びばない。これが世界最強。…もしこのまま続けても攻撃は通じないことは目に見えていた。




「っ!?……今のは…?」


「ぐ…ぅ……なんの…ことだ……?」


アルは殺意を込めてスキュアを睨みつけた。スキュアならいくらでも浴びてきた視線のはずが、怯んでいる。



スキュアは思った。かつて苦戦した”エンシェントドラゴン”との死闘の際も、他のSランクから浴びせられる敵意や嫉妬の感情でも、これほどまでに濃密な殺意の感情を感じた事があっただろうか?寧ろアルのそれ・・は狂気と呼ぶに足るものである。


「……アル……」


「スキュア……?何泣いてんだよ…?」


「アル…。貴方は、弱くなんてないよ。誰に負けても…何回負けたって……貴方は…立派だよ。」


目の前にいる少年はこれほどの狂気を携えなければいけない程に追い詰められていたことを改めて理解したスキュアはそんな友を想うと、涙を堪えることが出来なかった。


彼は弱くない。それ程までに約束を守ろうとしている我武者羅な姿は健気で、美しく、羅刹のように恐ろしい。ミーナと言う友のために身を切るアルを思えば涙の量は増していく。


「…ごめんなさい……。今日は終わり。明日また来るから」


「おい!スキュア!」


スキュアは木刀を地に刺しその場を後にした。地面を濡らした雫とアルを残して。スキュアは優しい。命のやり取りであろうともトドメをさせない程に。そんな彼女がアルの修羅の道を見届けることが出来るのだろうか。これからアルはより一層傷を増やすことだろう。それは肉体的なものだけではなく、精神的にも傷ついていく。スキュアはそれに耐えられるかは分からない。それでもアルの元から離れていくことはないだろう。スキュアにとってアルは初めてで、唯一無二の友なのだから。


「…なんなんだ……?」


ただ、その場に残されたアルはそんなスキュアの胸の内をまだ知る由もない。そして呆然としている時間もなかった。この後もまた、激しい打ち身を気にすることなく無謀な訓練に身を投じるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る